絵本作家インタビュー

vol.31 絵本作家 内田麟太郎さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『がたごと がたごと』や「ともだちや」シリーズなどを生み出した絵詞(えことば)作家・内田麟太郎さんです。絵本ならではの言葉についてや、さまざまな絵描きさんとのエピソード、人気シリーズ「ともだちや」誕生秘話など、たっぷり語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・内田麟太郎さん

内田 麟太郎(うちだ・りんたろう)

1941年、福岡県生まれ。詩人、絵詞(えことば)作家。『さかさまライオン』(絵・長新太、童心社)で絵本にっぽん賞、『うそつきのつき』(絵・荒井良二、文溪堂)で小学館児童出版文化賞、『がたごとがたごと』(絵・西村繁男、童心社)で日本絵本賞を受賞。ほかに「おれたちともだち」シリーズ(絵・降矢なな、偕成社)、「ぶたのぶたじろうさん」シリーズ(絵・スズキコージ、クレヨンハウス)など多数。日本児童文学者協会会員。
http://www.max.hi-ho.ne.jp/rintaro/index.html

絵描きさんに捧げるラブレター

『かあちゃんかいじゅう』

▲怪獣の映画に連れて行ってとせがむりゅうのすけに、かあちゃんは…。『かあちゃんかいじゅう』。絵は長谷川義史さん(ひかりのくに)

絵描きさんとの仕事で一番大事なのは、絵描きさんと私との間の信頼関係です。こんなに遊んでも内田さんは怒らないよねっていう関係をつくることが大切だと思うんです。だから私は、絵描きさんと仕事をするとき、必ず絵描きさんにラブレターを書くんですよ。私はあなたの絵が好きだから、何をやったっていいですよ、のびのびと描いてくださいって、伝えるんです。

長谷川義史さんとの『かあちゃんかいじゅう』では、怪獣の名前が勝手に「リンタロン」ってなってるんですよ(笑) 長谷川さんは前もって「こういうことしたいんですけど」って私に電話をかけてきたりしません。内田さんは怒らないよね、むしろ喜ぶよねってわかっているから、やってくれるんです。

今度新たに出る西村繁男さんとの『むしむしでんしゃ』でも、二宮金次郎が電車に手を振ってたり、浦島太郎とカメが出てきたり、西村さんが勝手にいろいろ描いてくれています。

そんな風に生き生き描かれた絵っていうのは、必ず子どもにもお母さんにも伝わるんですよね。だから、絵描きさんには好きなように描いてほしい。言われた通り描くなんて、ワクワク感がないでしょう。絵については画家の領域ですから、ワクワクしながら、のびのびと描いてもらいたいですね。

人気絵本の決め手は、文ではなく絵

『ともだちや』は胸キュンのお話なので、最初は世に出すのがちょっと嫌だったんですよ。それまでナンセンスを書いてきた私が胸キュンだなんて、なんだか恥ずかしくて。だから書いたのにどこにも出さずに、とっておいたんです。そうしたらあるとき、偕成社の当時の編集長から手紙をもらいました。「もう少しで定年退職するので、退職土産にナンセンスでない作品をください」と。それで『ともだちや』を送ったら、次の日には「シリーズにするから続きを書くように」と電話をもらいました。

ともだちくるかな あしたもともだち
ごめんねともだち ともだちひきとりや

▲人気の「ともだちや」シリーズ。『ともだちくるかな』『あしたもともだち』『ごめんねともだち』『ともだちひきとりや』(いずれも偕成社)。絵は降矢ななさん。ただいま全9作。

絵は誰にするかということで、編集者が推薦する数人の候補の中から私が選んだのが、降矢ななさん。どの方も絵がうまかったのですが、ユーモアがあるのは降矢さんだけだったんです。話が胸キュンだから、絵はユーモアのあるものにしたいなと思っていたんですよ。

降矢さんからは、「この動物たちは服を着てるんですか」と聞かれたんですが、あえて自分のイメージは伝えず、好きなように描いてもらいました。そうしたら、ゴーグルに浮き輪のあのキツネを描いてくれて。私はあんなキツネ、考えてませんでしたからね。あのインパクトっていうのは、すごいですよね。

降矢さんとは、出会った時期もよかったんですよ。降矢さんはその頃、スロバキアで絵の勉強をされていたんです。ヨーロッパの絵というのは、とても立体的なんですね。日本の絵はどちらかというとフラットじゃないですか。ヨーロッパで学んだことで、日本的な感性とヨーロッパ的な感性がうまく混ざり合った絵になったんです。その塩梅がちょうどよかった。ヨーロッパに行く前に出会っていたら、ああいう絵にはなっていなかったでしょうね。

あのとき、降矢ななという絵描きさんに出会ったことが、あの絵本の成功の鍵です。絵本は文ではなく、絵で決まるんですよ。

読んでくれるだけで、子どもはうれしい

絵本作家・内田麟太郎さん

お母さんの読み聞かせを想定して、というわけではないんですが、絵本の文章をつくるときはいつも、声に出して読むようにしています。仕事場で声に出して読んでいたら、いきなりうしろに女房が立っていて、ドキッとしたこともありました。いい年して「だってそうなんだもーん!」とか言ってるわけですから、知らない人が聞いたら驚くでしょうね(笑)

そんな風に自分で読んでみて、ひっかかるところは描き直します。こんなに息が続かないっていう長い文章も、避けるようにしていますね。編集者から「ここをこんな言葉に変えてほしい」と言われたときも、前のページから続いているリズムがあるから、言われたままに変えればいいというわけじゃありません。いただいた言葉を自分のリズムに合わせて溶け込ませた上で、変えるようにしています。

私は読み聞かせについては、下手でいいと思ってるんですよ。子どもっていうのは、親が読んでくれれば、それだけでうれしいんです。お母さんが自分をひざの上に乗っけて読んでくれていれば、どんな絵本だってうれしいんですから。

子どもが「これ読んで」って絵本を持ってきたら、読んであげる。それが一番ですね。大人になって、子どもの頃読んでもらった絵本とまた本屋で出会って、その本を今度は自分の子どもに読んであげたくなる……そういう流れができていくといいですよね。

それから、ナンセンス絵本を読むときは、意味を考えたりせずに、子どもと一緒にただただ楽しむといいですよ。『ぽっかりつきがでましたら』の意味を追ってしまうと、「月が出たらカバが出てくるだなんて、どうして?」って、頭が痛くなっちゃいますからね(笑)


ページトップへ