絵本作家インタビュー

vol.57 絵本作家 竹内通雅さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ぶきゃぶきゃぶー』の絵や『おたねさん』『たこたこふうせん』など、迫力のある絵とどこかとぼけた作風で人気を集める絵本作家・竹内通雅さんです。現代美術のアーティストやイラストレーターを経て絵本作家になられた経緯や、話題の最新作『イチロくん』の制作エピソードなど、いろいろとお伺いしました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・竹内通雅さん

竹内 通雅(たけうち つうが)

1957年、長野県生まれ。創形美術学校版画科卒。1986年「ザ・チョイス年度賞」大賞受賞。39歳でイラストレーターから絵本作家に転向。主な作品に『たこたこふうせん』(架空社)、『どんどん しっぽ』(あかね書房)、『おたねさん』(農文協)、『ぶきゃぶきゃぶー』(文・内田麟太郎、講談社)、『きみのともだち』(岩崎書店)、『月夜のでんしんばしら』(作・宮沢賢治、三起商行)、『イチロくん』(ポプラ社)などがある。
竹内通雅blog ぴいたら日和 http://tugablue.exblog.jp/

お父さんと子どものお話タイム『イチロくん』

『イチロくん』

▲眠れないイチロくんの枕元でお父さんがお話を聞かせてくれる『イチロくん』(ポプラ社)。「おとうさんだいすき」シリーズ第3弾の絵本です

別に悪いことではないんですけど、ここのところ絵本の世界が、何でもありになってきてるように感じるんですよ。僕自身、そういう作品もつくったりしてるんですけれど、絵本業界が何でもありになりつつあるなら逆に、物語性のしっかりしたものをつくらないとって思ったんです。物語性がどんどん失われていくのは淋しいですから。何でもありの作品と物語性のある作品、どちらかに偏りすぎずにつくっていきたい、という僕の中のバランス感覚みたいなものも働いたんでしょうね。そうしてできがったのが、『イチロくん』です。

お父さんが適当な話をつくって子どもに聞かせるっていうのは、どの家でも結構やってますよね? 『イチロくん』は、そんなお父さんの与太話が、絵本の中で進んでいくというお話です。いろんな画材を組み合わせて描いてるんですけど、現実の世界と、お父さんが話す物語の世界が区別できるように、イチロくんとお父さんのベッドのところは違う紙に描いたものを切って貼ってるんですよ。

実際は、お父さんが話を聞かせてくれると、子どもは興奮してなかなか眠れなくなっちゃって、お父さんが先に寝ちゃうってパターンの方が多いと思うんですけど、「おとうさんだいすき」シリーズの絵本としては、ここはお父さんをヒーローにしてあげないとってことで、イチロくんが先に寝ちゃうことにしました。

お父さん役の人とイチロくん役の人とで、かけあって読むのもおもしろいですよね。今日は全部読むのが面倒くさいなぁ、なんて日は、お父さんの話す物語の部分だけ読むっていうのもありです。そうしても成り立つようにつくっているので。もちろん、これをもとにどんどん話を発展させていくっていうのもおもしろいですよね。たくさんの親子に長く愛される絵本になってほしいなと思っています。

いろんな絵本を読むと、心が豊かになる

絵本って、知育のためのものとか、楽しむためのものとか、いろんなものがありますよね。さすがにあまりにもひどいものとか、汚いものとかはないですけど、そういうのを除けば、いろんなものがあっていいと思うんです。

でも、いろいろあるとそれはそれで、選ぶのが大変なんでしょうね。日本人って比較的、自分で選べないようなところがありますから。そういうときには、おすすめの本のリストを参考にしてみるのもいいと思います。

たこたこふうせん きみのともだち
走れメロス えらいえらい!

『たこたこふうせん』(架空社)、『きみのともだち』(岩崎書店)、『走れメロス』(文・太宰治、ほるぷ出版)、『えらいえらい!』(文・ますだゆうこ、そうえん社)。ほかにも竹内通雅さんはいろんな絵本をつくられています!

僕なんかも、東京に出てきてからジャズを聴くようになったんですけど、最初はちんぷんかんぷんなわけですよ。先輩に「いいだろ?」なんて薦められても、どこがええんじゃ、という感じで。そんなときに頼りになったのが、ジャズのベスト100みたいな情報でした。ちょっと勉強すると、曲についての裏話とかを知ることができるじゃないですか。そういう知識があって聴くと、より楽しくなるんですよね。

映画もそう。とっかかりとして何か見てみて、「へ~、こんな監督がいるんだ」と興味が湧いたら、その監督の映画を全部見てみる、とか。クラシック音楽だって、とっつきにくいように思われてるかもしれないけど、気に入った曲から入って少しずつ知識を得てくると、親しみをもてるようになると思うんですよ。

絵本も同じで、そんな風におすすめリストを参考にしながら、興味の範囲を広げていけばいいんです。そうするうちに、いずれは自分なりの価値観で選べるようになるんじゃないかな。

いろんな絵本を読むことは、心の豊かさにつながると思うんです。いろんなこと知るっていうのは、単純に楽しいですし。とか言いながら、僕自身はほかの作家さんの絵本をあまり読んでいないんですけどね(笑) 影響されたくないっていうのもあるので。でも、僕も含め、世の中にはいろんな作家さんがいて、いろんな絵本をつくっているので、気軽な気持ちでこれ読んでみようかな、と手にとってもらえたらうれしいですね。

子どもたちの記憶に刻まれる絵を描きたい

絵本作家・竹内通雅さん

最近は、絵本一辺倒の生活になっていて、自分の絵が描けてないんですね。絵本ももちろん自分の作品なんですけど、絵本以外のところでももっと自分の絵を描いていきたいなと思っているんです。そこで得たテクニックや考え方を、また絵本に還元していく……そんな流れにできたらいいですね。その方が僕の絵本も進化していけるんじゃないかと思うんです。

僕の望みは、そうやって描いた僕の絵が、子どもたちの記憶のどこかに残ること。子どもの頃に見た絵本のことって、たぶん忘れる時期があると思うんですよ。でも、僕の絵本の中のある一部分でもいいから、強烈に気になる絵がばーん!と頭に入っていたら、いつかフラッシュバックして、「どこかで見たことあるぞ、あれはいったい何だろう?」ってなるんじゃないかな。そこでまた探して、実家の本棚から見つけたり、本屋さんで再会したりしたら、うれしいじゃないですか。

僕は、お話の内容で何かを伝えたいっていうよりも、絵に親しんでほしい、絵を心に刻んでほしいっていう気持ちの方が強いんです。子どもたちには、僕の絵本に触れることで、絵の迫力みたいなものを体験してほしいですね。もちろんただ単純に、ウケたいっていうのもあります。あっはっは、おもしろーい!って子どもたちから言われる絵本を、これからもつくっていきたいですね。


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