イチ押し絵本情報

105人がかかわる、ある仕事とは?(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.356)

2021年9月30日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 105人がかかわる、ある仕事とは?

今回ご紹介する絵本は、カーラ・カスキンさんの作、マーク・シーモントさんの絵による『105にんのすてきなしごと』。1985年にいわたにときこさんの訳で『オーケストラの105人』のタイトルで日本で紹介され、2012年になかがわちひろさんの新訳で出版されたロングセラーです。

金曜日の夜、大きな街のあちこちに住む105人が仕事に出かける準備をしています。92人の男の人と13人の女の人は、お風呂の入り方も服の着方も様々。多種多様なこの人達の共通の仕事とは…。

見開き

まずタイトルからして、謎めいています。105人もの人がかかわる「すてきなしごと」って何でしょう? 表紙に描かれた女の人は、黒い服を着ている途中で、袖は伸びきっていて襟から顔が半分だけのぞいているという間抜けな姿。ヒントのはずの楽器のケースは、インパクト大な女性の影に隠れてあまり目にとまりません。

ページをめくると、105人の老若男女が仕事に行く準備を始めます。風呂に入り、身ぎれいにして、服を身に着けます。全員の服が、黒か白だけだと明かされ、正装のようだとわかってきます。勘のいい子はこの辺りか、楽器や個性的な形のかばんが登場する辺りで、どうやら仕事は、オーケストラの演奏家らしいと気づくことでしょう。

ただ、早い段階で答えがわかっても、この絵本の面白さが減ることはありません。何よりの魅力は、ひとつの「オーケストラ」としてまとまって見られがちの演奏家達の、それぞれの暮らしぶりに焦点を当てていること。

お風呂ひとつにしても、シャワーだけの人、湯船につかる人、泡風呂に入る人もいて、入浴中も本を読んだりうたを歌ったりと人それぞれ。誰もが私達のまわりにいそうな普通の人であり、同時にひとりとして同じ人はいません。そして、多種多様な人達が、同じ目的で同じ場所に集った先にこそ、美しいシンフォニーが生まれる。そんな強い思いが絵本から伝わってきます。

原題は『The Philharmonic Gets Dressed』。直訳すると「交響楽団、服を着る」という意味です。いわたにときこさんの訳で出版された際はタイトルに「オーケストラ」という文字を入れていますから、この謎解きは、新訳のなかがわちひろさんのオリジナルのしかけです。

旧訳は、正装してきちんと舞台に並んでいるオーケストラのメンバーが、それぞれどんな人でどんな身じたくをして舞台に集まってくるのかという、舞台裏を見せてもらっているような楽しさがあります。また、文章は漢字にふりがな。新訳は、仮名のみで書かれています。受ける印象がだいぶ違うので、興味のある方は比べて読んでみてはいかがでしょうか。

<ミーテ会員さんのお声>
図書館の棚に飾られていて、気になって借りてきた本。娘達に「何の仕事か当ててね」と言ってから読み始めたら、特に上の子が当てる気満々。絵に楽器が出てきた辺りで私の耳にこそこそと答えを言って、正解だよとうなずき返すと大満足。最後まで楽しんでいました。興味をもったみたいだし、今度本物の演奏会に連れて行ってあげたいなぁ。(3歳10か月と6歳2か月の女の子のママ)

絵を手がけたマーク・シーモントさんは、アメリカの絵本黄金期の作家のひとり。『はなをくんくん』の絵も描かれています。あわせて読んでみてくださいね。


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