イチ押し絵本情報

美しく細密な外国の風景に描きこまれた遊び心(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.230)

2019年4月18日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 美しく細密な外国の風景に描きこまれた遊び心

今回ご紹介する絵本は、安野光雅さんの代表作『旅の絵本』。1977年に出版され、世界中で愛読され続けている字のない絵本です。

一艘のボートが岸にたどり着きました。旅人は馬に乗り継ぎ、中部ヨーロッパの村から街へとゆっくりと進んでいきます。

見開き

緑や茶色を基調とした、穏やかで繊細な水彩画で、事細かに描かれた中部ヨーロッパの美しい世界。第一印象は、文字がないこともあって、美しい風景画をまとめた画集のようです。出版された当時、読み手にとってなじみが薄かったであろう中部ヨーロッパの街並みは、見知らぬ美しい世界への憧れをかきたてたことでしょう。

 

この絵本には主人公はおらず、事件は起こりません。あるのは自然や街並みを舞台にした人々の営みです。木を伐採し、家畜を世話し、パンを焼く。マラソン大会やサーカスのようなお祭り、引っ越しや結婚などのライフイベント…。「中部ヨーロッパ」というだけで、特定の時代や街ではない不思議な世界の中で、人々が生き生きと暮らしています。

そんな美しい景色を眺めているだけでも十分楽しいのですが、子ども達はすぐにこの絵本にしかけられた遊びに気がつくことでしょう。どのページにも、青色の服と三角帽子を着た、馬に乗った旅人が必ずいます。だまし絵がありますし、最初の方で川に流されたヨットが、後ろのページで登場するといったしかけもあります。

大人達はさらに、どこかで見たことがある名画、著名人の姿にも気づくでしょう。昔話の『おだんごぱん』『ハーメルンの笛ふき』『おおきなかぶ』『あかずきん』などのワンシーンも、ひっそりと景色に紛れて描きこまれています。くり返し読んでも、毎回発見がある絵本なのです。

『旅の絵本』に夢中になったのは、子どもと、絵本を読み聞かせる親だけではありませんでした。ミーテカフェインタビューの中だけでも、岩井俊雄さん青山邦彦さん市原淳さん亀岡亜希子さんおおいじゅんこさんが、記憶に残る絵本、影響を受けた絵本として名前を挙げています。

字のない絵本ではありますが、あとがきには安野さんご自身のことばが寄せてあります。「人間は迷ったとき必ず何かを見つけることができるものです。私は、見聞をひろめるためではなく、迷うために旅に出たのでした。そして、私は、この絵本のような、一つの世界を見つけました」。安野さんの心の目で見た旅の風景の中を、一緒に迷うことができる絵本だと言えるでしょう。

<ミーテ会員さんのお声>
今度安野光雅さんの展覧会に行く予定なので、意識していろいろ借りていたのですが、娘には「旅の絵本」シリーズがヒットしたもよう。描かれている自然、建物への興味はまだまだ向かないみたいですが、輪を転がしながら遊ぶ子どもや、だまし絵、引っ越しの荷造りをしている家族が、先のページで荷降ろしをしている場面など、安野さんがしかけた遊びを探しては声を出して喜んでいました。どのページにもいる旅人を、私よりも早く見つけたくて、ここのところ、毎日リクエスト(笑)(4歳6か月の女の子のママ)

「いつの間にか、ライフワークになった」(「クレヨンハウス」サイト内インタビュー)と安野さんご自身が語る「旅の絵本」のシリーズは、昨年出版された『旅の絵本 9 スイス編』まで9冊出ています。また、安野さんのデビュー作『ふしぎなえ』については、以前ロングセラー&名作ピックアップでもご紹介しているので、あわせてご覧ください。


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