vol.26 えがしらみちこさんの推し絵本
思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回は、『あめふりさんぽ』の作者で、静岡県三島市の絵本専門店「えほんやさん」代表でもある絵本作家えがしらみちこさんにご登場いただきます。
子どもの頃に大好きだった絵本は、『めっきらもっきら どおんどん』です。家にあったのは薄い絵本だったので、妹が幼稚園から持ち帰った月刊「こどものとも」版だったんだと思います。小学校低学年の頃にひとりで読んでいたんですが、ちょっと怖い感じも含めて好きで、すっかりその世界に入り込んでしまいました。
特に好きだったのが「おたからまんちん」とのお宝交換のシーン。ビールの王冠を「ビールおうさまのかんむりか」という台詞がすごく好きで、おじいちゃんがビールを飲んだ後の王冠がかわいく見えてきました。
この絵本を大人になって読み直した時、こんなにページ数が少なかったのかと驚いたんです。ビールの王冠と交換でもらった水晶玉の絵も、もっとキラキラ輝いていたように記憶していたんですが、意外とシンプルで。きっとそれだけ絵本の世界にどっぷり浸かって、想像して遊んでいたんでしょうね。
娘が赤ちゃんの頃は、とよたかずひこさんの『どんどこ ももんちゃん』をよく読みました。赤ちゃんに読むなら、シンプルな絵とわかりやすいお話の絵本がいいだろうと思って、図書館で試しに借りてみたら、リズム感がとてもいいし、声に出して読むと気持ちよくて。娘も、くまさんを投げ飛ばすところとか、じーっとよく見ていたんですね。その後も、ももんちゃんはシリーズで読んで、くり返し楽しみました。
子どもが生まれるまでは、絵本と言うと、空想の世界に行って帰ってくるようなお話の絵本のイメージが強かったんですが、こういう赤ちゃんにダイレクトに響くような絵本もあるんだなぁと知りました。『あめふりさんぽ』をはじめとする「おさんぽ」シリーズを生み出せたのも、娘の赤ちゃん時代にいろいろな赤ちゃん絵本との出合いがあったからだと思っています。
娘は小学6年生になりましたが、今もたまに一緒に絵本を読んでいます。最近も、昼間に楽しいことがあって気分が高揚してなかなか寝つけない時に、絵本を読んだらすーっと寝ついた、ということがあって。その時読んだのは『ちいさないえのりすいっか』と『あきちののはらのおくりもの』なので、特に寝かしつけの絵本ではないんですが、絵本って気持ちを落ち着かせてくれる効果もあるんだなぁと感じました。大人もなかなか眠れない時は、絵本を読むといいですよ。
私の絵本だと『わたしは いいこ?』を推したいです。
以前、娘に『いいこってどんなこ?』という絵本を読んだことがあったんですね。うさぎのぼうやがお母さんに「いい子は、絶対泣かない子?」「おこりんぼは、いい子じゃないよね」などと尋ねて、お母さんがやさしく「泣いたっていいのよ」「怒ってるあなたも大好きよ」と答えていくお話なんですが、お母さんの受け答えを聞くたび、娘もうさぎのぼうやと同じように驚いていたんです。もしかしたら娘の中にも「いい子」像があって、そうあらねばならないと思ってしまっているのかな、と不安になりました。
また、クリスマス前にお買い物をしていたら、近くで「サンタさん来るかなぁ?」とお母さんに聞いている子がいて、お母さんが「いい子にしてたらね」と答えていたんです。そうしたらその子がすごく心配そうな表情になってしまって。お母さんの気持ちもわかるけれど、酷だなぁ、ずっと見張られているようで息苦しいだろうなぁと思ったんです。「こうしなさい」と具体的に言われればわかりやすいけれど、「いい子」ってかなり抽象的で広い意味が含まれているから、常にいい子でいることを求められると、子どもはつらいと思うんですよね。
その上、子どもは「いい子でいないと愛されない」と思ってしまいがち。親は子どもがいい子であろうといい子でなかろうと、子どものことが大好きなんだよ、ということを伝えられたらと思って、『わたしは いいこ?』をつくりました。この絵本をきっかけに、「そのままのあなたが大好き」とお子さんに伝えてもらえたらうれしいですね。
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赤ちゃん絵本を楽しもう!『なきごえバス』に込めた思いインタビューの中でご紹介した『わたしは いいこ?』に直筆サインを入れていただきました。ミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
えがしら みちこ
1978年、福岡県生まれ。熊本大学教育学部卒業。主な作品に『あめふりさんぽ』(講談社)、『なきごえバス』(MOE絵本屋さん大賞2016パパママ賞第1位、白泉社)、『いろいろおてがみ』(小学館)、『あのねあのね』(あかね書房)、『あなたのことがだいすき』(原案・西原理恵子、KADOKAWA)などがある。2018年10月、静岡県三島市に絵本専門店「えほんやさん」をオープン、代表として運営に関わっている。