vol.32 のはなはるかさんの推し絵本
思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回は、『うさぎマンション』や『109ひきのどうぶつマラソン』などの作品でおなじみの絵本作家・のはなはるかさんにご登場いただきます。
祖母が図書館に勤めていたこともあって、子どもの頃から図書館によく連れて行ってもらっていました。週に一度図書館に行くと、借りられるだけ絵本を借りていましたね。特に好きだったのは、どいかやさんの絵本。本が作家名の五十音順に並んでいることを知っていたので、図書館に着くとすぐ絵本の棚の「た行」の ところに行って、まだ読んでいないどいかやさんの絵本がないかチェックしていました。
思い出の一冊は『チリとチリリ』です。絵もとてもかわいいし、出てくる食べ物もどれもおいしそうで…どんぐりコーヒーやれんげティー、はちみつパンのくわのみジャムサンドなど、絵本を見ながらこんな味かな?とイメージして味わっていました。読むだけで幸せになれる絵本でしたね。
私はハラハラドキドキする絵本よりも、穏やかで淡々とした絵本の方が好きなんです。大冒険も大事件もないけれど、幸せな毎日がそこにある、というお話に惹かれるんですよね。『チリとチリリ』もそうですし、「バムとケロ」シリーズや『パンやのくまさん』など、子どもの頃から好きだった絵本を思い出してみると、だいたいそういう絵本だなと思っていて。自分のつくる絵本にもそんな好みが反映されているような気がしています。
自分では覚えていないんですが、私は字が読めない頃から、ひとりでもよく絵本を見ていたそうです。絵にあわせて自分でお話を考えて楽しんでいたらしくて。成長につれて絵本は読まなくなりましたが、本はずっと好きでした。
高校生の頃に入院して、暇に飽かせて読書をしていたんですが、どの本もすぐに読み終わって本が何冊あっても足りなかったんですね。もっと情報量が満載で、1冊で何度もくり返し楽しめる本があったらいいのにと思っていたので、今はそんな、1冊でたっぷり楽しめる絵本を目指してつくっています。
『うさぎマンション』では、24部屋それぞれに住むうさぎたちの物語を24個分、最初に考えて、各部屋を定点観測するような形で描いていきました。ひとりでじっくり読み込む絵本のイメージだったんですが、読者の方から「ここにこんな子がいるね」「この子はこんなことしてる!」みたいな感じで親子の会話につながったと感想をいただいたんです。そんな風に楽しんでもらえているんだなと、うれしくなりましたね。
そこから、もっと親子で話しあえるようなものをと思ってつくったのが、『10かいだてのおひめさまのおしろ』です。すてきなおひめさまになるために、ドレスや靴を選びながら読み進める絵本にしました。今年で絵本作家デビュー10周年になりますが、読者の皆さんからの言葉をきっかけに、自分の作風も少しずつ変わってきた10年だったのかなという気がしています。
『109ひきのどうぶつマラソン』は、マラソンの一番だけでなく、泳ぎの一番、笑顔の一番など、いろいろな一番に対して金メダルを贈るお話なのですが、シリーズ2作目の『109ひきのどうぶつかくれんぼ』では、かくれんぼ大会を通じて、みんながそれぞれの考え方を認めあい、たたえあうことをテーマにしました。
絵本を通じて伝えたいことはたくさんあるのですが、メッセージをどれくらい絵本に盛り込むかは、いつも悩みます。スプーン1杯分か耳掻き1杯分かで、印象ががらっと変わることもありますから。少しでも説教臭さみたいなものがにじみ出ると、楽しさが半減してしまうので、バランスを見ながら調整しています。このシリーズは、私の作品の中では比較的メッセージ性の強い方なので、どう感じるかなと心配しつつも、とにかく楽しんでほしいという思いで描き込みました。
実は109匹の動物たちは、1作目と2作目で一部メンバーチェンジしています。科学コミュニケーターの堀川晃菜さんや東京工業大学・二階堂雅人研究室の皆さんに監修に入っていただいて、隠れることで生き延びてきた動物の知恵を絵本に盛り込んでいったんです。例えば、毛が砂の色に似ているマヌルネコなど、より隠れるのが得意な生き物を登場させているので、違いを楽しんでもらえたらうれしいです。
描いていて楽しかったのは、きのこがいっぱいの「むらさきしつげん」です。タマゴタケやアミガサタケなどの実在するきのこや、ふうせんきのこ、ぼうしきのこのような空想上のきのこなど、たくさんのきのこを描いたので、じっくり見て楽しんでもらいたいですね。
絵本作家になって感じるのは、絵本のことを悪く言う人はほとんどいないということ。絵本の話になると、好きだった絵本のこと、絵本を読んでもらったときのことなど、それぞれのあたたかい思い出を語ってくれるんですよね。私の絵本もそんな誰かの思い出になったらうれしいなと思っています。
のはなはるかさんの出版10周年を記念して、インタビューの中でご紹介した『うさぎマンション』や『109ひきのどうぶつかくれんぼ』など、のはなさんの絵本9作品に直筆サインを入れていただきました。ミーテ会員27名様に抽選でプレゼントします。そのほかにも、くもんのジグソーパズルやミーテセレクト絵本のプレゼントも!詳細は応募ページでご確認ください。
のはな はるか
1989年生まれ。東京藝術大学修士課程修了。デビュー作『たくさんのたくさんのたくさんのひつじ』(ひさかたチャイルド)で第10回ようちえん絵本大賞、『10かいだてのおひめさまのおしろ』(PHP研究所)で第4回未来屋えほん大賞受賞。そのほかの作品に『うさぎマンション』『ペンギンクルーズ』(くもん出版)、『パンダツアー』(白泉社)、『109ひきのどうぶつかくれんぼ』(ひさかたチャイルド)などがある。