絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『すっぽんぽんのすけ』『ふってきました』などでおなじみの絵本作家・もとしたいづみさんです。2人の女の子のお母さんでもあるもとしたさんに、絵本作家になられるまでのさまざまな経験や、仕事と子育てで苦悩した日々のこと、人気絵本の制作エピソードなど、たっぷりと伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1960年生まれ。絵本作家・翻訳家。2005年『どうぶつゆうびん』(絵・あべ弘士、講談社)で、産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、2008年『ふってきました』(絵・石井聖岳、講談社)で、日本絵本賞、講談社出版文化賞絵本賞を受賞。そのほか、主な絵本に「すっぽんぽんのすけ」シリーズ(鈴木出版)、『めかくしおに』(ほるぷ出版、絵・たんじあきこ)、幼年童話に「おばけのバケロン」シリーズ(ポプラ社)などがある。
ブログ「もとしたいづみのだからどうした」 http://ameblo.jp/kenkoukotu/
▲もののけの国に迷いこんでしまった女の子。どうしたら元の世界に戻れるの!?『めかくしおに』(ほるぷ出版)。絵はたんじあきこさん
私の場合、ディテールはどんどん浮かぶんですけど、かちっとした骨子ができるまでに時間がかかるんです。だから、最初のうちは「何を書こう」ってすごくウキウキするんですけど、ある程度ちゃんとしたレベルのところに持っていく段階になると、苦しみもありますね。
絵描きさんのところに渡ると、ひとまずホッとします。その後しばらくしてから、絵のラフがあがってくるんですけど、そうしたらいったん全部忘れて、文章を書き直していきます。絵で表現できているからここは削ろうかな、といった感じで、絵に合わせて文章を整えていくんです。
たんじあきこさんとの『めかくしおに』のときは、形になるまでかなり時間がかかりました。このときは、たんじさんの絵と私の文章、という組み合わせが最初から決まっていたんです。編集の方からの提案で“もののけ”の絵本をつくることになったんですけど、ストーリーがなかなか決まらなくて。主人公がどんな経緯で“もののけ”の国に行ったのか、いくつもの設定を考えて、試行錯誤しました。
たんじさんの描いた“もののけ”たちを見たときは、すごい!と思いましたね。こわいけれどかわいさもある、たんじさんならではの“もののけ”で。この絵で手ぬぐいとかつくったら素敵なのができそうですよね。
できあがった絵を見るのは、絵本づくりにおいて何よりの楽しみ。この楽しみがあるから、絵本づくりがやめられないんですよ。
▲ライオン一家の末っ子カランちゃんが主人公の幼年童話『あかちゃんライオン』(ポプラ社)。お子さんが語ったお話をもとにストーリーをつくられたそうです。絵はいちかわなつこさん
絵本は子どもが生まれてから、よりたくさん読むようになりました。それまでも結構読んできたつもりなんですけど、自分の好みで選んじゃってたんですよね。それが子どもと一緒だと、自分では手に取らないような絵本まで読むようになったんです。
子どもに「これ読みたい!」と言われて、「えー、これ?」なんて思っていた絵本も、読んでみると意外とよかったりするんですよ。おかげでたくさんの絵本と出会うことができました。子どもとの絵本の時間で、新たな世界が広がったような気がしています。
上の娘には、2ヵ月の頃から絵本を読んでいたんですが、下の娘のときは気づいたらもう7ヶ月ぐらいになっていて……慌てて読み聞かせを始めたら、すぐに文章を諳んじているんです。もうそんなに大きくなっちゃったのかと、なんだか申し訳ない気持ちになりましたね。
下の娘は今、中学1年生なんですけど、寝る前の読み聞かせの習慣はまだ続いているんです。おいしそうな食べ物が出てくる絵本が好きで、小さい頃に何度も読んだ『フランシスのおともだち』(好学社)なんかをよく持ってくるんですよ。最近はときどき、私が絵本を読みたいのを察して「読んで」と言ってくれてるなと感じることもあるんですけど(笑) いつまで続くのかわかりませんが、幸せな時間ですね。
▲空から降ってきたものとは…!? ユーモアたっぷりの絵本『ふってきました』(講談社)。絵は石井聖岳さん
泣ける絵本をつくってほしい、と編集者から求められることもあります。でも私はどちらかというと、絵本で楽しい気分になってほしいという思いが強いので、どうしても笑いが多くなってしまうんです。私の本が、本っておもしろいな、他のも読んでみようかなって興味を持つきっかけになったらうれしいですね。
絵本って、大人の本と比べたらページ数もずっと少ないのに、その何ページかをめくっていくだけで、違う世界に連れていってくれる。本当にすごいものだなって思うんです。だから、一人でも多くの人に、その楽しみを知ってほしい。そのためにも、楽しいお話を書き続けていけたらいいなと思っています。
子育てについては、私は子どもが小さい頃から仕事をしていたので、まわりの人たちにいろんなことを言われたんです。「子どもを預けてまでしなきゃいけない仕事なの?」「うちにいればいいじゃない」「一体何やってるの?」―― そんな風に、親にまで言われて。
だけど、子どもとの関係は時間さえ費やせばいいっていうものではないと思うんですよ。保育園に預けていると、どうしても会える時間は短くなるけれど、時間が短いとその分密度が濃くなるというか、やさしく接してあげられるような気がするんですよね。子どもとの関係は、どれだけ長い時間一緒に過ごせるかということよりも、どんな風に過ごすかの方が大事だなって思います。
うちの子どもは、「お母さんみたいに友達がたくさんいて、いろんなこと楽しんでる大人になりたい」って言うんです。大きくなった今だから言えるのかもしれないけれど、そんな風に思ってもらえるのはうれしいことですよね。楽しくしていれば、子どもはちゃんと見ています。たとえその間、離れていようとも。だから、子育て中のみなさんには、子どもとの時間も大切にしながら、いろんなことを楽しんでほしいですね。