絵本作家インタビュー

vol.26 絵本作家 田中友佳子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『こんたのおつかい』の作者・田中友佳子さんです。小さい頃から大の本好きという田中さんは、いったいどのようにして絵本作家になったのでしょうか。わんぱくな子ども時代から、デビュー作ができるまでの試行錯誤、ライフワークとして続けている砂漠マラソンについてなど、たっぷり語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・田中 友佳子さん

田中 友佳子(たなか・ゆかこ)

1973年、東京都生まれ。幼少期を自然に恵まれた神奈川県津久井郡(現・相模原市)で過ごす。武蔵野美術大学卒業後、エディトリアルデザイナーなどを経て、2004年『こんたのおつかい』(徳間書店)で絵本作家デビュー。趣味は読書とランニング。特に自然の中を走ることが大好き。そのほかの絵本に『かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり』『にげだしたてじなのたね』(いずれも徳間書店)。

泥んこになって遊んだ子ども時代

絵本作家・田中 友佳子さん

私は山や湖に囲まれた自然豊かなところで育ったので、小さい頃はいつも外で泥だらけになって遊んでいました。近所にひとつ年上の女の子のお友だちが2人いて、その子たちに妹のようにくっついて、アリの巣をほじくってみたり、ミミズをつかまえてみたり、山をまるごと会場にしちゃうくらいの広範囲で、「ポコペン」という缶蹴りみたいな遊びをしたり……自然を体で感じながら遊んでいるような子どもでしたね。

絵を描くのも、物心つく頃には好きになっていました。雨で外に遊びに行けない日は必ず絵を描いてましたし、外で遊ぶときも「写生ごっこ」とかいって、葉っぱを描いたり、山を描いたりしてましたね。

小学生の頃、母親から“絵を描く大学”があると聞いて、「そんな楽しそうなところがあるなら行く!」と言ってたんです。勉強せずに絵を描いていられる大学なんて素敵だな、とか思って(笑) その頃はまだ、絵本作家になりたいとは思っていなかったんですけど、ただ漠然と、絵を描く大学に行って、絵を描く仕事ができたらなぁと夢見ていましたね。それで、そのままなんの疑問もなく美術大学に入ったんです。

めくった瞬間、世界が広がる それが絵本の魅力

絵本作家・田中 友佳子さん

子どもの頃よく読んだ絵本は、『ぐりとぐら』や『ゆうちゃんのみきさーしゃ』、『はじめてのおつかい』など。一番好きだった『ぐりとぐら』は、何度も読んでもらって暗記していたので、母が読んでくれているときに自分も声をそろえて一緒に読んだりしてました。絵本の思い出は、母の声やページをめくる音など、耳から聞こえてきたものも含めて記憶に残っていますね。

私は、絵本の絵やお話だけでなくて、「本」そのものが昔から好きでした。本ってテレビと違って、まずモノとしてそこに存在しているんですよね。まず、その手触りが好きなんです。そして、ページをめくった瞬間に、時間と空間が生まれるじゃないですか。実際にめくっている時間と、本を開いたことによる空間があって、さらにその物語の中にも、仮想の時間と空間が二重に広がっていて……その奥深さが、すごく魅力的なんです。

絵を描くのが好きで、本の体裁も好きな私にとって、好きなものがすべて凝縮されているのが、絵本だったんです。大学卒業後、最初は本の装丁やレイアウトなどをするエディトリアルデザイナーになったんですけど、誰かの意図に応える形でデザインする仕事よりも、自分ですべてプロデュースできる絵本に惹かれて……絵本こそ、自分が表現したいことに一番ぴったりの媒体だと思ったんです。大学の先生からは、「絵本作家はアイドルになるより難しい」なんて言われたりもしてたんですけど、どうせなら自分の好きな道に進みたい、そんな思いで絵本の道を選ぶことにしました。

それからは、母校の大学で事務のアルバイトをしながら、絵本の学校に通って、絵本をつくり始めました。そこで徳間書店の編集者の方と出会って、デビュー作『こんたのおつかい』が生まれたんです。

何度も描き直して生まれたデビュー作『こんたのおつかい』

『こんたのおつかい』

▲ページをめくるたび、迫力満点の鬼や妖怪が次から次へと現れる『こんたのおつかい』(徳間書店)

デビュー作の『こんたのおつかい』は、制作に2年近くかかりました。最初のうちは、どうしたら子どもが喜ぶだろうとか、子どもははっきりした色合いの方が好きなんじゃないかとか、いろいろ頭で考えすぎてしまって、何度描いてもうまくいかなかったんです。どこか子どもに媚びているようなところがあったんでしょうね。でも編集の方から、子どもは美しいものは美しいってちゃんとわかるから、そこまで考える必要はないよって言われて、目から鱗が落ちたんです。それからは、頭でいろいろ考えるのではなく、もっと素直に私が美しいと思うもの、いいと思うものを描いていきました。

展開や構図については、かなり試行錯誤しましたね。私は「めくる」という行為が好きで、めくるたびに新しい世界があってほしいと思っているんです。なので、めくった瞬間驚いてもらえる絵本にするために、何度も何度も描き直しました。原画だけでも、各ページにつき5枚くらいは描いたんですよ。セカンドストーリーみたいなのがあったら楽しいなと思って、ページの隅にもぐらを登場させました。何度も読んでくれた人だけが気づく、おまけの特典みたいな感じですね。

自分の絵本が初めて出版されたときは、書店まで見に行きました。平積みされているのを見てすごく感激して、思わず書店の担当の方に「ありがとうございます!」と声をかけちゃったりして(笑) なかなか自分の絵本を子どもたちに読み聞かせする機会はないんですが、どんな反応をしてるのか、どこで笑っているのか、見てみたいなとも思っています。


……田中友佳子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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