イチ押し絵本情報

記憶にも記録にも残る、夜行列車の景色(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.90)

2016年7月21日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 記憶にも記録にも残る、夜行列車の景色

今回ご紹介する絵本は、西村繁男さんによるロングセラー『やこうれっしゃ』。1983年に出版された、字のない絵本です。

たくさんの人々が、ホームから夜行列車に乗り込みました。列車は静かに、深夜の上野の街を出発します。車内では、乗客達が思い思いの時を過ごしています。ページをめくるごとに時間が過ぎ、次第に車内は寝静まっていきます。眠る人々を乗せ、列車は多くのトンネルをすぎ、気付けば車外は雪景色。もうすぐ終点、金沢です。

見開き

文字はなく絵のみで、上野-金沢間を結ぶ夜行列車の旅を、細かに描いた名作です。描写されているのは、親世代、祖父母世代にとって懐かしい昭和の光景。

綿密な取材と観察によって詳細に描かれた駅やホーム、車内の様子は、夜行列車の存在自体も珍しくなった現在、貴重な記録でもあります。見るものすべてが、子どもにとっては珍しい光景。「これはなに?」という子どもの質問に答えるうちに、自然と会話が膨らむ一冊でもあります。


作者の西村さんは、絵本作家になった当初、ストーリーづくりに苦手意識があったそう。そんな時に出合ったのが、五十嵐豊子さんの絵本『えんにち』。文字のない絵本との出合いです。

そこから自分の好きな世界を、徹底的に観察して描いたのが、初期の絵本『おふろやさん』『にちよういち』、『やこうれっしゃ』。西村さんは「観察絵本」と呼んでいるそうです。『やこうれっしゃ』の時は、「実際に夜行列車に何回も乗ったんですよ。車内で寝ている人を見ては、その寝姿をメモ」したそう。こういった深い観察から、詳細で同時に情感豊かな世界観が生まれたんですね。

<ミーテ会員さんのお声>
文章は一切なく、昔懐かし昭和の時代の、おそらく年末の寝台特急の様子が、ページいっぱい所狭しと、とても細かく丁寧に描かれていて、文章がなくとも飽きることはありません。ただし、2歳児はお構いなく「よんで!」とせがむので、毎回即興のアテレコ…(涙) (2歳9か月の男の子のママ)

神奈川・横浜の神奈川近代文学館・第2展示室で、7月23日(土)~9月25日(日)まで、企画展「絵本作家・西村繁男の世界展」を開催します。『やこうれっしゃ』の貴重な原画や、取材メモ、ラフスケッチなどの展示もあり、より作品の世界を深く知るチャンスです。
※企画展は終了しました※

▼西村繁男さんのインタビューはこちら
「親子一緒に絵本の中で遊んでもらいたい」


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