絵本作家インタビュー

vol.125 絵本作家 岡田よしたかさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ちくわのわーさん』『うどんのうーやん』『こんぶのぶーさん』で大人気の絵本作家・岡田よしたかさんです。関西弁を話すユーモラスな食べ物たちをイキイキと描き出す岡田さん。作家としてデビューされるまでのユニークなご経歴、絵本に込めた思いなどを伺いました。
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絵本作家・岡田よしたか

岡田よしたか(おかだ よしたか)

1956年、大阪府生まれ。愛知県立芸術大学・油画科卒業。地球儀など教材玩具のメーカーや共同保育所に勤務しながら、個展やグループ展を重ね、自費制作による画集も出版。作品には『おーいペンギンさーん』『特急おべんとう号』(福音館書店)、『うどんのうーやん』『こんぶのぶーさん』(ブロンズ新社)などがある。2012年、『ちくわのわーさん』(ブロンズ新社)で、第3回リブロ絵本大賞を受賞。

紆余曲折8年。2作目『特急おべんとう号』ができるまで

特急おべんとう号

▲日本独特の食文化のひとつ「おべんとう」をテーマとした、3つのお話からなる創作童話。抱腹絶倒するほどのおもしろさ!『特急おべんとう号』(福音館書店)

絵本のストーリーを考えるのがおもしろくて、続けて作品を出したかったんですが、鉛筆書きのラフを作って、編集者さんに見せても見せても、すべてボツ。次の『特急おべんとう号』を出すまで、8年かかりました。

『特急おべんとう号』、これについては、もう編集者さんにラフを見せるのをやめ、自分で好き勝手に描いて、着色もして、紙芝居として完成させたんです。それを自分の個展や「人人展」などで展示しました。そしてそのコピーを福音館書店の人に見せたら、「これはおもしろい、出しましょう!」となった。

『特急おべんとう号』には3つの話が収められてますが、当初、『特急おべんとう号』『ねこの大災難』を2冊、別々に出版する予定やったんです。が、ナゼか1冊にまとめましょう、という話になって……2つやったら何かモノ足りないから、もうひとつ、話を考えてと言われた。

もとある2つがドタバタ話なので、ちょっと趣の変わった、ホンワカした話を入れようと編集者さんに言われ、試みたけど、何かしっくりこない。編集者さんもとても迷ってはって……ここで、進行が1年以上停滞しました。そうしている間にその編集者さんが配置換えとなり、後任の人が決まらずさらに宙ぶらりんの状態に……。

時があいて、新しい担当者さんが決まり、その人が「『おべんとう号』同様に、食材でいきましょう!」とスパッと言ってくれて、『全日本おべんとうマラソン』ができた。こうして3つの話が確定し、『特急おべんとう号』がようやく完成しました。

食材たちが大奮闘、「わーさん」「うーやん」「ぶーさん」誕生!

「食べ物の絵本で最近、おもしろいのある?」と、ブロンズ新社の編集者さんが青山のクレヨンハウスさんに尋ねた所、『特急おべんとう号』を推してくれたそう。その編集者さんから連絡をもらい、生まれたのが『ちくわのわーさん』です。

「食べ物」キャラは、キャンバス1枚ものを描く時にもよく使っていました。ラーメンの中で、おにぎりやら焼き魚やらが乱舞しているようなものなど、たくさんあります。この食べ物たちをストーリーと組み合わせて描き出したら、どんどんのめり込んで(笑)

じつは最初から3部作にするつもりではなかったのです。そもそも「わーさん」が一般受けするとは思ってなかったんで(笑) でも、結果広く受け入れていただけて、『うどんのうーやん』、続いて『こんぶのぶーさん』が生まれました。

ちくわのわーさん
うどんのうーやん
こんぶのぶーさん

▲ どこかへ急ぐ「ちくわのわーさん」、自ら出前にでかける「うどんのうーやん」、漫才師をめざすことにした「こんぶのぶーさん」、それぞれがてんやわんやの末、到着する先は……? 『ちくわのわーさん』『うどんのうーやん』『こんぶのぶーさん』(ブロンズ新社)

当初、食べ物に目鼻がないのは不気味という声もありました。けれど、描いてみると食べ物って本当にユーモラスなんですよ。目鼻なんかなくても、そのたたずまいで表情が見えてくる。しかし絵本として描くからには、つけたほうがわかりやすいかなと思い、『特急おべんとう号』のラフでは目鼻はあったんです。だけどやっぱりなんかおもしろくない。「なしでいこう!」と決め、そうしましたが、自分では正しい判断だったと思っています。

絵本のアイデアは、ポッと頭に浮かぶんです。そんな思いつきの段階や、話がタッタッとつながり、筆が進んでいく時は作業がとても楽しい。逆に、仕上げの段階あたりで、そこまでむっちゃスムーズに運んでたのに、「この青いベンチ、赤のほうがいいんちゃう?」なんて気付いてしもたら、全部描き直し。

でも、そっちのほうが断然良くなるんやから仕方ない。今、制作中の絵本もすでに2度ほど、描き直ししてます。予定が全部狂ってくるから、これは大変なことなんです(笑)

この前、嫁さんに、「1日1ページ描かな、間に合わへん」とぼやいたら、「え? 1日1ページしか描かれへんのっ!?」と言われました……。でも、絵本作家の長谷川義史くんに聞いてみたら、彼も「1日1ページくらいやで」と言ってたので安心しています(笑)

「絵本にメッセージは込めない。ただ、楽しんでください」

作品を通じて伝えたいメッセージなどは……特にありません。いや、おもしろかったらいい。でも、おもしろかったらエエねんけど、おもしろかったら「何でも」エエ、ではありません。自分がおもしろいと思うことを表現しています。

絵本って子ども向けやけど、大人もおもしろいと思ってくれたらエエなぁと思って描いてます。だから、特に「子ども向けに」とは意識してないけど、「子どもがわかりやすいように」は心がけています。

子どもが絵本を読んで、ただ「楽しい」と思ったなら、それで十分やと思います。楽しいものを多く目にする、体験する、というのはとても大切やから。

以前、ある所で原画の展示会をした時、年配の男性が見に来てはって、「こういうのは、子どもの何を育むのですか?」と質問されて「はぁ? 難しいですね」と濁したけど(笑) どう答えたらエエかわからへんかった。けれど、こちらがあえて「育もう」としなくても、子どもが読んで楽しかったら、何かが育まれていると思ってます。最初から意図して絵本に「何か」を盛り込むことは、僕はようしません。

よく、読み聞かせのコツについても聞かれますが、皆さん、「ウケなあかん、反応を引き出さなあかん」と思い込みすぎてはるのかなぁ。いや、僕もついついそうなってしまいますねんけども、でも、そんなことあんまり考えなくていいと思うんです。

反応がなくても、子どもは心の中で何かを思っているやろうし、ストーリーを追ってるうちに、気持ちもどんどん変わっていくだろうし、きっといろいろ、あるはずなんです。

今、読んだこの本についてどうやった? とか、そんなに構えなくていいと思います。難しく考えんと、基本的に大きい声で、気持ちに余裕をもって読んであげればいいと思います。


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