毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、スズキコージさんよる『?あつさのせい?』。1993年に雑誌「おおきなポケット」に掲載され、翌94年に出版されたロングセラーです。
とても暑い日。馬のはいどうさんは駅のベンチに帽子を置き忘れてしまいました。すると、それを拾ったキツネはカゴを忘れ、カゴを拾ったブタはシャンプーを忘れ…。動物達が落とし物を拾い、次は自分のものを落としてしまってつながっていく、ユーモアたっぷりのお話です。それもみんな暑さのせい?
まず表紙からして強い印象が残ります。個性的な身なりをした擬人化した動物達と、頭上からねっとりとした熱を放射する太陽。暑い一日をより暑くするような密度の高い絵です。タイトルの「あつさのせい」という文字を実際に挟んでいるのは、スペイン語の疑問文に使われる逆疑問符(ひっくり返った「?」)と疑問符(「?」)。極彩色の色合いも相まって、どことは知れない国の時代も不明な、スズキコージさんの世界へ一気に連れて行かれます。
隅から隅まで描かれた絵は生命力にあふれ、迫力満点。動物達だけを見ても、それぞれ個性豊かに描かれています。ファッションにも特徴があり、白いスーツに身を包んだ馬、おそろいのワンピースを着た豚の母子、新しい帽子やスカーフを身につけて自分の姿に見とれるキツネやクマ。さらに、はいどうさん、とりうちくん、さんきちなど、一度聞いたら忘れられない名前。思わずそれぞれの人生を想像させる面白さです。
絵の密度・迫力に対して物語の脱力感に落差があり、作品の大きな魅力のひとつになっています。登場する誰もが暑さのせいでぼーっとしています。うっかり忘れものをし、その忘れ物を次に来た動物がちゃっかり自分のものとし、その動物もうっかり忘れ物をして…と、「うっかり」と「ちゃっかり」をぐるぐるくり返して話が進みます。
大人としては「道徳的にどうかしら?」と気になるところも、子ども達は大笑い。うっかりもちゃっかりも軽快で、誰もが上機嫌。話が丸く収まる頃には、暑さでぼーっとしているくらいが世の中ちょうどいいのかも…という気すらしてきます。
最後に気になるのが、裏表紙の絵です。カメラを構える監督風の動物と話す、登場人物の牛の山口さん。もしかしてこの物語は、シナリオのある映画だったのかも…。そんな大きな「?」を読後に残す、不思議な味わいの物語です。
<ミーテ会員さんのお声>
夏休みに入り、久しぶりに3人に囲まれて、寝る前にベッドで2冊読んだ。図書館で大量に借りた絵本から選んだのは、末っ子長男が好きな『エンソくん きしゃにのる』と、同じススギコージさんの『?あつさのせい?』。「エンソくん」はもう何回も読んでいるので隅々まで知っている。「?あつさのせい?」は初めて読んだ。長女は「なんで人の忘れ物を自分の物にするの?」と不思議そう。でもナンセンスな話のパワーに、みんなグングン引き込まれた。(2歳7か月の男の子、7歳7か月と8歳9か月の女の子のママ)
スズキコージさんの作品では、『エンソくん きしゃにのる』もロングセラー&名作ピックアップで紹介しています。ぜひのぞいてみてくださいね。
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