絵本作家インタビュー

vol.155 絵本作家 くすのきしげのりさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『おこだでませんように』などの作品で人気の絵本作家・くすのきしげのりさんにご登場いただきます。26年間、小学校の先生として勤めてこられたくすのきさん。作品の中には、教員時代に出会った子どもたちが登場することもあるそうです。子どもの気持ちにやさしく寄り添うストーリーの数々は、どのようにして生まれるのでしょうか。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・くすのきしげのりさん

くすのき しげのり

1961年、徳島県生まれ。鳴門教育大学大学院修了。小学校教諭、鳴門市立図書館副館長などを経て、「オフィスKUSUNOKI」を設立。作家として児童文学を中心とした創作活動と全国での講演活動を続ける。『おこだでませんように』(絵・石井聖岳、小学館)、『ふくびき』(絵・狩野富貴子、小学館)、『ともだちやもんな、ぼくら』(絵・福田岩緒、えほんの杜)、『みずいろのマフラー』(絵・松成真理子、童心社)など作品多数。
hhttp://www.kusunokishigenori.jp/

小学校教諭を辞め、作家活動に専念することにした理由

くすのきしげのりさん

文章を書く、本をつくる、そしてそれを読者に届ける―― その一連の流れをおもしろいと思うようになったのは、高校時代のことです。

もともと表現することが好きで、高校では文芸部に入りました。2年生のときに部長になって、文化祭に合わせて部誌をつくったんですが、せっかくだからと300部も刷ったんですね。作品を書くのはもちろんですが、それを編集して本にしたり、近隣のお店をまわって広告を集めたり、販促活動の一環としてバンドを組んで、ライブの入場券代わりに部誌を売ったり…… そういうのを自分たちで考えてやっていくのが、すごく楽しかったんですよ。それが今の活動の原体験ですね。だから今も作品を書くだけでなく、編集の人と一緒にどんな本にするのかを考えたり、どんな風に売っていくのかといったことまでアイデアを出したりしています。

学校の現場で働いていた頃は、道徳や国語の時間の教材として活用するために作品を書き続けていました。今度の道徳の時間にこういう授業をしたい、でもそのためのいい作品がない、それなら自分で書こう、という感じでね。

26年間、小学校教諭として働いてきたんですが、作家活動に専念するため、50歳を目前に早期退職しました。50代をどう過ごすかを考えたとき、人生の時間の大切さというのが僕の中でどんどん高まっていったんですね。それで、それまで教え子たちに「自分にしかできないことをやりなさい」とか「夢をあきらめるな」とか言ってきたわけですが、それを自分でも実践しようと決意したんです。

退職直前の離任式の挨拶は、「何歳になっても挑戦はできる。だから君たちも、50歳を前に新しい道に挑戦する先生がいたってことを覚えておいてくださいね」。何の保証もなかったのでどうなるかって思っていたんですが、おかげさまで今は毎年少しずつ本を出版できています。ありがたいことです。

教え子がモデルになった『ともだちやもんな、ぼくら』

『ともだちやもんな、ぼくら』の3人組は、一番最初に担任したときの子どもたちがモデルになっています。

掃除時間にサボってふざけていたので、帰りの会のあと残るように注意したんですけど、「先生さようなら」のあと目配せしてパッと教室を飛び出して……ところが1人が教室の戸のところでつまづいて逃げ遅れて、つかまってしまったんですね。でも、その子がぼろぼろ泣いていたら、逃げたほかの2人が戻ってきたんです。そこはやっぱり褒めてあげないといけませんよね。絵本では、教師の僕のところを近所のカミナリじいさんに置き換えて書きました。

この3人組の登場する新作『ええことするのは、ええもんや!』は、ボランティアを題材にした作品です。電動車いすが動かなくなってしまったおっちゃんを助けた男の子の、心の葛藤を描きました。ボランティアって何だろう、誰かが見てくれているからするのかなと考えるシーンがあるんですが、やらないよりはやる方がいいし、主人公の子が気づいたように、誰も見てくれていなくてもいいと思うことはやった方がいいなと、この本を読んだ子どもたちが気づいてくれたらうれしいですね。

それから一番最後、助けてもらったおっちゃんが「ええことしてもらうのも、ええもんや」と言います。ボランティアされる側の気持ちも大切なんだってことも、この作品の中で書きたかったことのひとつです。

先月出版されたもうひとつの新作『やめろ、スカタン!』も、男の子3人組の友情物語です。絵の羽尻利門さんは僕と同じ徳島県在住。絵本の中には徳島の景色が描かれているんですよ。

ともだちやもんな、ぼくら

▲マナブ、ヒデトシ、ダイスケ。夏休みの友情物語『ともだちやもんな、ぼくら』(絵・福田岩緒、えほんの杜)

ええことするのは、ええもんや!

▲『ともだちやもんな、ぼくら』の3人組が、ボランティアについて考えます。ええことするのって、褒められるため?『ええことするのは、ええもんや!』(絵・福田岩緒、えほんの杜)

やめろ、スカタン!

▲夏休みのプールを舞台に、けんかから仲直りまでの少年たちの心情を細やかに描いた絵本『やめろ、スカタン!』(絵・羽尻利門、小学館)

読者の心に窓を開ける、「物語る力」のある絵本を書いていきたい

僕の作品は、普通の子どもの何気ない日常を描いたものがほとんど。大事件が起こったり、魔法使いが出てきたりなんてことはないので、地味といえば地味かもしれません(笑)

たとえば『おこだでませんように』なら、怒られてばかりの男の子が短冊に願いごとを書いたら、その気持ちに先生が気がついてくれた。『メガネをかけたら』なら、メガネをかけるのが嫌だった女の子に、先生がやさしい心配りをしてくれた―― ただそれだけの、大人にとってみたら大したことないようなできごとを描いています。でもそれは、子どもの心の動きとしてはとても大切なことなんですね。だから僕は、そういうところをすくい取って作品にしているんです。

作品をつくる上でいつも意識しているのは、読者の心に窓を開けるような「物語る力」のある作品を書くということ。心に窓が開いたら、その向こうにはいろんな景色が見えるでしょう。どんな景色が見えるかは、人それぞれ。子どもには子どもの景色が、大人には大人の景色が見えます。子どもだって背伸びをすれば、大人が見ている景色が見えるかもしれないし、大人だって少し膝をかがめて子どもと同じ目線になれば、子どもが見ている景色が見えるかもしれません。

誰が読むか、いつ読むか、どんな気持ちで読むかによって、いろんなものが見えてくる―― それが作品が持つ「物語る力」だと、僕は思うんです。そして僕はいつも、そんな「物語る力」のある作品を目指して、“一作入魂”で書いています。

おこだでませんように

▲怒られてばかりいる子の心の中を描いた人気作『おこだでませんように』(絵・石井聖岳、小学館)

メガネをかけたら

▲初めてメガネをかける子どもの不安を描く、心温まる物語『メガネをかけたら』(絵・たるいしまこ、小学館)


……くすのきしげのりさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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