毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、はみ出るほどに大きく描かれた表紙のトマトがインパクト大の『トマトさん』。2006年に出版された、田中清代さんの代表作です。
夏の昼下がり。真っ赤に熟れたトマトさんが、木から地面に落ちました。小川に飛び込んでいくミニトマト達を見て、トマトさんも泳ぎに行きたくなりますが、体が重くて動けません。照りつける太陽の下、ほっぺが痛いくらいに熱くなったトマトさんは、悲しさのあまり涙をぽろりと落とします。
本当は泳ぎたくてたまらないのに、自分の心に蓋をして、「ぷかぷか泳ぐのなんかみっともない」などと強がってしまうトマトさんでしたが、涙の訳を知った虫やとかげに助けられ、とうとう小川へじゃっぷーん! 熱気むんむんの畑から、冷たい水の中へ…その温度差まで伝わってくるような、夏ならではの絵本です。
注目したいのは、トマトさんの表情。素直に「小川に行きたい!」と言えずにいる間は、どこか虚無感の漂う顔つきですが、そこから大粒の涙をこぼす悲しげな顔に変わり、念願かなって小川にダイブした時には、何ともうれしそうな、満足感たっぷりの顔に! その表情の変化から、トマトさんの心の動きがとてもよく伝わってきます。
作者の田中清代さんはインタビュー(後編)の中で、過去のご自身を振り返って「言いたいことがあっても、わりといつも我慢してしまうタイプだった」と語っておられます。ある時、親子げんかをきっかけに、涙を流しながら自分の思いをぶつけたことがあったそうで、『トマトさん』はその時の心境を重ねながら描いたとのこと。だからこそ、見る者の心を捉える作品となったのでしょう。
<ミーテ会員さんのお声>
表紙のお顔が印象的な『トマトさん』。トマトさんが転がって川へと飛び込むシーンは、絵本をダイナミックに揺すったりして、絵に負けない迫力の演出で読んでいます。それにしても、この絵本はトマトさんの造形、お顔がいいですねぇ。「どこが面白い?」と聞いたら、息子も「ここ!」と表紙のトマトさんのお顔を指差していました。(3歳4か月の男の子のママ)
トマトが木から落ちる時の「どった」、川を浮き沈みする時の「ぶくぶく ぷっくり」、気持ちよさそうに泳ぐ時の「どっぷん とっぷん」など、独特のオノマトペも魅力のひとつ。大胆かつ繊細な絵は、銅版画に水彩を重ねて描いているそうです。
完熟トマトとあって、なんだか大人の色気すら感じさせるトマトさんですが、実は田中清代さんの前作『みつこととかげ』にも登場しています。あわせて読んでみると楽しいですよ♪
▼田中清代さんのインタビューはこちら
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