絵本作家インタビュー

vol.10 絵本作家 とよたかずひこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回ご登場いただくのは、元気な赤ちゃん「ももんちゃん」シリーズでおなじみの絵本作家・とよたかずひこさんです。講演会や原画展にひっぱりだこで、日本中を駆け回っているとよたさん。絵本作家になったきっかけや読み聞かせ会について、絵本づくりにおけるこだわりなどを語っていただきました。ももんちゃん制作エピソードは必見ですよ!
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・とよたかずひこさん

とよたかずひこ

1947年、宮城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。イラストレーターを経て絵本作家に。1997年、『でんしゃにのって』(アリス館)が厚生省中央児童福祉審議会児童文化財特別推薦を受ける。『どんどこももんちゃん』(童心社)で第7回日本絵本賞受賞。『あめですよ』が小学1年生の国語の教科書(東京書籍)に採用される。主な作品に「バルボンさん」シリーズ(アリス館)、「ももんちゃん」シリーズ(童心社)など。『いきものいっしょうけんめい』(ポプラ社)は中国語版が、「しろくまパパ」シリーズ(岩崎書店)は韓国語版が出版されている。

読み聞かせのあと聞かれた、傑作な質問

日本中あちこちに講演や読み聞かせをしに行ってますが、感心するのは、子どもってこんなに聞いてくれるもんなのってこと。今日はいい天気なんだから、外に遊びに行った方が楽しいんじゃない? 読み聞かせがそんなに好きなの? 親に連れて来られたんじゃないの?って聞きたくなっちゃう(笑) 本当に不思議なほど、よく聞いてくれるんですよ。

子どもの反応って一人一人違うから、そこがおもしろいですね。いろんなエピソードがありますよ。ある保育園では、読み聞かせ会のあと、年長さんのクラスで一緒にお昼を食べていたとき、傑作な質問が出たんです。「とよたさんは将来何になりたいですか?」って。一瞬、真面目に考えちゃいました。そのとき僕は58歳。58で将来か……僕はこれから何になりたいんだろう?って(笑)

その日は、事前に「僕のこと先生って呼ばないで、とよたさんって呼んで」と保育園の先生に頼んでたんです。「先生」と呼ばせちゃうと、子どもと僕との間に距離感が生まれてしまうので。その質問をした子は、僕のことを自分と同じ年齢くらいだと思ってたのかもしれない。たぶん「先生」って呼ばせてたら「将来何になりたい?」なんて質問はなかったんでしょうね。質問に答えられずにいたら、すぐうしろの席でお昼を食べていた保育園の先生が笑い出して、そうしたら他の子どもたちが「サッカーの選手になりたい!」「パン屋さんやりたい!」って声を出してくれたので、結局、僕の答えは言う間もなかったんですけどね。助かりました。

絵本を通じて、子どもにエネルギーを与えたい

子どもからエネルギーをもらうって言い方をよく聞くけど、僕の場合は、むしろ子どもたちにエネルギーを与えてあげなくちゃいけないと思ってます。絵本を通じてね。講演会も、子どもたちにエネルギーを与えに行ってるんですよ。だから終わると疲れがどっと出るんだけどね(笑)

今の時代、閉塞状況だと感じている人も多いだろうけど、世の中はある意味、万年閉塞状況なわけですよ。いい時代なんてそんなにないんだから、今の時代がそれほど悪いって嘆く必要はないんです。こういう時代だからこそ僕は、「生きていれば、いろんな楽しいこと、おもしろいこともあるんだよ」と力ずくでも子どもたちに伝えていきたいと思うんです。

やっぱり生きることを肯定的にとらえていくような作品をつくりたいですね。おもしろいことはこれからもいっぱいある。そのためには命がなきゃしょうがないんだから。子どものうちにそういうことを、絵本とお父さんお母さんの声を通じて伝えていけば、それは子どもの生きる力になっていくと思うんです。世の中ダウンしているっていうのは確かにあることはあるんだけど、ずっとダウンしっぱなしなわけじゃない。そういうときに、やっぱりだめだよねって言うよりは、「もっと楽しいことがあるから心配ご無用!」って伝えていきたいですよね。

新作のキーワードは「心配ご無用!」

▲新作「おいしいともだち」シリーズは9月に童心社から出版予定

今、新作として「おいしいともだち」シリーズを制作しているんですが、このシリーズは「心配ご無用!」がキーワードなんです。

人間はいっさい出てこなくて、おにぎりが自分で自分をにぎるんです。あーんと口を開けて具をおなかに入れて、海苔を羽織ってできあがり。「できたー!」って喜んだ3つのおにぎりたちが歌って踊ってるうちに、どれがどの具だったかわからなくなっちゃうんだけど、ここで「心配ご無用!」。3つとも食べればいいじゃんっていう風に終わるんですよ。このシリーズは、9月におにぎりとたまごの2作品、出る予定です。

ももんちゃんは自立した赤ちゃんですが、今度のシリーズでは食べ物が自立するんですね。子育てをしていると、どうしてもいろんなことに過剰に反応してしまいがちでしょう。でも、親がどうであれ、子どもは育っていくんですから、親はそこまで構えなくてもいいと思うんです。放っておいていいなんていいかげんなことは言えないけど、子どもが本来持っている生命力にもっと期待していいんじゃないかなと。そう思うから、僕は北海道から九州まで、子どもたちにエネルギーを与えに出かけるんです。

1時間半程度で教えられることなんてないんだけど、「とよたさんって人が絵本を持って読み聞かせしに来たよな」って、おぼろげにでも楽しい思い出として残ってくれれば、それでいいんです。絵本は、何かを教えたり伝えたりするというよりも、楽しかった、おもしろかったという気持ちの部分に働きかけるものですからね。だからお父さんお母さんも、絵本の読み聞かせをするとき、読書好きになるようにとか、言葉を早く覚えるようにとか、そういう期待はせずに、純粋に楽しんでほしいですね。

今後は、ももんちゃんよりさらに前の、喃語を使ってる0歳児の赤ちゃん向けの絵本をつくってみたいです。作家も編集者も、2歳くらいまでなら記憶をたどって戻れると思うんですが、その前の世界となると、もうわからないですよね。そもそも、0歳児にとって果たして絵本は必要なのかっていうのもありますし。それだったら耳元で「パパピプポ…」なんて言って抱いてやれば、絵本がなくても喜ぶわけですから。でもつくり手としては、あえてそこに挑戦してみようかなと。難しいだろうとはわかっているんだけど、そこを難しく考えずに、軽やかにつくっていけたらなと思っています。


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