絵本作家インタビュー

vol.58 絵本作家 マイケル・グレイニエツさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『お月さまってどんなあじ?』などでおなじみの、ポーランド出身の絵本作家マイケル・グレイニエツさんです。ヨーロッパとアメリカでのご活躍のあと、2001年から活動の場を日本に移して絵本をつくり続けているマイケルさんに、絵本の制作方法や日本について思うことなど、お話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・マイケル・グレイニエツさん

マイケル・グレイニエツ

1955年、ポーランド生まれ。ヨーロッパでイラストレーターとして活躍し、1985年アメリカに移住。『お月さまってどんなあじ?』(セーラー出版)で、1996年日本絵本賞翻訳絵本賞を受賞。そのほかの主な作品に『クレリア』『おとぞうさん』(セーラー出版)、『どのあしがさき?』(鈴木出版)、『いちばんたかいのだあれ?』(金の星社)、『フィアボ』『こねこ9ひきぐーぐーぐー』(ポプラ社)などがある。2001年より活動の場を東京に移し、絵本の創作活動を続けている。

アイデアは、動いているときにひらめく

絵本作家・マイケル・グレイニエツさん

私は映画が好きで、ポーランドにいた頃は映画監督になりたいと思っていました。2年くらい映画監督のアシスタントをしていたこともあったんですけど、続けていくのがなかなか難しかったんですね。その後、絵を描くようになって、あるとき昔話の絵を描いて出版社に持ち込んだら、それが出版されることになったんです。そのときその本が出版されていなければ、絵本の道には進まなかったと思います。

ポーランドの絵本は、言葉と絵を別の作家がつくることが多いんです。だから、ポーランドから出たとき、ほかの国ではテキストと絵を同じ人がつくっている絵本が多いと知って、驚きました。そして、自分にはこの仕事は続けていけないな、と思いました。テキストを書くのは、苦手だったからです。

ただ、ヨーロッパの出版社が出す絵本はいつも同じパターンだったり、どれも教訓めいたメッセージが込められてたりして、あまり好きにはなれなかったんですね。たとえば「友達とは仲良くしましょう」といった大人の考えがいつも入っていて、どの話も似たような感じなんです。私はそういうのとは違う絵本がつくりたいと思っていました。

絵本のアイデアが浮かぶようになったのは、アメリカに住み始めてからのことです。2ヶ月ほどヨーロッパにドライブ旅行に出かけたんですが、その間にいろいろなアイデアが舞い降りてきたんです。それが絵本のアイデアなのかどうか、そのときはよくわからなかったけれど、最終的に絵本になりました。私が本当に絵本作家になれたのは、そのときです。

アイデアはたいてい、動いているときにひらめきます。動いていると、考えが強くなるんです。旅行中とか、ちょっと外に出かけたときとか。喫茶店にいるときなんかも、誰とも話をしなくても、まわりに人がいっぱいいて、声が聞こえるでしょう。そうすると自然とアイデアが降りてきたりします。

私の絵本は、そんな風にしてひらめいた自分のアイデアを、子どもにもわかるように簡単な形にしてつくっているだけなんです。

『お月さまってどんなあじ?』ができるまで

『お月さまってどんなあじ?』

▲お月さまを一口かじってみたいという動物たちのお話『お月さまってどんなあじ?』(訳・いずみちほこ、セーラー出版)。1996年には日本絵本賞の翻訳絵本賞を受賞

ヨーロッパを旅行していたとき、10冊分くらいの絵本のアイデアが浮かんだんですが、『お月さまってどんなあじ?』もその中のひとつです。

下から上に何かがどんどんのぼっていく、というのがもともとのアイデア。動物を重ねていくことでそれを表現したんですが、それだとおしまいがないから、どこまでも続いてしまう。どうしようかって考えて、お月さまを食べるっていうゴールをつくったんです。そうしたらうまくお話としてまとまりました。

この作品では、ぼこぼこした紙に絵を描いて、絵の向こう側からライトを当てながら写真を撮りました。そうすることで、影が出るんです。その写真をスキャンして、原画として使いました。絵のスタイルは作品ごとに変えているのですが、近いうち、またこの手法で描いてみようかなと考えています。

最近は絵本以外に、大人向けの絵も描いているんですが、絵本をつくるときとはだいぶ気分が違いますね。大人向けの絵を描いているときは、とてもアグレッシブ。ストレスから絵が生まれるようなところがあります。でも、絵本をつくるときはとてもリラックスした状態なんです。大人向けの絵を描いているときよりも、ずっとやわらかいイメージ。もちろん、どちらも楽しんでやってますけどね。楽しくないと続けられませんから。

本の中で終わらない絵本『クレリア』

『クレリア』

▲クレリアがどこに行ったのか、誰か知りませんか? 「たずねムシ」ポスター付きの絵本『クレリア』(訳・ほそのあやこ、セーラー出版)

これまでにつくった絵本の中で、私が一番自分らしさを感じているのは、『クレリア えだのうえでおきたこと』です。

世の中にはいろいろな生き物がいるでしょう。たとえばミミズ。雨上がりの日の道ばたで、伸びたり縮んだりしている様子を見て、これは楽しいって思いました。人間はそんな風に大きくなったり小さくなったりしませんからね。『クレリア』のアイデアはそこからきたんです。

どんどん小さくなって、ゼロになる。そこからさらに、マイナスになる……虫たちの休む場所をつくるためにどんどん縮んでいったクレリアは、最後には消えてしまいます。クレリアはどこに行ったのか? この絵本を読んだ子どもたちには、実際の生活や夢の中で、クレリアの行方を探してみてほしいと期待しています。

本は普通、始まりがあって、終わりがありますよね。終わりは最後のページです。でも『クレリア』の終わりは、本の中にはありません。でも、終わらない絵本というわけではなくて、読んだ人みんながそれぞれ続きを考えて、自分で終われる絵本。そして、成長する子どもと一緒に、終わり方も変化していく絵本なのです。たぶんこんな本、ほかにはないのでは?


……マイケル・グレイニエツさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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