毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、ベルギーの絵本作家ガブリエル・バンサンさんによる『アンジュール―ある犬の物語』。1982年に出版、1986年に日本に紹介された字のない絵本です。
ある日、ある田舎道で、車から投げ捨てられる犬。突如、野良犬となった犬があちこちをさまよう姿を、デッサンで克明に描いたロングセラーです。
表紙に描かれているのは、振り向きざまにこちらを見る犬。太い鉛筆だけでラフに描かれたモノクロのデッサンですが、垂れたしっぽ、陰に沈む顔、下がった眉ときつく結ばれた口元から、犬の抱えた大きな悲しみが伝わってくるのではないでしょうか。
この犬に一体何が起きたのかとページをめくると、車から犬が投げ捨てられる衝撃のカットが目に飛び込んできて、驚くままに最後まで読み切ったという方も少なくないのでは。文字はなく、モノクロのデッサンだけが最後の57ページまで続く、一般的な絵本とは趣の異なる作品です。しかし、線と陰影によって的確に犬の動きと周囲の状況をとらえた絵は、まるでアニメーションを見ているように一連の物語を奏で、犬の受けた衝撃、悲しみ、孤独までも私達に語りかけるのです。
車を必死に追う中、衝撃的な事故が起き、途方に暮れて海岸や野原をさまよう。日が暮れてたどり着いた街では野良犬として邪険に扱われるが、その先にある出会いが待っていた…というのが物語の大まかな筋です。デッサン画のみで、この物語を伝え、犬の心情をあれこれと想像させる。絵本の帯に書かれた「絵本の原点、感動の一冊」ということばは、決して大げさなものではないのです。
原題の「UN JOUR(アンジュール), UN CHIEN」は、「ある一日のある犬」といった意味。この犬にとっての長い長い一日は、しかし幸いなことに、もりひさしさんのあとがきのことばにあるように「ぽっと胸に灯がともったように」終わります。
文字がない分、読み聞かせるのは難しい絵本とも言えます。ただ犬の動きや表情を、さまざまな角度から克明に写し取った絵は一見の価値があります。たとえば、犬の置かれた状況を一緒に想像し、話し合いながら、ゆっくりとページをめくってみてはいかがでしょうか?
<ミーテ会員さんのお声>
『アンジュール』は字のない絵本。最初の絵で、犬が車から捨てられた、というのがふたりには理解できなかったため、私が解説しながら読んだ。デッサンの絵は初めてだったので「なんなん、これ?」と戸惑い気味。でも、この絵は鉛筆だけで描いたんだよと説明したら「すごい!」と素直に驚いていた。(4歳2か月の男の子、6歳1か月の女の子のママ)
ガブリエル・バンサンさんの作品は、他に『あめのひのピクニック』などの「くまのアーネストおじさん」シリーズや、同じくデッサン画を味わえる『たまご』などがあります。興味をもった方はぜひのぞいてみてくださいね。
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