絵本作家インタビュー

vol.48 絵本作家 石井聖岳さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おこだでませんように』の絵や『森のイスくん』『ぷかぷか』などの作品で注目を集める絵本作家・石井聖岳さんです。絵本作家になられたことを「ラッキーだったんです」と語る、ちょっぴりシャイな石井さん。絵本づくりの方法や制作エピソード、絵本の魅力などについてお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・石井聖岳さん

石井 聖岳(いしい きよたか)

1976年、静岡県生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒業。学童保育でアルバイトしながら、子どもの本専門店メリーゴーランドの絵本塾に通い、『つれたつれた』(文・内田麟太郎、解放出版社)で絵本作家デビュー。主な作品に、『おこだでませんように』(文・くすのきしげのり、小学館)、『ふってきました』(文・もとしたいづみ、講談社)、『ツェねずみ』(文・宮沢賢治、三起商行)、『ぷかぷか』『森のイスくん』(ゴブリン書房)などがある。 http://ishikoro.jp/

絵本作家になった自分に、自分でもびっくり

絵本作家・石井聖岳さん

小さい頃から絵を描くのが好きでした。よく覚えているのは、小学校1年生の頃、僕がつくったちょうちょの切り絵を見た先生が、すごくきれいと褒めてくれたこと。女の子の作品だと思っていたらしくて、僕がつくったと言ったら驚かれました。

学生時代は、芸術系の短大で版画をやってたんですけど、卒業後も版画を続けていく自信はなくて……そんなとき意識し始めたのが、絵本でした。ちょうどその頃、メリーゴーランド(三重県の子どもの本専門店)に絵本塾というのがあると知って、じゃあそこに行ってみようかなと。

絵本塾には、3年近く通ってました。塾といっても、先生があれこれ教えてくれる、というようなところではないんですよ。作品を持っていくと講評してもらえるので、つくっては持っていって見てもらう、というのを繰り返していました。プロの編集者から直にアドバイスをもらえるので、すごくよかったですね。他の人の作品もまわし読みできるので、それも刺激になりました。

デビュー作の『つれたつれた』は、絵本塾に通っていた頃に描いたんです。内田麟太郎さんの文章に合う絵を探していた編集の方が、絵本塾にいらしたので、僕の作品ファイルも見せたんですね。そうしたら、あとから連絡いただいて。ラッキーですよね。でもそのときは、うれしいという気持ちより、ほんとに僕でいいのかな、みたいなプレッシャーの方が大きかったです。

いまだに僕、自分が絵本作家として仕事をしていることに、自分でもびっくりしてるんですよ。絵は小さい頃から描いてきたけれど、絵本はまだわからないというか……本当に難しくて。毎日泣きながら描いてるんです(笑) でもこれからも、絵本の仕事は続けていくつもりです。今さらほかに何をするかって考えることの方が大変ですからね(笑)

絵本に盛り込む“自分の気持ち”

『おこだでませんように』

▲怒られてばかりいる子の心の中を描いた絵本『おこだでませんように』(小学館)。文はくすのきしげのりさん。

僕は自分で作・絵のどちらもすることもあれば、絵だけ描くこともあります。絵だけ描く場合、自分の気持ちをどの程度盛り込むかは、作品によっていろいろですね。

『おこだでませんように』とかは、くすのきしげのりさんの思いが強かったので、それをできる限り表現するようにってことで、僕の気持ちは抑えてるんです。それが内田麟太郎さんの場合だと、文が少なくて、あとは考えてねって感じなので、自分でいろいろ工夫して、ないものを描き加えたりもします。

文章を書く方にそれぞれ思いがあるように、僕も僕なりに、もらった文章に対して感じることがあって、そのイメージで描いていくわけですが、自分がどういう気持ちで描いたのかってことについて、僕はあまり言わないようにしてるんですよ。読む人が好きなようにイメージしてくれればいいと思っているので、僕の気持ちを言っちゃうのはもったいないなと思って。

この絵本のメッセージは何かっていうのは、読む人が考えてくれればいいんじゃないかな。読む人次第でいろんな風に読めるのが、絵本ならではの魅力でもありますからね。

一枚の絵から話を広げていく

森のイスくん

▲ちょっぴり不思議なイスくんと、森の友だちの物語『森のイスくん』(ゴブリン書房)

『森のイスくん』は、個展のために描いた一枚の絵がもとになって生まれた絵本です。家具屋さんの店内に、家具をテーマとした絵を展示させてもらったときに描いた、イスの絵。それを編集の方が見て、この絵をもとに絵本をつくりませんか、と声をかけてくれたんです。

最近はだいたい、ひとつのシーンから話を広げていくっていうやり方をすることが多いですね。絵本の1ページ目から順番に考えていくんじゃなくて、一枚の絵とか、シチュエーションとかから、その前後を考えていくんです。絵と文章はだいたい同時に考えますね。映画でいうと5秒くらいのシーンが断片的に浮かんできて、そこからいいとこどりをしていく感じ。真ん中から広げていくこともあれば、前の方のこともあったり、うしろの方のこともあったり。自分でもわからないんですけど。

イスくんのときは、森にたたずむイスくんのシーンから広げていきました。いすくんがすごいしゃべるバージョンとか、一番最初に仲良くなるバージョンとか、いろいろとアイデアを出して、試して……最終的には、すでに仲良くなってるっていうところから始まるようにしました。

本物の「イスくん」もつくったんですよ。自分で木を買ってきて、切ったり削ったりしてつくりました。去年、『森のイスくん』の原画展を開催したときに一緒に展示していたんですが、今は僕のアトリエにたたずんでいます。


……石井聖岳さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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