絵本作家インタビュー

vol.1 絵本作家 宮西達也さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。記念すべき第1回は、『おとうさんはウルトラマン』をはじめ『おまえうまそうだな』『にゃーご』など、数多くのヒット作を生み出す人気絵本作家・宮西達也さんにお話を伺いました。宮西さんの絵本に思わずホロリとしたことのある方も多いのでは? やさしさと思いやりを感じさせる作品の数々はどんな思いでつくられてきたのか、その素顔に迫ります。
今回は【後編】をお届け。 (←【前編】はこちら

宮西達也氏

宮西達也(みやにし・たつや)

1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、『おまえうまそうだな』(けんぶち絵本の里大賞・ポプラ社)、『おとうさんはウルトラマン』(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)『帰ってきたおとうさんはウルトラマン』『パパはウルトラセブン』(ともにけんぶち絵本の里大賞・以上学習研究社)、『うんこ』(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)『きょうはなんてうんがいいんだろう』(講談社出版文化賞・絵本賞・以上鈴木出版)など多数。2008年、『ふしぎなキャンディーやさん』(金の星社)で日本絵本賞読者賞を受賞。

子ども時代の体験が絵本のヒントに

子どもの頃はいたずら坊主で、野原や空き地や田んぼを駆け回ってました。そこでほんとにいろんなことを体験したんですね。この葉っぱは触るとチクチクして痛いとか、この虫はこんな臭いがするとか。今はインターネットで何でも調べられる時代ですけど、葉っぱの手触りとか虫の臭いとかは、やっぱり実際に触らないとわからないじゃないですか。だから体験するってとっても大事なことなんです。

僕らの時代は、今ほどいろんな絵本はなかったんですが、本好きな母はそんな中でもいろいろと本を読んでくれました。『三匹のこぶた』は海外の原書で読んでくれたんですけど、オリジナルは怖いんですよ。日本の絵本だと、レンガの家に煙突から入ったおおかみは、やけどしてあちーって逃げてくんですが、オリジナルだと釜茹でされてこぶたたちに食べられちゃうんです。それで「そこまでする必要ないだろ……ぶたはひどい!」って気持ちが僕の心にずっとあって。

だから僕のつくった『ぶたくんと100ぴきのおおかみ』は、おおかみが100匹も出てきてもぶたは食べられないって話になっちゃったんですよ。まぬけだけど愛らしいおおかみを描きたかったんです。それはやっぱり、そういう子ども時代に味わった気持ちがかかわってますね。

お父さんに褒められたこと、川に遊びに行って魚がいっぱい釣れてうれしかったこと、かなしかったこと、楽しかったこと、感動したこと……子ども時代のそういう体験が、僕の絵本のヒントになってるんですよ。その絵本を読む子どもや大人が同じような気持ちを味わってくれたらうれしいですね。

伝えたいのは、目に見えない大切なこと

僕はそれこそ宇宙人から、うんこ、おっぱい、恐竜まで、いろんなキャラクターを描いてる作家なんですけど、これからももっともっといろんなキャラクターを描いていきたいと思っています。

その一つ一つのキャラクターを借りながらも、流れてるテーマは決して流行りのものではなく、「おもしろい」「うれしい」「かなしい」「感動した」「つらい」「楽しい」といった、いつの時代も変わらない大切なことを描いていきたい。そういう絵本は、決してすたれないと思うんです。

「子どもが本好きになるように毎晩5冊本を読んでます」なんて人もいるかもしれませんが、別に本好きにするために、勉強ができるように、感想文が上手になるようにっていうために絵本をつくってるんじゃない。読んで「あぁ楽しかったな」「感動したな」「やる気が出てきたな」そういう目に見えないものがいっぱい心の中にたまるような絵本をつくっていきたいですね。

今は、目に見えるものの時代じゃないですか。お金とかモノとかテストの点とか……確かにそれらも大事です。お金がなければ生活できない。勉強だってやらなきゃいけない。でもやっぱり、その土台にある目に見えないもの、つまり、やさしさや思いやりや勇気っていうのが大切なんです。今、そういう土台がない人が増えているから、お金を持っていても、高学歴でも、恐ろしい事件が起こったりするし、世の中がおかしい方にいってしまっている気がします。でも、そういう目に見えない大切なことが土台にちゃんと蓄えられていれば、違うと思うんです。だから絵本を通じてそういうことを伝えていきたいですね。

一生懸命がんばるおとうさんへ

『おとうさんはウルトラマン』のシリーズを描き始めた頃は、「亭主元気で留守がいい」なんてフレーズが飛び交っていた時代でした。昔に比べると、お父さんという存在が、なんだかだらしなく、だめなような風潮になってしまったんですね。でもやっぱりお父さんって昔と変わらず、一生懸命がんばって働いてるんですよね。だから『おとうさんはウルトラマン』は、そんなお父さんへの応援歌としてつくったんです。ときに失敗したり、弱虫で泣いちゃったりもするけど、でも気持ちだけはがんばろうと、すべてのお父さんたちは思ってるんだよ、それを伝えたかったんです。

力は個人個人みんな違いますから、本を読んでおもしろいお父さんもいれば、キャッチボールが上手なお父さんもいるし、出世できないお父さんもいれば、出世街道まっしぐらのお父さんもいる。でもそこじゃないんですよ、お父さんの価値は。お父さんの価値って、一生懸命、子どものためにがんばってるってとこなんです。稼ぎがいいとか、そんなことじゃない。子どもと一緒に長い時間いるってことでもない。残業続きでほんとに短い時間しか子どもと一緒にいられないとしても、その短い時間の中だけでも、子どもと一生懸命かかわる。そういう「一生懸命やる」ということが大切なんですよね。

だからお父さんには、もっと自分の話をしてほしいんです。「父ちゃんは家ではゴロゴロしてるけど、あの橋を建てたのは父ちゃんなんだぞ」とか。それこそネジ1本だっていいんです。ネジがなかったら建たないんですから。日本人って言わないことを美徳とするようなところがありますけど、お父さんは一生懸命、誇りを持ってこれをやってるんだぞっていうのはぜひ子どもに伝えてほしいですね。


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