絵本作家インタビュー

vol.111 絵本作家 穂高順也さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『さるのせんせいとへびのかんごふさん』などの作品でおなじみの絵本作家・穂高順也さんです。独創的な発想で、子どもたちが喜ぶ楽しい絵本の数々を生み出している穂高さんに、絵本作家になるまでの道のりや人気作の制作エピソード、絵本をつくる上で大切にしていることなどを伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・穂高順也さん

穂高 順也(ほたかじゅんや)

1969年、愛知県生まれ。保育専門学校卒業後、幼稚園・保育園勤務を経て絵本作家・童話作家に。主な作品に『さるのせんせいとへびのかんごふさん』『へびのせんせいとさるのかんごふさん』(絵・荒井良二、ビリケン出版)、『ぼくのえんそく』『ちゅうしゃなんかこわくない』(絵・長谷川義史、岩崎書店)、『どろぼう だっそう だいさくせん!』『マーロンおばさんのむすこたち』(絵・西村敏雄、偕成社)、『あおいでんしゃにのって』(日本標準)などがある。 HOTAの小劇場 http://www16.ocn.ne.jp/~hotahota/

新作『なきんぼあかちゃん』では、マザー・グースを意識

なきんぼあかちゃん

▲赤ちゃんが家の屋根を突き破って飛んでいってしまった!『なきんぼあかちゃん』(絵・よしまゆかり、大日本図書)

どういう経緯で思いついたのかはよく覚えていないんですが、おぎゃーっと泣いた赤ちゃんが家の屋根を突き破って飛んで行ってしまう、というアイデアが、ある日突然浮かんだんですね。それでできあがったのが、新作の『なきんぼあかちゃん』です。今振り返ると、そのアイデアひとつだけでよくやる気になったなと思うんですけど、そのときはこれでいける!ってなぜか確信があったんですよね。

お話を考える上で意識したのは、マザー・グースです。でも、お話が全然ないとつまらないので、昔話との中間を目指しました。要するに、ちゃんとお話があって、その上でマザー・グースのような歌っぽい雰囲気もある絵本にしたいと思ったんです。声に出して読んでいただけば、その感じがつかめるのではないかと思います。

絵本の文章を書くときは、自分でも声に出して何度も読みます。僕自身、幼稚園や保育園で絵本を読み聞かせした経験があるので、読みやすさはやはり大事な要素だと感じていますね。だから、実際に読んでみてひっかかるところとか、読みにくいなと感じるところがあれば、その部分を直すようにしています。

『なきんぼあかちゃん』の絵のよしまゆかりさんとは、今回初めて一緒に絵本をつくったのですが、個性的で素敵な絵を描かれますよね。魔女がとてもよく描かれているので、ぜひ見ていただきたいです。

自分の中の子どもの部分との対話から絵本が生まれる

いろいろおふろはいり隊!

▲野菜の“おふろはいり隊”がお風呂をレポート!『いろいろおふろはいり隊!』(絵・西村敏雄、教育画劇)

僕は子どもの頃から、ウルトラマン消しゴムでごっこ遊びをするのが好きで、実は中学2年の2学期まで、毎日一人でそんな遊びをしてたんです。学校の授業なんてつまらない、早く家に帰ってウルトラマン消しゴムで遊びたいって、いつも思っていました。でもある日突然、「俺、何やってんだろ」と思って、ぱったりやめちゃったんですけどね。なんか急に大人になっちゃって。自分でもびっくりするくらいでした。

あの遊びを30歳くらいまで続けてたら、天才になれたかもしれません。今振り返ると、ちょっともったいなかったかな、なんて思います。そういう“ごっこ遊び”的なことは、今も絵本をつくるときにやっているわけですが、当時の方が断然楽しかったですね。あの頃は、仕事とか関係なく、自分が楽しいっていう純粋な気持ちだけでやってましたから。

自分の中の子どもの部分は、絵本をつくる上で欠かせない存在です。自分の中の子どもと対話することで、絵本をつくっているようなものですからね。その子が「おもしろい!」と言えばおもしろいし、「だめだね」と言えばボツ。自分の中の子どもの存在がなければ、創作はできないと思っています。

保育の仕事をしていると、子どもの前では常に大人でいなくちゃいけないですよね。そうすると、自分の中の子どもって絶対死んでいくと思うんです。だから僕には、保育の仕事が向かなかったんじゃないかなと。でも、幼稚園や保育園で働く中で得たものもいろいろあったので、そういう意味では、3年間の保育士経験というのは、僕にとってはちょうどよかったのかもしれません。

子どもに選ばれる絵本をつくっていきたい

ちゅうしゃなんかこわくない

▲注射が嫌いな男の子のお話『ちゅうしゃなんかこわくない』(絵・長谷川義史、岩崎書店)

絵本って、大きく3種類に分類されると僕は思ってるんですね。1つ目は、大人が読む絵本。2つ目は、大人が子どもに読んであげたい絵本や、読ませたい絵本。3つ目は、子どもが自分で選びとる絵本。この中で、どれが“子どものための本”だと思いますか?

一般的には、2つ目と3つ目が子どものための本とされているんですが、僕としては、子どものための本というのは、3つ目の子どもが自分で選びとる絵本だけだと思っているんです。そして僕は、そんな絵本をつくっていきたいと思っています。

絵本をつくる作家は大人ですよね。編集者も大人、売るのも大人、買うのも大人。読み聞かせをする場合は、読む人もたいてい大人。本当の読み手である子どもは、大人がつくって売って買ったものを読まされるだけで、選択権はほとんどないんですよ。だから業界的には、買い手である大人、特にお母さんたちを意識した絵本をつくりがちなんです。でも僕はそんな中にあっても、大人に媚びたような絵本はつくりたくありません。やっぱり本来の読み手である子どもたちを喜ばせたいですからね。

本屋さんや図書館などで絵本を選んでいて、「何これ? こんなのがいいの!?」というような絵本を子どもが持ってくること、よくあるでしょう。親が子どもに与えたいと思う絵本と、子どもが喜ぶ絵本が同じならいいんですけど、たいてい違うんですよね。

でも、そんな風にして子どもが持ってきた絵本も、ぜひ読んであげてください。親はわりと教育的要素を絵本に込めてしまいがちだけれど、その絵本を読んだからどうなるとか関係なく、絵本の中の世界を楽しめればそれが一番。僕はこれからも、子どもたちが楽しんで読んでくれる絵本をつくっていくつもりです。


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