絵本作家インタビュー

vol.66 絵本作家 たんじあきこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ありさんぽつぽつ』や『春はあけぼの』など、キュート&ポップな絵で人気を集める絵本作家・たんじあきこさんです。憧れの女の子をイメージして絵本をつくられるというたんじさん。どんな女の子に憧れているのでしょうか? 子ども時代の絵本の思い出や、人気絵本の制作エピソードなどもお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・たんじあきこさん

たんじ あきこ

1972年、広島県生まれ、東京育ち。イラストレーター、絵本作家。絵本のワークショップ「あとさき塾」出身。NHK教育「英語であそぼ」内のショートアニメ『Yum.Yum.Yummy』のキャラクターデザインを手がける。主な絵本に『ゆきのひのチムニーちゃん』(学研)、『ありさんぽつぽつ』(主婦の友社)、『春はあけぼの』(文・清少納言、編・齋藤孝、ほるぷ出版)、『チコちゃんこまったこまったね』(ほるぷ出版)、『ナーベルちゃんとマーブルちゃん』(白泉社)など。『魔女とふしぎな指輪』(フレーベル館)などの挿絵も手がけている。

幸せな時間を思い出して、絵本の道に

『ゆきのひのチムニーちゃん』

▲とってもげんきな女の子・チムニーちゃんと動物たちの、楽しい雪遊びのお話『ゆきのひのチムニーちゃん』(学研)

子どもの頃の思い出といえば、母に絵本を読んでもらったことが最初に浮かびます。母は本が好きだったんでしょうね。家には絵本のほかにも、美術全集や百科事典など、いろんな本がありました。福音館書店の「こどものとも」をとってくれていたので、毎月届くのがすごく楽しみだったのもよく覚えています。

私は三姉妹の真ん中なんですが、絵本をたくさん見ていたからか、姉は小さい頃から絵を描くのがすごく好きだったんですね。夢中になってひたすら絵を描く姉の姿を見ていたので、私も妹も自然と絵を描くのが好きになりました。今では、姉はイラストレーター、妹はニットデザイナーになっています。

でも、私はそのままその流れで絵を描く仕事に就こうと思ったわけではないんですよ。中学・高校ではバレーボール部で、どちらかといえば体育会系のタイプ。子どもが好きだったので、高校時代は夏休みに幼稚園や保育園でアルバイトをしていて、幼稚園の先生を目指そうと短大の保育科に入りました。でも、実習でくじけてしまって……自分には幼稚園の先生はできないって思ってしまったんです。

まわりの友だちがどんどん就職を決めていく中、自分は何をやったらいいんだろうと悩みました。そのときに一番に思い出したのが、絵本のこと。絵本を読んでもらった幸せな時間のことを思い出して、そんな絵本をつくる仕事がしたいと思うようになったんです。

それで絵本の専門学校に行ったり、児童書の出版社でアルバイトをしたり、絵本のワークショップ「あとさき塾」に通ったりしながら、絵本作家を目指すようになりました。そこからの月日は結構長かったんですけど、イラストやアニメのキャラクターデザインの仕事をしているうちに、あとさき塾の土井章史さんから絵本を描かないかと声をかけてもらったんです。やっと土井さんと一緒に仕事ができる!とうれしくなりました。それで2004年、月刊絵本としてつくった『ゆきのひのチムニーちゃん』で絵本作家デビューすることができたんです。

リズムや繰り返しを意識して

『愛蔵版 ありさんぽつぽつ』

▲「ぽつ ぽつ ぽつ ぽつ ぺったん ぱったん」リズムと繰り返しが楽しい、赤ちゃんから楽しめる絵本『愛蔵版 ありさんぽつぽつ』(主婦の友社)

『ありさんぽつぽつ』は、編集者さんのお子さんが小さい頃に使っていたフレーズをもとにつくった絵本です。

絵本をつくるお話をいただいたのに、なかなか進められずにいたら、編集者さんが「ありさんぽつぽつ」というフレーズを使って描いてみませんか?と言ってくださって。それならできるかも!と思って考え始めたら、スムーズにお話ができあがりました。

絵本の文章はリズムもすごく大切なので、どうやったらリズミカルになるかということは、いつも考えてますね。繰り返しも大好きなので、よく使います。私は子どもの頃から、同じフレーズが繰り返し出てくる絵本が大好きだったんです。自分が大好きだった絵本に少しでも近づきたい―― そんな気持ちもあるんだと思います。

実は絵本の文章をつくるのは、私にとって一番つらい作業で……暗記するほど何度も声に出して読んで、お風呂の中でも呪文のように唱えて、これでいいのかなって考えながらブラッシュアップしていきます。もう頭の中でずっと、うわんうわんと繰り返しちゃうくらいに、何度も唱えるんです。

子どもって意外と、文章の長い絵本でも楽しめるとは思うんですけど、私自身はそういう絵本ってあまり読まないんですね。だから、なるべく短い文章で、読んだあとに親子で絵本の中に出てきたフレーズを言い合ったりできるような絵本をつくりたいなといつも思っています。

日本の四季を描いた『春はあけぼの』

『春はあけぼの』のお話をいただいたときは、清少納言の『枕草子』を絵本にするということよりも、「声にだすことばえほん」シリーズの一冊として、他の作家さんが描かれた絵本と並ぶことへのプレッシャーの方が大きかったですね。私はそのときまだ絵本を1冊しか出していなかったので、本当に私で大丈夫なの?と不安になってしまって。

アフロのような髪の毛の中に四季の風景を描くというイメージは、わりとすぐに湧いてきたんです。最初編集者さんに説明したときは、「ちょっとそれは……」という感じだったんですけど、絵にして見せたら、「それならいけますね!」ってわかってくださって。ただ、そこから先が大変で……プレッシャーのせいで、ラフまでは描いたのに、そこから先が描けなくなってしまったんです。

春はあけぼの

▲日本の四季の美しさを表現した「枕草子」が、たんじさんの絵でかわいい絵本に!『春はあけぼの』(文・清少納言、編・齋藤孝、ほるぷ出版)

そんな状況で締切も迫る中、もともと予定していた海外旅行に出かけました。どいかやさんと田中清代さんと3人で、チェコとスロヴァキアに行ったんです。旅先で出久根育さんや降矢ななさんにもお会いしました。そうしたら、どんどん気持ちが盛り上がってきて、これなら描ける!って思えるようになって。行き詰っていた絵本づくりからいったん離れたことで、吹っ切れたのかもしれません。帰国してから、一気に描き上げました。

不思議なんですけど、10代の頃からどうやってもとれなかった足の裏のウオノメが、『春はあけぼの』を描き終えたとき、なくなってたんですよ。病院に何ヶ月か通って、焼いてもらったりしてもとれなかったのに……。それ以来、ウオノメはできていません。あのときウオノメだけじゃなくて、何かがとれたんだろうなって、なんとなく思っています。


……たんじあきこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


ページトップへ