絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『すみれおばあちゃんのひみつ』や『にんじん だいこん ごぼう』などの絵本で人気の絵本作家・植垣歩子さんにご登場いただきます。細部まで丁寧に描かれた温かみのある作品は、どのようにして生まれたのでしょうか? 小学校6年生でのデビュー作や台所や洋裁への愛情にあふれた人気作まで制作エピソードや絵本への思いを伺いました。
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1978年、神奈川県生まれ。絵本作家。和光大学芸術学科卒業。小学校6年の時に描いた絵本『いねむりおでこのこうえん』(小峰書店)で第1回DIY創作子どもの本大賞。2002年、『6人の老人と暮らす男の子』で第3回ピンポイント絵本コンペ優秀賞を受賞。主な絵本作品に、『にんじん だいこん ごぼう』(福音館書店)、『すみれおばあちゃんのひみつ』(偕成社)、『うたこさん』(佼成出版社)、『アリゲール デパートではたらく』(ブロンズ新社)など多数。
▲縫い物上手のすみれおばあちゃん。針に糸を通すのが難しくなったので、通りがかりの人にお願いしています。ある雨の日に窓の外には……『すみれおばあちゃんのひみつ』(偕成社)
▲家の食器たちは、料理上手なうたこさんが大好き。風邪をひいた彼女に、食器たちがしてあげたこととは?『うたこさん』(佼成出版社)
『うたこさん』や『すみれおばあちゃんのひみつ』に描いたような、ものをつくっている人が好きです。この2冊の絵本は、台所や食器、裁縫道具への愛情から生まれました。
台所が大好きになったのは、城戸崎愛さんが書かれた『ラブおばさんの子供料理教室』(鎌倉書房)という本がきっかけです。未だにボロボロになりながらも持っています。とても心のこもった料理本で、色にあふれていて絵本としても読めます。お嫁さんやお母さんが、時間をかけて家族のために、美味しいお菓子やごはんをつくって、台所を整えて、ということが、ものすごく素敵なことだなと思うようになりました。
台所の、いつも湯気が立っていて、いつも人がいる気配がして、というところが好きです。幸せな空間が台所だったんですよね。だから未だに人の台所を見るのが好きですし、食器などには目がないんです。
『うたこさん』の見返し(表紙の裏)に載っている食器は、すべて自分が持っているものです。ティーポットも、何人分入れられるの!?という大きいものがあるんですよ。そういうものを見ているだけでも満たされるところがあって、そこからうたこさんが生まれたんですね。食器を見ていると、自然と顔が浮かんで、こういう性格だろうな、という感じでできた作品です。
『すみれおばあちゃんのひみつ』については、先にすみれおばあちゃんとの出会いがあったんです。公園で私が鳩のスケッチをしていたところに、おばあさんがきて、「針に糸を通してください」と実際に言われたんです。
公園の近くに住んでいらっしゃる方で、「絵を描いている人、暇そうだな」と思われたのかどうか。ただ、私はもう、震えが来るくらいびっくりして。「はぁ、どうぞ」と言って糸を通しましたが、心の中では「出会いがきた!」という感じでした。一刻も早く絵本にしなくてはと思って、急いで片付けて一目散に帰って描きました。
洋裁に関しては、私が着るものはほとんど母のお手製であったり、父の実家が長崎で洋裁店を営んでいたり、ひいおばあちゃんが七五三の着物を縫ってくれたりと、常に身近にありましたね。
ちなみにこの話に出てくる、コウノトリの形をしたハサミなどの洋裁の道具も、自分が持っているものなんです。全部好きであふれている本です。ただ自分は編み物にしても、編み目の数とかがどうも苦手で。好きなのにできない、というやるせない気持ちを、絵本にしたと言えますね。
小さい頃に細かく描かれた絵本が好きで生まれた本です。デパートには、子どもの頃よく母と出かけましたが、宝箱のような場所でした。手芸売り場で、母とボタンを選んだり、台所用品売り場でお鍋の中をのぞくとつくりもののチキンがあったり、私の楽しかった記憶を今の子どもたちも共感してくれるかなと思いながら描きました。
デパートを描くに際して、銀座和光と日本橋高島屋で、事前に取材をさせていただきました。和光さんは、お店が開く前に入れてくださって、写真を撮ったり、お話を伺ったりしました。ディスプレイなども本当にすてきで。こんなチャンスを逃すまいと、事前に撮影ポイントをチェックして、カメラも2台用意して、前の日から緊張で寝られないくらい、気合いを入れてのぞみました。
「細かい本をつくりたい」ということで始めた本なんですが、ラフの時点から相当描き込んだので、終わる気がしませんでした(笑) 恋人同士が途中でプロポーズするなど、小ネタをいっぱい仕込みました。私も登場して、アイスをムシャムシャ食べています。姪っ子もいます。だから、読んでいる人も、自分の子どもに似ている子を見つけて、「○○ちゃんだよ」ってお話をつくってくれたらうれしいですね。
姪っ子は今3歳で、最近アリゲールごっこというのが始まっちゃったんですよね。子どもがアイスを落とす場面が最後の方にあって、そんな小さなところから、3歳の子が物語を広げてつくって、劇みたいにしてくれるんです。
子どもは、本当にデパートの中を歩いているのかと思うくらい、集中して見てくれていますよね。その気持ちを裏切りたくないですし、誠心誠意描いていきたいと思います。
ちなみにアリゲールくんは、アリゲーター科のワニです。クロコダイルと違って、まるで笑っているみたいな顔をしているんです。フロリダあたりの出身で、旅をしながらたまに手紙を実家に送っているのかなって想像しています。私は旅好きですが仕事をする時はいつも同じ場所にいるので、アリゲールくんにかわりに旅をしてもらいました。続編について聞かれますが、まだちょっとわからないですけれど、あったらいいですね。
▲旅好きのワニ・アリゲールが、100周年を迎えた「ベイントンデパート」で働くことに。一生懸命がんばりますが、失敗ばかり……。デパートの内部もここまで細かく描き込まれています『アリゲール デパートではたらく』(ブロンズ新社)
いい絵本を描くには、ちゃんと食べなくてはいけないという思い込みがあるんです。お腹に赤ちゃんがいたら、食べるものにも気をつけるのと同じような感じでしょうかね? 「食」って絵に出る気がしちゃって。私がちゃんと栄養を取って描いている絵を見て欲しいって思います。読んでくれている子にも、栄養が伝わるんじゃないかなって。
よく眠りよく食べ、心健やかでいることが、絵本をつくる上で大切なのかなって思います。絵本の世界って安定していて、いつも開けば同じ世界が広がっていて、歓迎してくれる感じがあると思うんです。そんな幸せな世界を描きたいので、自分の気持ちも穏やかでいたいと思います。小さい頃に絵本を読んだ時の幸せな記憶というのを、私は今でも持ち続けています。子どもたちも同じように感じてくれたらと思います。
絵本は、文を勝手に端折ったり膨らませたり、自由に読んでいただいていいと思います。自分が姪っ子に読む時もそうしています。お子さんとの会話を入れるなど、自由にアレンジしていただいたら、本もうれしいんじゃないでしょうか。
絵本ってたくさんありますから、選ぶのも難しいですよね。ただ、もし私に子どもができたら、押しつけになるのかもしれませんが、自分がいいな、好きだな、きれいだな、と思う本を見せると思うんです。
お母さんが「すごくきれいな本だよ」って、ウキウキしていたら、絶対子どもも楽しい気持ちになると思うんですね。ウキウキしたお母さんやお父さんと本を読めるというだけで、すごく幸せなことなんじゃないかなって。もちろん本の内容も大切だけれど、お父さんお母さんの、子どもにも見せたいという気持ちが一番大切じゃないかと思います。
私にとって一番うれしいのは、「アリゲールくんに手紙を書きたくなった」とか、「すみれおばあちゃんを読んで、自分も巾着をつくりたくなった」とか、そんな風に生活の中で思い出してくれたら、その子に会いに行って抱きしめたいくらい! 描いていてよかったなって思いますよね。