イチ押し絵本情報

誰のものでもない、自分だけの穴(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.299)

2020年8月20日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 誰のものでもない、自分だけの穴

今回ご紹介するのは、谷川俊太郎さんの文、和田誠さんの絵による絵本『あな』。1976年に月刊「こどものとも」の一冊として発行され、1983年に「こどものとも傑作集」としてハードカバー化されたロングセラーです。

日曜日の朝。何もすることがなかったので、ひろしは穴を掘りはじめました。家族や友だちから「何やってるの?」「何にするんだい」と問いかけられても、ひろしは黙々と穴を掘り続けます。そしてその穴の中に、しばらく座り込みます。穴の中から、いつもより青く高く思える空を見上げるひろし。そこを一匹のちょうちょうがひらひら…。日が暮れる頃、ひろしはゆっくり穴を埋め始めます。

見開き

カレンダーのように下から上へ、ページを縦にめくっていくタイプの絵本です。上側のページの真ん中より少し下に地平線があって、定点観測で穴が掘られていく様子が描かれています。汗をかきかき穴を掘っていくひろしが、穴が掘り進むにつれて次第に下側のページに降りてくる感じの構図がユニーク。青い円の真ん中を白いちょうちょうが飛ぶシンプルな表紙絵は、読み進めると、ひろしが穴の中から見上げた景色だとわかります。

ひろしはせっせと穴を掘り続けます。妹から「あたしにも掘らせて」と言われても「だめ」。友だちから「何にするんだい、この穴」と聞かれると「さあね」。穴の底から大きないもむしが這い出してきたのを機に掘るのをやめて、座り込みます。その後もお母さんや妹、友だち、お父さんが穴を覗きにやってきますが、ひろしは「だめ」「さあね」「まあね」とクールな返答。ひろしがなぜ、どんな目的で穴を掘ったのか一切明かされないまま、穴が埋められ、お話も終わります。

土とシャベルがあれば、目的なんてなくてもただただ穴を掘りたくなってしまう…そんな子どもは実際、結構いるのではないでしょうか。みんなで穴を掘りたいだけ掘ったり、できた穴に水を入れて池にしたりといった行動は、本能的な衝動からくる遊びのように感じられます。

でもこの絵本の主人公の場合、穴を掘った理由はそれだけではなさそうです。ひろしが二度、心の中でつぶやく「これは僕の穴だ」という台詞が、何やら深く響きます。誰のものでもない、自分だけの穴を手に入れ、穴の中で束の間のひとときを過ごしたひろし。シンプルながらも、大人が読むとどこか哲学めいた、奥深い絵本です。

<ミーテ会員さんのお声>
息子も穴を掘るのが好きで、砂場に行くと必ず掘っているので、この絵本が気に入ったようです。続けて2回読みました。ただ穴を掘るだけの絵本とも受け取れますが、大人目線で読むと、もっと深い絵本のようにも感じられて、面白いなと思いました。(3歳4か月の男の子のママ)

谷川俊太郎さん×和田誠さんの絵本は他にも、『ともだち』『これは のみの ぴこ』『がいこつ』などがあります。谷川俊太郎さんのことばと響き合う、和田誠さんの軽妙なタッチのイラストを楽しんでみてください。

▼谷川俊太郎さんのインタビューはこちら
「言葉はスキンシップ 子どもを膝に乗せて絵本を読んで」


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