絵本作家インタビュー

vol.87 絵本作家 香川元太郎さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『時の迷路』をはじめとした迷路絵本シリーズが大人気の絵本作家・香川元太郎さんにご登場いただきます。子どもの頃から迷路が好きだったという香川さん。シリーズ累計170万部を超えるベストセラーとなった迷路絵本は、どのようにして生まれたのでしょうか? インタビューを読んで、迷路絵本をもっともっと楽しみましょう! 今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・香川元太郎さん

香川 元太郎(かがわ げんたろう)

1959年、愛媛県生まれ。武蔵野美術大学大学院修了。歴史考証イラストの専門家として、歴史雑誌や教科書などに多数のイラストを描く。迷路・隠し絵制作でも定評があり、『時の迷路』『昆虫の迷路』『進化の迷路』をはじめとする迷路絵本シリーズ(PHP研究所)はシリーズ累計170万部突破のベストセラーとなっている。最新作は『宇宙の迷路』(PHP研究所)。そのほかの作品に「かずの冒険」シリーズ(小学館)がある。
香川元太郎GALLERY http://kagawa5.jp/

迷路絵本はこうしてできる!

迷路絵本ができあがるまでにはいくつもの工程があるんですが、下絵にはかなり時間をかけますね。まず最初は、大きな構図から描いていきます。

たとえば『宇宙の迷路』の「もえる太陽」の迷路の場合、太陽をどれぐらいの大きさで、どういう要素を入れて描くかとか、直接近づくのは無理だから宇宙船の中から見るような構図にしようとか、そういう構図をまず考えるんですね。その次に、そこにどんな迷路や隠し絵が入れられるかを考えていきます。

迷路だけを最後まで考えきってから隠し絵を入れようとすると、小さい隠し絵しか入れられなくなってしまうので、大きめな隠し絵2、3個は迷路と一緒に考えて入れていきます。ひと通り考え終わってから、小さい隠し絵を入れるために迷路の形を少し変えたり、全体の構図を見直したり…… いろいろ行ったり来たりしながら下絵を描いていくんです。

宇宙の迷路

▲シリーズ最新刊の舞台は広大な宇宙!『宇宙の迷路』(PHP研究所)。宇宙空間、惑星、銀河などにしかけられた、ワクワクする迷路と隠し絵が楽しめます

できるだけ細かい部分まで間違いのない絵にしたいので、いろんな資料を参考にしながら描いています。だから、ものすごく時間がかかりますね。ときどき、正確に描くことに一生懸命になりすぎて、迷路のことも隠し絵のことも忘れてしまいそうになることもあって……(苦笑) でも迷路絵本は、子どもたちに楽しんでもらうためのもの。あくまでエンターテイメントのための絵本なんだっていう気持ちは忘れずに描いていくよう心がけています。

新作の『宇宙の迷路』は、今までの迷路絵本とは少し雰囲気の違うものになりました。というのも、宇宙は広すぎて、細部のおもしろさで見せるということが難しいんです。宇宙をどうやって迷路にするか、アイデアがなかなか浮かばなかったんですが、何冊も宇宙の本を読んで調べていくうちに、宇宙開発の歴史と絡めて描いてみようとか、土星の輪をつくっている氷の粒で迷路をつくろうとか、いろいろとアイデアが浮かんできました。宇宙の迫力やスケールを感じてもらえたらうれしいですね。

目指すは漫画に負けないエンターテイメント絵本

かずの冒険 野山編

▲迷路、隠し絵、算数クイズなど、さまざまな要素がつまった冒険ストーリー『かずの冒険 野山編』(小学館)

子どもたちを見ていて思うのは、絵本から漫画への移行が早い子が結構多いということ。僕自身、小学校に入る前から漫画を読み始めていたんです。藤子不二雄とか手塚治虫とか、夢中になって読みました。

大人のための絵本というのもあるけれど、絵本ってどちらかというと、赤ちゃんから幼稚園児ぐらいまでの年少時のものという印象が強いんですよね。だから小学生になると、子どもたちはどんどん絵本を卒業して、漫画やテレビゲームに興味を持つようになる。それはやっぱり、漫画やゲームの方がエンターテイメント性が強いからだと思うんですよ。

漫画やゲームを否定するつもりは全然ありません。むしろ自分も好きなくらいなので、漫画やゲームの楽しさはよくわかっています。でも、それと同じくらいのおもしろさを、絵本でも実現できたらと思っているんです。

絵本って、小さい子だけのものではなくて、小学生以上の子でも楽しめる可能性のある媒体だと思うんです。実際、小学5、6年生でも僕の迷路絵本を好きだと言ってくれる子がいますからね。ただそういう子はまだ一部なので、もっともっとたくさんの子に楽しんでもらえる絵本を目指したい。だからこれからも、漫画やゲームをライバルだと思って、それに負けないぐらいのエンターテイメントとしての絵本を追求していきたいです。

子どもの遊びを応援してあげよう

絵本作家・香川元太郎さん

▲右にいるのは『宇宙の迷路』のイベントで登場するロボット“テンタくん”。絵本の中にも登場します

子どもは遊ぶことが勉強。遊びの中からいろんなことを学んでいくんですよね。これは、僕自身の経験からも、僕の子どもを見ていても、実感したことです。

いろんなことをバランスよく勉強することも、ある程度は必要だと思います。でも、一番好きなことに没頭するってことは、すごく大事だと思うんですよ。没頭して遊んだ経験というのが、その子の個性を伸ばすことにつながっていくわけですから。そのとき親は、“教えてあげる”というよりも、“一緒に遊ぶ”くらいの感じで応援してあげるのが一番だと思います。

僕の息子は小さい頃、水生昆虫にすごく興味を持っていて、普通の虫とりじゃなくて、川の中で虫とりをするのが好きだったんですね。だから、よく一緒に川に虫とりに行きました。川で遊ぶのは多少の危険がともないますが、そこは大人の目線で注意を払いながら、好きなだけやらせてあげていたんです。その息子は今、大学院で生物学を勉強しています。子どもの頃の遊びが今につながっているんです。

僕自身も、子どもの頃に好きだったことが全部、今の仕事につながってますからね。やっぱり、楽しむ中で学んでいくということが大事なんじゃないかなと思います。迷路絵本も、楽しみながら学ぶことに役立ってくれていたらうれしいですね。


ページトップへ