毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、君島久子さんが中国の民話を訳した文に、赤羽末吉さんが絵をつけた『王さまと九人のきょうだい』。1964年刊行の民話集『白いりゅう黒いりゅう』に掲載され、1969年に絵本化したロングセラーです。
子どものいないおじいさんとおばあさんに、9人もの赤ちゃんが生まれました。成長したきょうだいに王さまが無理難題をふっかけてきて…。それぞれの特技を生かして困難に立ち向かう、中国の少数民族の民話です。
子のない老夫婦が不思議な丸薬で赤ちゃんを授かる…物語の導入は、昔話の定型のように静かに始まります。しかし9人の赤ちゃんが同時に生まれて大変な騒ぎになり、お話が一気に加速。
「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」。これが、顔も体つきもそっくりなきょうだいにつけられた名前です。お話を聞く子ども達は奇妙な名前に大盛り上がり。
9人はそれぞれ特性をもって生まれ、名前は特性そのものずばり。名前にしては奇妙ですが、このわかりやすさが実はとても重要なのです。お話を聞く子ども達が、名前を聞いただけできょうだいがどのように活躍するかを予測でき、それが当たることでお話にどんどんのめり込んでいくのです。
誰も持ち上げられない宮殿の柱が倒れたら「ちからもち」、大釜のごはんを全部食べるよう求められたら「くいしんぼう」、飢え死にさせられそうになったら「はらいっぱい」…。9人のきょうだいは王さまの無理難題に対して、予想通りの特技を生かして、予想を上回る痛快な活躍ぶりで立ち向かいます。
くり返しがつくりだす物語の形式がゆるぎないため、突拍子もないきょうだいの特技も活躍もやすやすと受け止められます。王さまときょうだいの対立形式もシンプルでわかりやすく、長い年月をかけて人から人へと伝えられブラッシュアップされてきた物語の力強さを感じます。
『「王さまと九人の兄弟」の世界』の中で、中国文学者でもある君島久子さんは、同じようなお話が中国のかなり広い範囲で語り継がれていることを紹介しています。よく似たお話の『シナの五にんきょうだい』はそんな民話のひとつからうまれた絵本だと推測されています。また起源を探って、紀元前の諸民族の創世神話にまでさかのぼっているから驚きです。知れば知るほどひきつけられる奥深い民話の世界。同時に、シンプルに痛快でワクワクするお話として子ども達から支持され続けるという懐の深いお話なのです。
<ミーテ会員さんのお声>
休日の朝目覚めたら、上の子が先に起きていたようで、布団に寝転んで『王さまと九人のきょうだい』を読んでいた。まだスムーズにひとり読みはできないはずだけど、すごく集中してページをめくっているので邪魔をしないようにした。何度も読んであげたからお話を覚えてるのかも!(3歳4か月、5歳2か月の女の子のママ)
9人きょうだいのカラッと明るく力強い印象は、赤羽末吉さんの絵によるところが大きいでしょう。時にユーモラスな王さまの表現は、『スーホの白い馬』では見られない軽快さ。比べて読むのも面白いですよ。
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