毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。
今回ご紹介する絵本は、ジュディス・カーさんの『おちゃのじかんにきたとら』。1968年に英国で出版され、日本では1994年に翻訳された、世界で愛され続けている絵本です。
ソフィーとおかあさんがお茶の時間にしようとしていると、玄関のベルが鳴り、おなかをすかせた大きなとらがやってきて、礼儀正しくごあいさつ。ソフィー達はとらと一緒にお茶をいただくことになりましたが…。
お茶の時間に予期せぬ訪問客。それが体の大きなとらで、しかも「おなかがすいている」と言われたら、いくら礼儀正しく頼まれても、家に招き入れられるものではないですよね。でもソフィーのおかあさんは「もちろんいいですよ」とにこやかに受け入れます。
そこからが嵐のよう。とらは、お茶の時間で思いつく食べ物だけではなく、つくりかけの夕飯から水道の水(!)まで、全部を食べつくし、飲みつくして、去って行きます。
平和なはずのお茶の時間が、とんでもない展開でかき回されているのですが、不思議と物語は平和な雰囲気のまま。まるでおかしな冗談でも聞いているようなのです。おかあさんだけではなくソフィーもこの慇懃で傍若無人なとらを歓迎。次々と家の食料を食べ尽くしていく横で、ふっくらしたとらの毛並みを気持ちよさそうに撫でているのです。また、絵本らしいくり返しの定型を踏んでいるところも話に安定感をもたらしています。
懐の深いおかあさんと、人懐こく動じないソフィーのふたりは、十分魅力的ですが、そこにおとうさんが帰ってきて、この家族は完璧な輪になります。留守中にとらが家中の食べ物を食べてしまう大事件が起き、もちろん夕飯もありません。ですが、おとうさんは落ち着き払って「レストランに行こう」と、この事件を現実的な解決策で平和裏に終わらせるのです。
不思議で圧倒的な闖入者によってかき回された家。でも家族の心はまったく乱されず、ユーモアすらただよっています。そんなごく普通の家族こそ、何物にも侵されないすばらしいものだという思いを感じます。作者のジュディス・カーさんは、父親がユダヤ人で、第二次世界大戦中にナチス・ドイツから逃れ、のちに渡英したという経歴の持ち主。その来歴を思いながら読み返すと、また違った味わいがあることでしょう。
<ミーテ会員さんのお声>
『おちゃのじかんにきたとら』はママもお気に入りの絵本♪ お兄ちゃんはとらがぜ~んぶ水を飲んでしまうシーンで、いつも「え~!? 全部飲んじゃうの~~~」と衝撃を受けます(笑) 何回も読んで最後の結末が分かっているのに、毎回反応してくれるのでこちらも読み甲斐があります。(2歳9か月の女の子と5歳6か月の男の子のママ)
カーさんは1923年生まれの現役の絵本作家。日本でも今年7月に最新作『ふしぎなしっぽのねこ カティンカ』が紹介されています。
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