絵本作家インタビュー

vol.33 絵本作家 さいとうしのぶさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、歌って遊んで楽しめる絵本『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』でおなじみ、さいとうしのぶさんです。人気絵本の誕生エピソードや絵本づくりにおけるこだわりのほか、ライフワークとして続けられている手づくり絵本の活動、ご自身の子育てについてなど、たっぷり語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・さいとうしのぶさん

さいとうしのぶ

1966年、大阪府堺市生まれ。嵯峨美術短期大学洋画科卒業。インテリアテキスタイルなどのデザイナーを経て、インターナショナルアカデミー絵本教室に学ぶ。絵本創作のかたわら、手づくり絵本を広める活動もしている。主な作品に『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』『しりとりしましょ!』(以上リーブル)、『ぎゅうって』(ひさかたチャイルド)、『子どもと楽しむ行事とあそびのえほん』(文・すとうあさえ、のら書店、第55回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞)、『たこやきようちえん』(ポプラ社)などがある。

卒業文集に書いた夢は「絵本作家」

『よーいよーいよい』

▲今月、11年の歳月を経て市販本として出版された、さいとうしのぶさんのデビュー作『よーいよーいよい』(ひさかたチャイルド)

小さい頃は、父に「てっぽうたまこ」なんて呼ばれるくらい、元気な子どもでした。出かけて行ったら帰ってこない、みたいなね(笑) 絵を描くのも昔から好きでしたね。

小学校2年生のときに、広告の裏を利用して、絵本をつくったんです。『きゅうりとウイリー』というお話なんですけど、母がすごく褒めてくれて。せっかくだからちゃんと製本しなおしたら?と、わざわざ画用紙を買ってきてくれたんです。それで、もう一度描き直して、父が字をきれいに書いてくれて、一冊の絵本ができあがりました。学校に持っていったら、先生からもすごく褒めていただいて、みんなの前で読んでくださって。それからクラスで絵本づくりがブームになったんですよ。小学校の卒業文集には、絵本を描く作家になりたいって書いていました。

デザイナーという職業にも憧れていたので、大学卒業後は、インテリア関連のテキスタイルのデザイナーになりました。5年間会社勤めをして、結婚して、その後も家で仕事をしてみたり、また会社に勤めてみたりして……それなりに楽しかったんですけど、ちょっと体調を崩してしまったり、いろいろなことが重なって、このままではいけない、自分を見直そうって思ったんですね。それがちょうど30歳のときでした。そのとき思い出したのが、絵本作家になりたいという夢だったんです。

それで絵本の専門学校に通い始めて、そこで祖父との散歩の思い出を描いた『よーいよーいよい』が月刊誌として出版されて、デビューしました。

『あっちゃんあがつく』はこうして生まれた!

絵本作家・さいとうしのぶさん

絵本作家としてデビューした頃、私にはまだ子どもがいなかったんですね。それで、いい絵本を描くにはやっぱり子どもに接してた方がいいかなと思って、絵本の専門学校に通いながら、学童保育の指導員のアルバイトを始めたんです。2年間勤めたんですけど、そこで子どもたちと毎日のように絵本をつくっていました。

その学童保育で、1年生の女の子が歌ってたのが、『あっちゃんあがつく』の元となる歌だったんです。すごくおもしろい歌だったので、みんなで絵本にしてみよう!と言って、子どもたちと小さな絵本をつくったんですね。そうしたらリーブルさんから、それはおもしろいからぜひ絵本にしましょう、と言っていただいて。

でも、その歌を誰がつくったのかわからなかったので、探すのに一苦労。歌っていた女の子に聞いたら、前にいた保育園の先生に教えてもらったというので、その先生を訪ねて聞いてみたんですが、古い歌なんでわかりませんと言われて。別のルートでも探してみたんですが、なかなかわからなくて……でも、その保育園の先生が探し出してくださって、やっと峯陽先生に行きついたんです。それで、峯先生にお目にかかってお話しさせていただいたら、「好きなように歌ってくれていいんですよ」と言ってくださって。

『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』

▲細かく丁寧に描かれた絵に、大人も釘付け! 歌って遊んで楽しめる絵本『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』(原案・みねよう、リーブル)

古い歌で、食べ物の名前も子どもたちに馴染みのないものもあったので、学童の子どもたちにも協力してもらいながら、まずは食べ物の名前を全部見直すことから始めました。でも、「ん」まで決まってラフもおおよそ描き終えたというときに、「だいちゃん」や「じゅんこちゃん」など濁音で始まる名前の子どもたちもいるから、濁音と、ついでに半濁音も加えましょうってことになり……描く量が一気に倍近くになって、もう、描いても描いても終わらなくって。絵本にしようと決まってから出版まで、2年くらいかかりました。

その後、同じシリーズで『しりとりしましょ!』も描いたんですが、このときは方向性が決まったところで子どもができて、なかなか進まなくなってしまって。できあがる頃には息子が3歳になろうとしていました。息子にお乳をあげながら、しりとりを考えたりしてたんですよ。

絵を描くときはまず、資料集めから

『子どもと楽しむ行事とあそびのえほん』

▲季節の行事のお話と身近な自然の遊びがたくさんつまった絵本『子どもと楽しむ行事とあそびのえほん』(文・すとうあさえ、絵・さいとうしのぶ、のら書店)

絵本づくりで苦労するのは、絵を描くこと。お話はわりとすぐ思いつくんですけど、絵を描くにはまず資料をそろえないといけないので、どうしても時間がかかってしまうんですね。

『あっちゃんあがつく』は、実物を目の前にして描くようにしていました。目の前にあるとついつい食べたくなって、食べちゃった!なんてこともありましたけど(笑) 子どもって、自分の知っているものに食いつくようなところ、あるじゃないですか。たとえばシャンプーを見て、「あ! うちのと一緒!」ってすごくうれしそうに言ったりね。なので、できるだけリアルに描くということにこだわっています。

『子どもと楽しむ行事とあそびのえほん』は、特に大変だったんですよ。出版社からいただいた資料だけでは足りなくて、さらに資料を集めたり……たとえばお雛さまひとつとっても、ものすごく細かく、どこまでも模様がついていたりするので、もう泣きそうでした。出版までかなり長い道のりだったんですけど、賞をいただけたので、報われたかなと(笑)

この絵本では、姪っ子2人とうちの息子をモデルに、ひとつの家族の一年間を描いてるんですよ。上の姪は『ぎゅうって』で絵本のモデルになってるんですけど、2番目の姪はまだ描いてやってなかったので、ここでは彼女を真ん中に描いています。

『たこやきようちえん』では、息子との幼稚園通園の思い出を描きました。うちの息子は、年中さんの頃までずっと「幼稚園行きたくなーい!」って言ってたんですね。幼稚園がいやというよりは、私と離れるのがいやだったみたいで。そこの園はバスがなくて、ある公園の中を通って幼稚園に行くんですけど、私も毎日、一番うしろについて、一緒に歩いていたんです。うちの子、ずーっと私の手を離さなくって。でもそんな風に手をつないで、前を歩く男の子としゃべったりしながら幼稚園に向かうのが、すごく楽しかったんですね。「ぜひ、たこやきで絵本を!」とお話をいただいたとき、この通園体験を何か形に残したくて、この絵本が生まれました。


……さいとうしのぶさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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