絵本作家インタビュー

vol.31 絵本作家 内田麟太郎さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『がたごと がたごと』や「ともだちや」シリーズなどを生み出した絵詞(えことば)作家・内田麟太郎さんです。絵本ならではの言葉についてや、さまざまな絵描きさんとのエピソード、人気シリーズ「ともだちや」誕生秘話など、たっぷり語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・内田麟太郎さん

内田 麟太郎(うちだ・りんたろう)

1941年、福岡県生まれ。詩人、絵詞(えことば)作家。『さかさまライオン』(絵・長新太、童心社)で絵本にっぽん賞、『うそつきのつき』(絵・荒井良二、文溪堂)で小学館児童出版文化賞、『がたごとがたごと』(絵・西村繁男、童心社)で日本絵本賞を受賞。ほかに「おれたちともだち」シリーズ(絵・降矢なな、偕成社)、「ぶたのぶたじろうさん」シリーズ(絵・スズキコージ、クレヨンハウス)など多数。日本児童文学者協会会員。
http://www.max.hi-ho.ne.jp/rintaro/index.html

長新太さんから教えてもらったこと

『さかさまライオン』

▲絵本にっぽん賞を受賞した『さかさまライオン』。絵は長新太さん(童心社)

私はもともと看板職人でした。19歳で福岡から上京して、看板の仕事をしながら、同人誌に詩を投稿していたんです。ところが37歳のとき、二日酔いではしごから落ちて、大怪我をしてしまって。看板の仕事をいったん退いて、子どもの本の世界に飛び込みました。詩を書いてたから、やれるかなぁって感じでしたね。

最初は童話を書いていたんですよ。第9回絵本にっぽん賞を受賞した、長新太さんとの『さかさまライオン』も、もとは童話でした。でも、私の名前はまだ誰にも知られていなかったので、編集者から童話じゃ売れないと言われ、長さんの絵で絵本にすることになったんです。

長さんは私にとって、童話を書き始めるずっと前からの憧れの人でした。その長さんが教えてくれたのが、絵本と挿絵と絵童話の違い。絵童話っていうのがわからなくて、何ですかと聞いたら、「宮沢賢治の童話に絵をつけるのが絵童話だよ」と。私はそれまで、そういったものも全部絵本だと思っていたのですが、長さんは「絵本には絵本の言葉があります」とおっしゃったんですね。それから私は、絵本の言葉とは何かを考えるようになりました。

でも、童話の書き方についての本はあっても、絵本の言葉の書き方って本はなかったんですね。長さんも教えてくださらなかったから、自分で何とかしなければならない。それで、映像文化も一緒だろうと思って、シナリオや戯曲の本をいろいろと読んでみたところ、ト書きを使えば文章をだらだら書かなくて済むということがわかってきたんです。

あと、絵本の場合は「めくり」という機能も重要です。私は、童話を書くときはパソコンで文章を打っていくんですが、絵本のときはカレンダーの裏に16場面、コマ割りして、場面展開を考えながら文を書いていくんですよ。絵のイメージも考えて書くことになるから、似たような場面ばかり続いて飽きるなんてこともありません。ある場面でいきなり向こうから新たな登場人物が来るってときは、それをト書きで書いてあげれば、そのことをはずした文章が書けるんです。そんな風にして、ずっと手探りでやってきたんですよ。

詩の心でつづる絵本の言葉

絵本作家・内田麟太郎さん

キザっぽい言い方かもしれないけれど、読み終わったあとに、詩を感じるような絵本をつくりたいと思っているんですよ。たとえば、いせひでこさんが絵を描いてくださった『はくちょう』。あれは詩ではないんだけど、あの中にある飛躍みたいな感じは、詩に近いなと。『すやすやタヌキがねていたら』の中の繰り返しのフレーズにも、詩の心みたいなものがあります。

もともと詩人だから、詩に近いものが好きだというのもありますし、長さんから「絵本も詩のような言葉で書いたらどうですか」とアドバイスされたから、というのもありますね。

たいていは、絵本の命となる言葉やリズムをつかまえることから始めます。たとえば、『がたごと がたごと』の場合は、「がたごと がたごと」って言葉がこの絵本の命だろうな、『すやすやタヌキがねましたら』なら、「すやすや」ってリズムがこの絵本の運び役だろうなと。そういう言葉やリズムは、子どもにもお母さんにも気持ちいいんですよね。

そういう言葉がふっと思い浮かんだとき、書けるっていうのもあります。自分の孫のために書いた『なきすぎてはいけない』は、「ないてもいいけど なきすぎてはいけない」ってフレーズがやってきたとき、あぁ書けるなって思ってできたんですよ。

新鮮な驚きこそ、絵本づくりの原動力

私の場合、絵描きさんにテキストを渡す時点で、自分の中では場面が絵として見えているんです。でも、絵描きさんにはできるだけ控えめに伝えることにしています。ああしろこうしろと言い過ぎると、それに縛られてしまいますからね。絵描きさんは、一言でだいたいわかってくださるんですよ。いやむしろ、一言だからこそ、ふくらましてくださるんです。

西村繁男さんとの『がたごと がたごと』の場合、私が用意したのは、「おきゃくが おります ぞろぞろ ぞろぞろ」に「※降りてくるのは、ひとはひとでも、お化けたちである」とト書きで入れた、とてもシンプルなテキストでした。

がたごと がたごと
おばけでんしゃ
むしむしでんしゃ

▲ページをめくる楽しさいっぱいの絵本『がたごと がたごと』『おばけでんしゃ』。新作『むしむしでんしゃ』は6月25日刊行予定。絵は西村繁男さん(いずれも童心社)

 

このテキストだけ出版社に持ち込んでも、きっとどこも出版してくれなかったでしょうね。どんな絵本になるか、想像できないと思うんですよ。でも西村さんは、私とのつきあいも長いから、そのテキストだけで十分なんです。内田さんは自分の絵のここを出せって言ってるんだな、もっと遊んでいいんだよって言ってるんだなって、わかってくださるんです。だからあれだけおもしろい作品になったんですね。

私は新人の絵描きさんとも組むことが多いんですが、いろんな絵描きさんと仕事をするのは本当におもしろいです。自分の脳の中に持っていたイメージを、絵描きさんが越えてくれるんですから。そういう新鮮な驚きというのは、私の絵本づくりの原動力になっていますね。他者との出会いによって生まれるものがある。他者と協同していくことで、自分がもらえる豊かさがある。自分ひとりで詩を書いてただけでは、他者との出会いのおもしろさっていうのは、わからなかったと思います。


……内田麟太郎さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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