絵本作家インタビュー

vol.112 絵本作家 シゲタサヤカさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『まないたにりょうりをあげないこと』をはじめとするレストランシリーズで人気の絵本作家・シゲタサヤカさんにご登場いただきます。シゲタさんの絵本は、タイトルも絵もお話もとってもユニーク! 読む人を笑いの渦に巻き込む絵本の数々は、どのようにして生まれたのでしょうか? シゲタさんならではの絵本づくりに迫ります。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・シゲタサヤカさん

シゲタ サヤカ

1979年、神奈川県生まれ。短大卒業後、印刷会社勤務を経て、パレットクラブスクールで絵本制作を学ぶ。第28~30回講談社絵本新人賞で3年連続佳作受賞。2009年『まないたにりょうりをあげないこと』(講談社)で絵本作家デビュー。作品に『りょうりをしてはいけないなべ』『コックのぼうしはしっている』(いずれも講談社)、『キャベツがたべたいのです』(教育画劇)、『オニじゃないよ おにぎりだよ』(えほんの杜)がある。
アカモチ工場 http://akamochi.net/

個性豊かな絵本作家さんたちに憧れて

絵本作家・シゲタサヤカさん

私が絵本作家を目指すようになったのは、大人になってからのことです。

子どもの頃から絵を描くのは好きだったんですが、特に美術部に入ったわけでも、美術の学校を卒業したわけでもなくて、短大卒業後は印刷会社でDTPオペレーターという、文字を組む仕事をしていました。でも、残業続きで締め切り前は午前様の日々というハードな毎日に疲れ果てて、先のことも特に考えず、3年で辞めてしまったんです。

それから1年間は仕事もせず、ニートみたいな状態で、家でダラダラしたり友達と遊んだりして過ごしていたんですが、あるとき雑誌で、パレットクラブスクールというイラスト教室の広告を目にしたんですね。

イラストの仕事への憧れもあったので、イラストコースに通ってみようかなと思っていたら、募集要項の中に絵本コースというのを発見して。和歌山静子さん、スズキコージさん、飯野和好さんといった、子どもの頃大好きだった絵本作家さんたちの名前が講師一覧の中にあるのを見て、「憧れの作家さんたちに会えるなんて!」と、半ばミーハーな気持ちで絵本コースに通うことにしたんです。

講師の先生方は、作品はもちろんですが、どの方も一人ひとりものすごく個性的で、魅力的でした。スクールの仲間にも恵まれて、通ううちに次第に、絵本作家になりたいと本気で思うようになったんです。

卒業後は、いろんな絵本コンペに応募するようになりました。デビューまでは6年ほどかかったんですけど、絵本づくりが楽しかったので、不思議とあきらめようとは思わなかったんですよね。そうして続けているうちに、講談社絵本新人賞で3年連続で佳作をいただいて、3回目の佳作を機にデビューできることになりました。

デビュー作『まないたにりょうりをあげないこと』ができるまで

以前、住んでいたところの駅前にお魚屋さんがあって、閉店間際に行くと、お店の前にいつも大きなまないたが立てかけて干されてたんです。大きな魚もさばける、1メートルくらいはありそうな分厚いまないたで、なんとなく調理器具のひとつとして、脳裏に残っていたんでしょうね。直接結びついたわけではないんですけど、『まないたにりょうりをあげないこと』の「まないたがどんどん大きくなる」というアイデアの原点はそこにあったのかもしれません。

まないたにりょうりをあげないこと
りょうりをしてはいけないなべ
コックの ぼうしは しっている

▲シゲタさんのデビュー作『まないたにりょうりをあげないこと』と、その続編『りょうりをしてはいけないなべ』『コックの ぼうしは しっている』(講談社)。いずれも同じレストランが舞台となっています

この絵本は、講談社絵本新人賞で3回目に佳作をいただいた作品をもとにつくったんですが、出版するにあたって、画面構成などは全面的に描き変えました。

もともと私は、お皿の上の料理の絵をたくさん描きたかったので、お話の展開に関係なくずらりとお皿を描いていたんですね。でも編集者さんから「まないたが大きくなる過程をもっと描きましょう」とアドバイスをいただいて。当時の私は、読者が求めるものよりも、自分が描きたいものばかり描いていたんですよね。でも確かに、まないたの成長を描いた方がいいと思えたので、そのあたりは大幅に描き直して、お皿の上の料理の絵は見返しにずらりと描かせてもらったんです。

その後、レストランシリーズの続編として、『りょうりをしてはいけないなべ』『コックの ぼうしは しっている』という絵本もつくりました。このレストランには総勢10人のコックさんがいるので、できればいつか、残り7人のコックさんの絵本もつくりたいと思っています。

料理の美味しさよりも、ビジュアルに惹かれる

絵本作家・シゲタサヤカさんのパレットクラブスクール卒業制作

▲シゲタサヤカさんがパレットクラブスクールの卒業制作としてつくった、飛び出す食べもの絵本

子どもの頃から、食べものに興味があったんですね。食べること自体も好きなんですけど、それ以上に食べもののビジュアルに惹かれているようなところがあって。子ども時代の好きな絵本として思い出すのも、寺村輝夫さんと和歌山静子さんの『王さまシリーズ』のごちそうが登場するストーリーや、せなけいこさんの『にんじん』など、食べもの絵本が多いような気がします。

短大に進むときも、何かやるなら食べもの関係かなということで、授業で調理などをする家政学科を選びました。料理の腕を上げたいというよりも、終わったあとに食べられるっていうところに惹かれたんですよね(笑) 絵本作家を目指し始めてからは、ほとんど食べものを題材にした絵本ばかり描いています。

グルメ特集が掲載された雑誌を買うのも好きで、気に入ったページは切り抜いてスクラップしてるんですよ。真っ白いお皿の上に色とりどり、まるで芸術品みたいに素敵に盛り付けられている料理って、本当に魅力的で…… 別に食べ歩くわけではないんですけど、いつか絵に描きたいなぁという思いでとっておいてます。

あと、コックさんも好きですね。コック帽の感じとか、厨房で慌しく料理をしている姿とか、かっこいいなぁと思って。一時期、イギリスの天才アイドルシェフ、ジェイミー・オリヴァーの追っかけもやってたんです。銀座でジェイミーがお店を開くと知って、オープンの日に駆けつけて、「ジェイミー!」とか呼びかけたりして(笑) レストランに行っても、厨房がガラス張りだったりするとすごくワクワクして、コックさんたちの姿に見入ってしまいます。

私の絵本を読んでくださった方から、こんなに料理の絵を描いているんだから、さぞかし料理が上手いんでしょう、なんてよく言われます。料理のビジュアルが好きなだけなんで、実はそれほど料理はしないんですけどね(苦笑)


……シゲタサヤカさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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