絵本作家インタビュー

vol.10 絵本作家 とよたかずひこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回ご登場いただくのは、元気な赤ちゃん「ももんちゃん」シリーズでおなじみの絵本作家・とよたかずひこさんです。講演会や原画展にひっぱりだこで、日本中を駆け回っているとよたさん。絵本作家になったきっかけや読み聞かせ会について、絵本づくりにおけるこだわりなどを語っていただきました。ももんちゃん制作エピソードは必見ですよ!
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・とよたかずひこさん

とよたかずひこ

1947年、宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。イラストレーターを経て絵本作家に。1997年、『でんしゃにのって』(アリス館)が厚生省中央児童福祉審議会児童文化財特別推薦を受ける。『どんどこももんちゃん』(童心社)で第7回日本絵本賞受賞。『あめですよ』が小学1年生の国語の教科書(東京書籍)に採用される。主な作品に「バルボンさん」シリーズ(アリス館)、「ももんちゃん」シリーズ(童心社)など。『いきものいっしょうけんめい』(ポプラ社)は中国語版が、「しろくまパパ」シリーズ(岩崎書店)は韓国語版が出版されている。

絵本を描きはじめたのは娘のため

僕は小さいときに絵本を読んでもらった記憶がないので、娘にせがまれて絵本を読み聞かせしたのが、僕の絵本との出会いです。これなら僕にも描けるんじゃないかと思ったんですよね。同じ絵を描く仕事なら、娘が喜ぶ絵本を描いてやろうかなっていうのが、絵本作家になったきっかけです。平凡な理由で、ちょっと悔しいんだけど(笑)

絵本作家として駆け出しの頃の作品は、今見ると、肩に力入ってるなと感じますね。どこまでちゃんと子どもを見ているか、その洞察力が今とは全然違いますから。絶版になった本も含めると80冊くらい絵本をつくってきたんですけど、年を重ねるごとに作風は自然と変わってきました。絵本作家としてのスタートがそもそも遅かったんですが、50歳を過ぎてからの方が描けるようになってきたんですね。だから出版社の人からは「とよたさん遅咲きだよね」なんてよく言われますよ。

制作期間イコール、人生の年数

『でんしゃにのって』

▲うららちゃんののりものえほんシリーズ『でんしゃにのって』(アリス館)

読み聞かせ会に行くと、子どもから質問があるんです。「この絵本をつくるのにどのくらいかかりましたか?」って。今僕は60歳なんですが、60歳のときの作品なら「60年間」という答えが一番正しいんじゃないかと思ってます。60年分、いろんなものが積み重なって、全部混ざり合って、この絵本ができてるわけだから、「今年の4月から始めたから5カ月だよね」とは答えられないんです。

これまでつくった絵本の中でも特に思い入れが強いのは、50歳のときにつくった『でんしゃにのって』(アリス館)。もううちの娘たちは読者対象ではなくなっていたので、きざな言い方をすれば、自分が自分のためにつくったような作品です。

子どもの頃、冬になるとよく仙山線という電車に乗って親父とスキーに行ったんです。その電車で、おばあさんが手動ドアを開けて「おじゃましますよ」と入ってくる様子を見たことがあって。『でんしゃにのって』は、そのことを思い出して描いた絵本なんです。うららちゃんのおばあちゃんが待つ「ここだ駅」は、小牛田(こごた)駅が由来なんですよ。

スーパー赤ちゃん「ももんちゃん」は男の子

『ゆーらりももんちゃん』

▲ももんちゃんシリーズ最新刊『ゆーらりももんちゃん』(童心社)

「ももんちゃん」シリーズは、親も楽しめるようにとつくり始めたんです。読んであげる親が楽しんでくれれば、読んでもらう乳幼児も楽しいんじゃないかと思ってね。

思いついたキャラクターは、自立した“スーパー赤ちゃん”。桃太郎の桃をモチーフとしているので、ももんちゃんは僕の中では男の子なんですよ。女の子だと思っている方も多いと思いますけど。「ももんちゃん」と「ん」をつけたのは、よく胃薬を飲んでいた親父が「かずひこ、売れる薬はどれも『ん』がつくんだぞ」なんて言っていたから。キャベジンとかパンシロンとかね(笑)

シリーズで続けてつくっていく場合は、背景固めをしっかりします。お話の中に出てこなくても、この子は一体どこに住んでいて、どういう家庭で育って、どういう性格の子なんだっていうのを、つくっていくわけです。たとえば、ももんちゃんにはお父さんがいなくて母一人子一人とか、大平原の近くに住んでるとかね。読む人の好きなように考えてもらえればいいと思っているので、絵本の中には具体的に描かないんですけど、僕の中ではそういうことになっています。

きんぎょ、おばけ、サボテンといったももんちゃんの仲間たちは、大平原にはサボテンかな、サボテンを登場させたらちょっと水気がほしいから、それならきんぎょかな、ちょっと暑いから、おばけが出てくると涼しいかな、なんて感じで、ふと思いついて描いています。理屈で考えてつくってるわけじゃないんで、どういう発想なんですかって質問されても困っちゃうんですけどね。

背景を描かないのは、想像力にゆだねたいから

文章を書いてそれに絵をつけるとなると、どうしても言葉を削っていく作業が必要になると思うんですが、僕の場合は絵と文が同時に出てくるんですよ。絵と言葉の両方で語るわけだから、最初から最低限の言葉だけしか出てきません。

犬は「わんわんわん」、猫は「にゃあにゃあ」。そこに変にこだわったり個性を加えようとしたりはしませんね。みんなが持っている音感とほとんど同じなんじゃないかな。赤ちゃんには「ぱぴぷぺ」の音がいいとか、そういう理屈から入った絵本もあるけど、そういう絵本は、擬音語、擬態語に対するこだわりが見えすぎちゃうんですね。僕は特にそんな風に意識してるわけじゃなくて、ストーリーに沿って普通に当たり前な表現をしているだけ。本当にシンプルにつくってます。

絵については、隅々まで描く絵本っていうのもあるけれど、僕の場合、子どもの想像力にゆだねたいというのもあって、背景はあまり描きません。余白があるから楽かといったらそうでもなくて、余白があるからこそ、その分一生懸命なんですよ。

その余白の中にどういう風に文字を入れるのか、割付まで自分でやります。このページの文字は右から何センチ何ミリ、上から何センチ何ミリのところ……という感じに細かく指定するんです。絵本は絵と文字が一緒になってるわけだから、じゃあ文字は編集者におまかせねっていうわけにはいかないんです。最後の最後まで、背の文字から何から全部やります。そんな風にしてつくるから、どうしても時間がかかりますね。


……とよたかずひこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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