絵本作家インタビュー

vol.1 絵本作家 宮西達也さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。記念すべき第1回は、『おとうさんはウルトラマン』をはじめ『おまえうまそうだな』『にゃーご』など、数多くのヒット作を生み出す人気絵本作家・宮西達也さんにお話を伺いました。宮西さんの絵本に思わずホロリとしたことのある方も多いのでは? やさしさと思いやりを感じさせる作品の数々はどんな思いでつくられてきたのか、その素顔に迫ります。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

宮西達也氏

宮西達也(みやにし・たつや)

1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、『おまえうまそうだな』(けんぶち絵本の里大賞・ポプラ社)、『おとうさんはウルトラマン』(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)『帰ってきたおとうさんはウルトラマン』『パパはウルトラセブン』(ともにけんぶち絵本の里大賞・以上学習研究社)、『うんこ』(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)『きょうはなんてうんがいいんだろう』(講談社出版文化賞・絵本賞・以上鈴木出版)など多数。2008年、『ふしぎなキャンディーやさん』(金の星社)で日本絵本賞読者賞を受賞。

絵本は読み聞かせをして初めて完成するんです

今、月に1冊のペースで新しい絵本をつくりながら、全国各地を講演で飛び回っています。実は飛行機がニガテな僕が、どうして忙しい中、全国の講演に出向くかというと、僕の絵本をみなさんがどんな風に読んでくれているのかを見届けたいからなんです。

講演に行った先で、僕の絵本を読んだ人たちが喜んだり感動したりしてくれてる様子を目の当たりにして気づいたこと―― それは、絵本っていうのは、本屋さんに並ぶまでは作家の本だけど、そこから先は、買った人の本になるんだってことです。

たとえば、「ありがとう」って書いてあったとする。でもそこには強弱は書かれていないじゃないですか。だから、朗らかに「ありがとう!」と読む人もいれば、しんみりと「ありがとう……」と読む人もいるし、元気いっぱいに「ありがとーーー!!」と読む人もいる。読む人によって全然違う「ありがとう」になるんですね。

今度、ティラノサウルスのシリーズが映画化されるんですが、映画は監督が演出して見せてくれるわけです。ここはアップで、ここはロングで、声優さんは誰で、BGMはこんな感じで……と。

でも、絵本は下手でもお母さんやお父さんが一字一句読まなきゃいけない。1ページ1ページ、めくらなきゃいけない。絵は動かないけれど、読んでもらっている子どもたちが想像するんですよね。ティラノサウルスがどんな風に歩くのか、ウルトラマンがどんな速さで飛ぶのか、全部自分の頭の中でつくっていくんです。

だから絵本っていうのは、読み聞かせるお母さんやお父さんと、読んでもらう子どもの感性が入って初めて完成するんですよ。絵本作家としては、「その完成型を全部見届けたいな」っていつしか思うようになって。だからどんなに忙しくて、大変でも、できるだけいろんなところに講演に行きたいなと思ってます。

大切なのは、その本が好きかどうか

読み聞かせには、コツなんてないんです。淡々と読む人もいれば、乗り移ったように読む人もいて、読み方は十人十色だけれど、どれが正解っていうわけじゃない。 ただ、ひとつ大切なのは、その本が好きかどうか、ということ。

自分が読んで感動した本は、意識しなくてもおのずと気持ちが入って、感動するような読み方になるんですよ。ここはおもしろい!って思ったところは、ほんとにおもしろく読めるんです。

ただ単に、今この本が売れてるからこれを読めば喜ぶんじゃないかってことで絵本を選ぶと失敗すると僕は思っています。だから、「これが好きだ!」って本を見つけて、何度も読んで、自分のものにしていってほしいですね。読み聞かせが苦手という人も、まずは自分の好きな絵本を選んで、自分も一緒に楽しむといいですよ。

ストーリーだけじゃない、それが絵本の魅力

「はいおしまい」って閉じると、「もう1回」。で、また読み終えると「もう1回」。絵本の読み聞かせをしていると、そんなことがよくあるでしょう。大人向けの本で、いくらおもしろい小説であっても、またすぐ最初から読み直すなんてことはあまりないじゃないですか。それが絵本の場合、それこそ10回、20回と「もう1回」って言われるんです。

あまりに何度も読まされるんで、親の方が根負けして2、3行読み飛ばしたりすると、子どもが「今、抜けたよ」なんて指摘しますよね。つまり、もう覚えてるんですよ、全部。でも、読んでほしい。それはなぜかというと、絵本の魅力はストーリーだけじゃないからなんです。

お母さんやお父さんのあったかい膝の上で、吐息を近くに感じながら、1ページ1ページめくる音やお母さんお父さんの心地よい声で読まれるストーリーに、安心したり感動したりする。だから子どもは何度も読んでほしいと思うんですよね。

映像技術がいくらよくなっていっても、絵本はなくならないと僕が思うのは、こんな風に絵本には感性を豊かにする素がたくさん入ってるからなんです。

いろんな絵本でいろんな気持ちを味わって

先日「日本絵本賞」で読者賞をいただいた『ふしぎなキャンディーやさん』が今度、課題図書に決まったんです。僕の本が、まさか課題図書に選んでもらえるなんて思ってもみなかったので、本当にうれしいです。

この『ふしぎなキャンディーやさん』は「楽しいな」「おもしろいな」と思ってもらえるような絵本なんですね。絵本って感動する絵本だけじゃなくて、いろんな種類があるじゃないですか。僕の絵本の中でも、ウルトラマンもあれば、おおかみもある、ティラノザウルスもある、ナンセンスなのもあるわけです。

だから、子どもたちにはいろんな絵本に触れてほしい。いろんな種類の絵本との出会いから、うれしい、楽しい、かなしい、感動した……とか、いろんな気持ちを味わってほしいですね。


……宮西達也先生のインタビューは後編へとまだまだ続きます。 (【後編】はこちら→


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