絵本作家インタビュー

vol.124 絵本作家 塚本やすしさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『このすしなあに』『はしれ!やきにくん』など、個性的な絵本を発表し続けている塚本やすしさんの登場です。作品のお話はもちろん、ふたりのお子さんのパパでもある塚本さんの、ユニークな子育てエピソードなども聞かせていただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・塚本やすし

塚本 やすし(つかもと やすし)

1965年、東京都墨田区生まれ。幼少の頃より独学で絵を学び、路上でもチラシの裏でもなんでも描きまくる。玄光社ザ・チョイスで入選し、絵描きの道へ。おもな絵本の作品に『このすしなあに』『はしれ!やきにくん』、谷川俊太郎氏作による『ふたり★おなじ星のうえで』『そのこ』などがある。さらに『小説新潮』の表紙絵、重松清『とんび』(東京新聞連載)『くちぶえ番長』(新潮社)の挿絵も手がけるほか、エッセイ『猫とスカイツリー 下町ぶらぶら散歩道』(亜紀書房)など、多彩に活躍中。
塚本やすし オフィシャルブログ http://ameblo.jp/tsukamotoyasushi/

わんぱく小僧だった子ども時代、図工の先生にだけは褒められた

塚本やすし

子どもの頃は、とにかくわんぱく小僧でしたね。あだなが"やっちん"と言うのですけど、地元では"やっちん"と言えば、知らない人がいないぐらいの悪ガキでした。小さい頃から絵を描くのが好きで、ろう石やチョークを使って路上や障子に描いて、怒られたり褒められたりしていました。

色んな物を描いていたけど、よく見ていたマンガやアニメのキャラクターだけじゃなく、自分でつくったキャラクター、例えばなんとか三人衆とかを頭の中で妄想して描いたりして、今思えばその頃から創作活動をして遊んでいましたね。

絵を描くのが好きになったのは生まれつきだと思うけど、今まで40年以上描き続けてこられたのは、小学校のときの図工の先生がよく褒めてくれたのが嬉しかったということが大きいと思います。

本当に悪ガキだったから、担任の先生にしても、他の教科の先生にしても、褒めてくれることがまずなかったんですよ。だけど唯一、その図工の先生だけが、授業で描いた公園のスケッチとか、つくった物とかを毎回毎回、「上手だね」「すごい」と褒めてくれたんです。成績も図工の成績だけは良かったし、そうやって子どもの頃、絵を褒めてもらえたことが、自分の自信につながっていったというのがありますね。

大人になってからは、デザイン会社で働きながら、イラストのコンペに出したりしていました。そして長新太さんや吉田カツさんに褒められて入選して、イラストの仕事も来るようになったんです。会社員をしながら、イラストなどの仕事もアルバイト感覚でしていたのですが、そうこうしているうちにイラストの仕事の方が多くなってきて、30歳のときに、自らイラストやデザインの仕事をする会社を立ち上げました。

そのあと10年あまりその会社を経営していましたが、「ただ稼ぐだけでいいのかな? 本当にやりたいことってなんだろう」と考え始めて、「自分のやりたいことをやろう! 絵本の世界でやってみよう!」と決めて会社を解散してしまいました。

本来の魚の姿を見せたい思いでつくった『このすしなあに』

このすしなあに

▲寿司ネタになる前はどんな姿だったかわかるかな?『このすしなあに』(ポプラ社)

おでんしゃ

▲5月発売予定の新作『おでんしゃ』(集英社)は、全国のおでん仲間が電車に連なりながら話が進むユニークな絵本!

それから絵本は2~3冊、他の絵本作家さんの文に絵をつけることはしていたのですが、挿画だけを描くよりも、文も絵も自分で描いた絵本として出したいと思うようになっていきました。そういう思いで出すことができた最初の絵本が『このすしなあに』です。

お寿司をテーマにしたのは、自分が子どもの頃、お寿司は高根の花と言うか、冠婚葬祭でしか食べる機会がなかったんですよ。当時は回転寿司もなかったですし。そんなお寿司に対する思いが高じて、絵本にしようと考えました。

でも、お寿司を絵本で表現しようと思ったときに、今の子どもたちは、魚の姿と言えばスーパーで売っている切り身でしか、見たことがないんじゃないかと思って。

僕は魚をさばいたりすることもあるので、うちの子どもは魚の元の姿はわりと知っているのだけど、知らないって言う子が多かったんですよね。「ウニってなあに? どんな形しているの?」「いくらってなに?」って。じゃあクイズ形式にして、絵本で魚の形をちゃんと見せてあげようと思ったのです。

年に数回、読み聞かせをする機会がありますが、読み聞かせをしても、「このすしなあに?」と言うと、子どもたちにわーっと受けるんですよ。それを見て、「よし、やったぞ」と(ガッツポーズ)。喜んでくれる姿が見られるので、良かったなと思いますね。

僕は食べ物をモチーフにするのが好きで、5月には『おでんしゃ』という絵本を出します。おでんを食べているときに、これを走らせたら面白いんじゃないかという発想からできました。

おでんが本当に走るわけがないけど、こうなったら面白いだろうな、という発想力で表現できるのが、絵本作家の醍醐味だと思います。空想を紙の上で、2次元という形ではあるけど、実現できるというのは楽しいですね。

作品に関わるときは、いつも面白がりながら、つねに遊び心を持って取り組んでいます。

本物を見る、経験することにこだわった作品づくり

むらをすくったかえる

▲サトシンさん作による期待の新刊『むらをすくったかえる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

だいじょうぶだよ、おばあちゃん

▲介護、そして高齢者との関わり方を描いた絵本『だいじょうぶだよ、おばあちゃん』(講談社)

まもなく、サトシンさんとの2冊目の絵本、『むらをすくったかえる』が発売されます。サトシンさんが文で、僕は絵を担当しています。

この絵本は、「何のために生きるのか?」がテーマになるのですが、最後のシーンはとくに力を入れて描きました。

このお話は、サトシンさんが歌にもしていて(CD『ソング絵本大全集』に収録)、それを聴いた人はみんな泣いちゃうぐらいいい話なんですよ。かえるがどう生きたのか、ぜひ読んでいただきたいです。

僕は『だいじょうぶだよ、おばあちゃん』という介護の絵本も出しているんですけど、介護のことを描くためには、本物じゃないといけないと思って、ヘルパーの学校に行って、実際にヘルパー2級の資格を取りました。

自分で介護の仕事をして、他人の世話って本当に大変だということを経験してみないと、この絵本は嘘になってしまうと思ったので。実際にやってみないと、わからないことって多いですからね。

いずれ体操をテーマにした絵本も出す計画があるので、ラジオ体操指導員の免許も取りました(笑)  そう、とことん「本物」じゃないと嫌なんですよ。

絵本にするときは、なるべく本物を見る、そして経験するのが僕のこだわりですね。


……塚本やすしさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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