毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、ひがしちからさんのデビュー作『えんふねにのって』。2006年にビリケン出版から出版され、2019年4月にBL出版から復刊した人気作です。
「お母さん、早く早く、えんふねが来るよ」。幼稚園に通っているまきちゃんは、えんふねに乗るのが大好き。「まだかなあ…」。今日も川岸で待っていると、向こうから「えんふね・とびうお号」がゆっくりとやってきました。幼稚園が川のそばにあるので、「えんバス」ではなく、「えんふね」に乗っていくのです。
表紙を見て最初に思い浮かぶのは、「『えんふね』って何?」という疑問ではないでしょうか? 黄色い制服を着た小さな女の子が、こちらに背を向けて、川の向こうをじっと見つめています。何かワクワクするものが来る予感。でも一体何が?
ページをめくると、女の子が幼稚園児で、園に行くために「えんふね」に乗るとわかってきます。そこでようやく「えんバス」ならぬ「えんふね」だと知らされるのです。
よく知る「えんバス」と日常的に乗る機会が少ない「ふね」ということばが合わさることで、子ども達の頭の中に一気に想像が膨らみます。えんふねの上からは、お友だちが誘いかけています。子ども達は喜んでお話の船に乗り込むことでしょう。
そこからは子ども達の想像を上回る楽しいことだらけ。船に乗っている園児達は自由自在です。船から川岸の野イチゴに手を伸ばしたり、川の水や魚に触れようとしたり。物語の間にけんかをして仲直りする子達もいます。子ども達がこの絵本を繰り返し読みたがる最大の理由は、この楽しさ、自由さでしょう。
楽しいえんふねは、しかし突如止められてしまいます。川を大きな丸太がふさいでいるのです。ワクワクがドキドキに変わる瞬間、クライマックスです。作業中のおじさんの「奥の手」で通してもらうのですが、これがまたびっくり仰天の荒業。この話に登場する大人は、「ダメよ」「危ない」などと一度も言わないどころか、子ども達のために驚くような荒業をやってのけます。この絵本で自由自在なのは、子どもだけではないのです。
それは、ひがしちからさんご自身も同じようです。絵本を読んだ子どもから、空に向かうシーンのセリフ「くもに さわれるかな」の「くも」は、「蜘蛛か雲か」と聞かれたそう。理由を聞くと「船の中に蜘蛛がいるから」。見てみると、クワガタのキーホルダーのつもりで描いた絵が、蜘蛛にも見える。そこでひがしさんは「そんな見方もできたか!」と驚き、子どもの意外な反応をうれしく受け止めたそう。そんな自由さ、余裕がこの絵本が長く愛されてきた本当の理由なのかもしれません。
<ミーテ会員さんのお声>
今日は息子が初めて、園バスに乗って登園しました。家を出てバスに乗るまで泣きっぱなし。それでも幼稚園に着く頃には泣き止んだそうで、ちょっとだけ安心しました。夜寝る前に、『えんふねにのって』を読み聞かせしました。園バスならぬ「えんふね」です。途中、川が丸太でふさがれていて、工事のおじさん達が通してくれるシーンがあるのですが、それが空を飛んでいるよう…。夢いっぱいの話で、息子はずいぶん気に入ったようでした。(9か月の女の子と3歳5か月の男の子のママ)
子どもの頃、よく船に乗って磯釣りに出かけたというひがしさん。他にも船が登場する絵本『おじいちゃんのふね』を出されていますよ。
▼ひがしちからさんのインタビューはこちら
「子どもの心象風景を 絵本の中に描く」
無料会員登録後は、過去の「絵本子育て相談室」など、
様々な絵本情報が読み放題!
ぜひミーテにご登録ください♪