イチ押し絵本情報

闘牛よりも花の好きな牛(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.282)

2020年4月23日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 闘牛よりも花の好きな牛

今回ご紹介する絵本は、マンロー・リーフさんが文、ロバート・ローソンさんが絵を手がけた『はなのすきなうし』。1936年に『Ferdinand』のタイトルで米国で出版され、1954年に光吉夏弥さんの訳で出された絵本です。

昔スペインの国に、フェルジナンドというかわいい子牛がいました。ほかの牛達は闘牛で活躍したいと考えていましたが、フェルジナンドはお気に入りの場所で、静かに花のにおいをかいでいられたら幸せなのです。そんな彼が、ひょんなことから闘牛として連れていかれることになり…。

一読してまず心に残るのは、フェルジナンドの個性でしょう。体の大きい牛、中でも闘牛の盛んな土地で育てられた牛が、花のにおいをかぐのが好きという意外性。ただ、繊細でリアルなモノクロの線画で、のどかで美しい田舎の風景と共に描かれているので、「花の好きな牛」の存在が違和感なく心に入ってきます。

その理解を助けるのがお母さん牛のスタンスです。ひとりでいるフェルジナンドが心配で話しかけますが、寂しくはないとわかると、本人の好きなようにさせます。母牛の愛情と理解が、子牛の心だけではなくお話全体を安定させていると言えるでしょう。時に残酷なスペインの国技・闘牛を題材としているにも関わらず、全体を通じて楽天的で大らかな雰囲気なのも、ここに理由があるのかもしれません。

同時に、ロバート・ローソンさんの絵の魅力も大きいでしょう。フェルジナンドをけしかける闘牛士の誇張されたしぐさは新聞の風刺画のようですし、ハチに刺されたフェルジナンドの表情は漫画そのもの。軽みのあるユーモアで、子ども達の笑いを誘うのです。

この本は、スペイン内戦の最中に出版されたこともあり、平和主義者の象徴として、スペイン国内で発禁になったという残念な歴史があります。ただ現代では、周りとは違っていても自分らしく自然体で生きるフェルジナンドの姿に共感し、ありのままの生き方を肯定する絵本として読まれることが多いようです。強固で同時にしなやかなフェルディナンドの個性が、多様な読み方を許容しているのかもしれません。

<ミーテ会員さんのお声>
最近になって、父からこの絵本を譲り受けました。何十年も前からうちにあったようです。これが上の娘に大ヒット。一番お気に入りの絵本になったようです。やさしい、のんびりした気持ちになり、読んでいてほっとします。(3歳10か月と5歳11か月の女の子のママ)

この絵本は、1938年に『牡牛のフェルディナンド』という邦題でアニメ映画化し、同年のアカデミー短編アニメ賞を受賞しています。また2017年にもアニメ映画化(日本では未公開)されていて、今なお世界中で愛され続けていることがわかります。


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