イチ押し絵本情報

水中に積み重なった、記憶の家(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.296)

2020年7月30日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 水中に積み重なった、記憶の家

今回ご紹介する絵本は、平田研也さんが文、加藤久仁生さんが絵を手がけた『つみきのいえ』。第81回米国アカデミー賞短編アニメーション部門などを受賞した短編アニメ「つみきのいえ」を、2008年に絵本化したベストセラーです。

海の水がだんだん上がってきてしまうため、そのたびにおじいさんは、新しい家をつみきのように積み上げてつくります。ある日、海の中にもぐって下の家へ行くと、昔おばあさんと過ごした思い出がよみがえってきました…。

見開き

表紙には、水面から顔を出した小さな家と窓から外を眺めるおじいさんがひとり。不思議な景色の謎は、すぐに明かされます。小さな家は水に浮かんでいるのではなく、建物の上に建っています。それも、海面の上昇でそれまで住んでいた家が水中に沈んでしまい、その上に新しい家を積み重ねてつくってきたことがわかります。

相当に過酷な状況ですが、おじいさんは淡々と、その中で楽しみを見出しながら暮らしています。再び水が床上まで上がってくると、「やれやれ…」と言いながらも新しい家を建て始めるのです。

そんなある日、おじいさんは落としてしまった大工道具を取りに、水に潜ることになります。今の家の前に住んでいた家、その前に住んでいた家と順に潜る中、おばあさんとの暮らしが、おじいさんの脳裏によみがえるのです。

積み重ねられた家は、記憶のタイムカプセル。おじいさんの人生が逆回しの映画のように立ち現れます。現在のおじいさんはひとり水の中の青一色の世界に、思い出は大勢の家族と共に淡い光で彩られて明るく輝いて見えます。

その記憶の明かりは、まるで現在のおじいさんの心をも照らすかのようです。若かったおじいさんとおばあさんが出会い、結婚し、家を建て、子どもが生まれ、結婚し、孫が生まれ…。たくさんの人生の美しい瞬間とその当時の家が積み重なった上に、今のおじいさんはあるのです。

作家の柳田邦男さんは著作『雨の降る日は考える日にしよう』(平凡社)の中でこの作品について、「自分の人生をじっくりと振り返ってみることが心にもたらす不思議な果実」が頭に浮かんだと書いています。最後のシーンに登場する家の割れ目に咲くたんぽぽのような力強さと明るさが、この作品にはあるのです。

<ミーテ会員さんのお声>
この絵本を読むたびに、家族と過ごす今を大事に丁寧に過ごしていきたい、という気持ちが募る大好きな絵本。大人向きかなと思っていましたが、息子達もたまに「読んで」と持ってきます。夫婦の思い出の積み重ねなんて、ほとんど理解できていないだろうなぁと思います。でも、折に触れて手に取るということは、この絵本から何かを感じ取っているのではないかしら。 息子達が大きくなって、またこの絵本を読むことがあったら、きっと今とは違う読み方ができるようになっているんだろうな。(5歳1か月,8歳5か月の男の子のママ)

短編アニメの監督と脚本家が、リメイクし、描きおろした今作。短編アニメ版を見たり、あるいは英語版の『Once upon a Home upon a Home』(英訳:アーサー・ビナード)などを読んだりすることで、より深く広く、作品の世界観を味わえますよ。


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