毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、谷内こうたさんによる『なつの あさ』。1970年に出版、翌年ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞したロングセラーです。
夏の朝はみんな白い。草木も眠たげな中を少年は自転車を走らせます。丘の上で少年が待っていると、音が聞こえだした。だっだ、しゅしゅ…。少年時代の夏の日を切り取った絵画のような絵本です。
まだ草木も目覚め切らない早朝、空は朝焼けで薄黄色に染まり、山々はまだ深い緑に沈んでいます。そんな景色の中を、少年は「いそげ いそげ」と自転車をこいで、原っぱを抜け、遠くまで続く道を進んでいきます。いくつかの坂を超えた先に、目的地の丘が見えてきます。
少年が朝早くから出かけた理由は、この時点で読み手には知らされていません。答えに先だって、音がやってきます。そして、ページをめくると、緑の丘と朝焼けの空の中央を割くように、黒い一本の線のような機関車が現れます。
最後の貨車が消えるまで、見送る少年。帰り道の空はまだクリーム色で、このお話が夏の朝のごく短いひと時のことだったとわかります。しかし、少年にとってこの一瞬がどれだけ濃いものか。頭の中には機関車の音が響き渡り、夢にまで機関車を見るのです。
この絵本は、ことばも絵も限りなくシンプルです。文章は平易で短く、時に少年のひとり言が白いページにポツンと配されるだけ。景色は単純化され、まるで夢の中のような薄黄色と緑の世界に、少年と機関車だけが存在しているようです。
絵もことばも最小限にシンプルなので、小さい子から楽しむことができます。同時に想像の余地がとても大きく、年齢が上がれば、自身の経験を重ねることで違う読み方ができることでしょう。特に大人は過ぎ去った子ども時代の濃密な時間を思い出し、せつないような気持ちになるのではないでしょうか。
<ミーテ会員さんのお声>
先日小児科で出合った『なつのあさ』。息子のリクエストでその場で何回も読むことになったので、結局お買い上げ。そうしたらパパの思い出の絵本だったと判明! パパと息子、趣味が同じなんだな(笑) (3歳7か月の女の子と5歳3か月男の子のママ)
朝焼けの空もいいものですが、青い空も見たい方は『のらいぬ』をどうぞ。山の景色をもっと見たい場合は、『ぼくたちの やま』。いずれも風景の美しさに心癒されますよ。
※作者の谷内こうたさんは、2019年7月に長年住まわれていたフランスでご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。
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