Vol.60 『ねむねむ こうさぎ』作者・麦田あつこさんインタビュー
赤ちゃんとの絵本の時間を楽しみたい、すべての方へ。選りすぐりの赤ちゃん絵本の誕生秘話や、作家さん・編集者さんが絵本に込めた思いを伺いました。赤ちゃん絵本を楽しむヒントが詰まったインタビュー、今回は、絵本の編集者で、絵本作家としてもデビューした麦田あつこさんにご登場いただきます。
森山標子さんの描かれるうさぎは、デフォルメしない、自然でリアルなうさぎ。手描きのタッチに、安心感とあたたかみが宿っています。プリントアウトした大量のうさぎ画を眺めつつ、森山さんに、子どもの本の世界に来ていただくためには、どんな企画がよいのだろうかと、編集者の頭であれこれ考えていました。
当時、私は長く勤めた出版社から独立し、何か新しいことをやってみようかと考え始めていた時期でした。ブロンズ新社の編集長の若月さんから「赤ちゃん絵本のテキストを書いてみたら」と言っていただき、そのことばが、ずっと頭にあった森山さんのうさぎの絵と重なり、こうさぎ絵本の企画のスタートとなりました。
『ねむねむ こうさぎ』では、ようやく寝かしつけてほっとして、ふとふりかえったら、暗がりのなかで、目をぱっちりひらいている赤ちゃんと目が合い、「!!!」となる瞬間を、絵本で表現できたらと思いました。泣き出す前の、時空がゆがむような一瞬の静けさとか。「ねがえり こってん ぱったん ころりん」は、まさにうちの息子で、「ほんとに?」っていうくらい、眠りながらあちこちころがっていましたね。
『こうさぎ ぽーん』も、息子や、まわりの子ども達そのままの姿です。興奮の極みのような笑い声を響かせて、「楽しくてどうにかなりそう」って様子で逃げていく。「ただ追いかけるだけで、こんなに喜んでくれるのか…」というのは、母になってから受けた衝撃でもあったので、その感じが出たらいいなと思いました。
テキストは最初、うさぎの世界と人間の世界が入り混じるような、もっと複雑なものでした。でも、企画の途中から、編集者として佐々木さんが入ってくださり、「赤ちゃんのすぐそばで過ごせる、あの特別な時間を、存分に味わえる絵本にしましょう」と、方向転換をしてくれたことで霧が晴れ、一気にテキストの方向も定まりました。
赤ちゃん絵本は、コミュニケーションツールとして実用的に使ってほしいので、何度読んでも苦にならない短さ、簡単さ、を心がけました。子どもに「もういっかい」と言われたときに、「はいよ」と気軽に応じられるもの。エネルギーを使い果たした一日の終わりに、「これくらいなら、読もうかね」と、がんばらないで手に取れる楽な本として、存在できたらいいなと思いました。
気楽なコミュニケーションツールとして、ゆるく楽しんでほしいです。人間界に来たての特別な時間にいる赤ちゃんを膝に乗せて、絵本を読んであげる特別なひとときを、がんばらないで、きらーくに、味わえるとよいですね。
本と仲良くなっておくと、長い育児マラソンの道行きが、楽しく味わい深いものになるので、お子さんだけでなく、お父さんお母さんご自身が、自分のためにお茶と読書を楽しめるひとときを確保できるといいなあ、とも思います。
麦田あつこさんと森山標子さんの絵本『ねむねむ こうさぎ』と『こうさぎ ぽーん』に直筆サインを入れていただきました! ミーテ会員4名様に抽選でプレゼントします。
『ねむねむ こうさぎ』『こうさぎ ぽーん』のご紹介はこちら
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
麦田 あつこ
千葉県出身。子どもの本の編集者。ブロンズ新社勤務を経て、フリーランスとなる。『だるまさんが』(作・絵:かがくいひろし)、『りんごかもしれない』(作・絵:ヨシタケシンスケ)、『しごとば』(作・絵:鈴木のりたけ)など、数多くの絵本の編集を手がける。『ねむねむ こうさぎ』『こうさぎ ぽーん』で絵本作家デビュー。やさしく耳に響くやわらかなことばと、ユーモラスな擬音語、リズミカルなテンポが特徴的な作風。1児の母。