絵本作家インタビュー

vol.4 絵本作家 田中清代さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回ご登場いただくのは、繊細な線で描かれる大胆な構図や不思議なストーリーが魅力の絵本作家・田中清代さんです。表紙をはみ出るほどに大きく描かれたトマトが印象的な代表作『トマトさん』の制作裏話や、絵本作家になるまでの道のり、自然あふれる里山での暮らしなどについてお話しいただきました。
今回は【後編】をお届け。 (←【前編】はこちら

絵本作家・田中清代さん

田中清代(たなか・きよ)

1972年、神奈川県生まれ。絵本作家、銅版画家。多摩美術大学油画・版画専攻卒業。在学中に絵本の制作を始める。1995年、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展でユニセフ賞受賞、翌96年同展で入選。作品に『おきにいり』(ひさかたチャイルド)、『おばけがこわいことこちゃん』(ビリケン出版)、『みつこととかげ』『トマトさん』(福音館書店)、『ねえ だっこして』(文・竹下文子、金の星社)、『おかあさんとさくらの木』(文・柴わらし、ひくまの出版)などがある。
http://www.oyikakanat.com/

自分の気持ちを重ねて描いた『トマトさん』

『トマトさん』

▲インパクトある表紙が印象的な『トマトさん』(福音館書店)。虹色のしっぽのとかげも登場。

1999年の『みつこととかげ』という作品で、文章に言葉遊びを盛り込んだんですね。「とかげ」という言葉から文章を作るというルールで。その中に「とまとのかげでひとやすみ」という一文があって、そこに出てきたトマトが主役になったのが『トマトさん』です。

夏の昼下がり、ぎらりと照りつける太陽の下で、トマトさんが誰にともなく「わたしも およぎに いきたいよう」と涙を流しながらつぶやく場面には、実は私自身が味わった気持ちも重なっています。

私は中学生の頃に母を亡くして、姉も早くに独立したので、父との二人暮らしが長かったんですね。父も私も、言いたいことがあってもわりといつも我慢してしまうタイプだったんです。言いたいことを我慢せずに言うことが、わがままというか、なんとなく悪いことのような気がしていたのかもしれません。

でもあるとき、父と大げんかしたことがあって。原因もあるはあるんですけど、原因がどうこうっていうよりは、今までたまってたものをとにかく吐き出して、全部ぶつけたって感じですね。涙を流しながら、とにかく一方的に言いたいことを全部言ったんです。自分の思っていることを素直に言えたというのは、ある意味、ドアを開けて一段上がるというか、自分の成長を実感できた経験でした。あぁ、こういうことが必要だったんだな、と思えたんです。

その大げんかの少しあとに、『トマトさん』のお話をつくりました。トマトさんも、最初から「小川に行きたーい!!」と無邪気に言うことはできなくて、「私はいいのよ」って我慢してしまう。でもほんとは行きたい……と涙がじわっと出てきてしまう。それはまさに、そのときの私の心境なんです。
トマトさんの表情は、トマトさんと一緒に泣いたり、笑ったりしながら描きました。トマトさんと同じ顔をしながら描くと、気持ちがよく表れるかなと思って。そのときの自分だから書けたお話だったんだなと、今では思いますね。

自然に囲まれた里山での暮らし

絵本作家・田中清代さん

2005年から、湖と山に囲まれた丘の上で暮らしてます。その前に住んでいたところは自然を探すのが大変なくらいで、公園に行って、よーく見るとダンゴムシもいるな、という程度だったんです。でも今住んでいるところは、外に出るとすぐに山々や湖が見えるんですね。夏の青葉、秋の紅葉など、四季の移ろいも感じられるので、作品づくりにも影響があると思います。何より、そういう自然の風景を見ていると、癒されますよね。

最近、福音館書店の月刊かがく絵本「かがくのとも」の挿し絵を描いているんですが、今住んでいるところは虫もたくさんいるので、ありがたいです。昆虫とかは結構細かく描くので、外で見かけると思わずじーっと観察しちゃいます。

それから、食生活がすごく豊かになりました。まわりに畑が多くて、近所に住む友達もみんな家庭菜園をしてるので、いろんな野菜がまわってくるんです。名前も初めて聞くような地元の野菜とか、いろいろもらいますね。里芋の茎なんかも、甘く煮て食べるんですよ。私もここに住むようになってから初めて食べました。

父と二人暮らししていた頃は、毎朝父の作る野菜サラダに赤いトマトが入ってました。今は自分でも家庭菜園をしていて、夏にはトマトが採れます。家庭菜園で採れるトマトはお店で売っている色の揃ったトマトとまた違う美しさがあって、きれいですよ。

外に遊びに出かけたくなるような絵本を描きたい

絵本作家・田中清代さん

最近は大人でも絵本好きな方が多いせいか、最初から大人に向けて描かれる絵本も増えてきていますが、私はやっぱり“子どものための絵本”というところにこだわっていきたいですね。ここのところ挿し絵の仕事が多くて、お話の方はなかなかできてないんですけど、やっぱりストーリーもつくっていきたいなと思ってます。

それからできれば、子どもが外に遊びに出かけたくなるような絵本を描きたいですね。私は小さい頃から絵を描くのが好きだったんですけど、外で遊ぶのも同じくらい大好きだったんです。でもわりと今、屋内で遊ぶ子が多いじゃないですか。

外に出ると、日の当たり方とか、風の感じとか、いろんなことを感じられて、気持ちいいですよね。でもその気持ちよさって、外に出ないとわからない。だからそういうのを思い出せるような絵本をつくれたらいいなと思ってます。


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