絵本作家インタビュー

vol.146 絵本作家 おおいじゅんこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、「ちびころおにぎり」シリーズなどが人気の絵本作家・おおいじゅんこさんにご登場いただきます。優しい色合いの可愛いキャラクターと、心温まる物語を描き続けているおおいさん。子育てしていたからこそできた、絵本づくりとは?! デビュー作や人気作、最新作の制作秘話のほか、2児の母としての一面までを、たっぷりと伺いました。(【後編】はこちら→

絵本作家・おおいじゅんこさん

おおい じゅんこ

1968年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。東京芸術大学大学院デザイン科修了。1997年、星の都絵本大賞受賞。自作の絵本に『たまごケーキやけたかな?』(ハッピーオウル社)、『のんびりつむりん あめのひいいな』「ちびころおにぎり」シリーズ(以上教育画劇)、『ぺんちゃんのかきごおり』(アリス館)、『みどりさんのパンやさん』(PHP研究所)など。最新刊は『クッキーひめ』(アリス館)、『チャーシューママ』(教育画劇)。
絵本作家 おおいじゅんこのホームページ http://www7b.biglobe.ne.jp/~junkoooi/

絵ありきで、絵本を眺めるのが好きだった

子どもの頃は、暇さえあれば絵を描いているような子でした。小学校5年生の頃からお絵描き教室に通っていましたが、もう楽しくて仕方なかったんです。そこで課題で、初めて絵本をつくりました。遊びのようなものだったんですけれどね。『いなかのねずみとまちのねずみ』のお話に、自分で絵をつけたんです。ねずみを描きたかったのかな?

本を読むのも好きでした。絵本は好きで、大きくなってからも見ていたんですよね。今みたいにこんなに種類がなかったので、図書館にあるものを順番に見るという程度だったんですけれど。かこさとしさんは、時代的にジャストです。もう大好きでよく見ました。ほかには、『すてきな三にんぐみ』『わたしのワンピース』『ぐるんぱのようちえん』『子うさぎましろのお話』『しろくまちゃんのほっとけーき』などが今でも好きです。

私三人姉弟の真ん中で、一番ほったらかされたものですから(笑) 母や父から絵本を読んでもらったということは覚えていなくて、自分で読んでいたという記憶からスタートなんです。読んでいた、というよりも見ていたのかな? 絵ありきで。特に小さい頃は、かわいい絵の表紙で借りたり買ってもらったりしていたと思います。

中学生の頃、初めて自分のお小遣いを出して買った絵本が、安野光雅さんの『旅の絵本』です。絵を描く人になりたいなと思いかけていた時で、こういう大人向けの絵で絵本が成立しているというのはすごいなと思いました。絵本って小さい子向けのものだと思っていたのに、中学生の自分でも「すごい!」と思えたのが驚きでした。

絵で何か仕事ができればいいと思って芸大に進みました。その時もまだ、絵本を描く人になろうとは思っていなかったんです。ただ授業の課題で絵本をつくりました。その時は「絵は描けるけれど、お話なんて私にはとても無理!」って(笑) 結局、お菓子のレシピ本をつくりました。レシピの字も全部手描きで、絵はカラーインクのイラストというものでした。先生の紹介で製本屋さんに連れて行ってもらえるという環境で、ありがたかったと思います。

子育てと同時進行で生まれたデビュー作『たまごケーキやけたかな?』

みずいろのこびん

▲お母さんや友だちに嫌われたくない……。自分の本当の気持ちを、心の中の水色の小瓶に押し込めて、僕は食べ続けた。『みずいろのこびん』(岩崎書店)。作は、わだことみさん

たまごケーキやけたかな?

▲今日のおやつは何にする? ケーキ! ケーキ! うさぎの兄妹のビッチくんとトコちゃん。材料混ぜて、型に入れて。ねぇ、もう食べられる? まだよ……『たまごケーキやけたかな?』(ハッピーオウル社)

卒業後はステーショナリーメーカーに勤めました。その頃夫がふと「絵本の公募があるから出してみたら?」と声かけをしてくれたのが、絵本を描くということを意識した最初です。兵庫県佐用町の「星の都絵本大賞」で、3回応募して、3回目に『たねのはなし』で大賞をいただきました。作品は出版などされませんでしたが、これをきっかけに出版社の方とつながったのは大きかったと思います。

その後まもなく妊娠して退社して、しばらく子育てという感じだったんですが、大賞の作品を見たわだことみさんが絵本の挿し絵を描かないかと言ってくださったんです。それが『みずいろのこびん』と『ママの手をにぎって』です。またその時の編集長が飯野寿雄さんで、ハッピーオウル社を立ち上げる際に声をかけてくださって、デビュー作の『たまごケーキやけたかな?』を出させていただきました。

飯野さんの存在は私の中では大きくて。すごい厳しいこと言われたんですけれど(笑) でも、絵本のつくり方を一から教えていただいたと思います。その時は、ラフもなく、お話も流れくらいで、いきなり描きたい絵を本描きしていました。それに無理やりお話をつけて、編集者さんに「これで!」って持っていったんです! 何も分からなかったんですよ(笑) 

ちょうど「たまごケーキ」の時は、絵本づくりと子育てが同時進行でした。息子が幼稚園で、下の子が幼稚園に入るか入らないかくらい。本当に一番、どうにもならん!という時期ですね。都内の社宅の4畳半のギチギチのスペースで、向こうで泣いている子がいるのに描いていた(笑) 

子育て一番大変な時期で、忙しかったはずなんです。でも締め切りもなく、誰に描いてと言われたわけでもなく、描きたいことを描いていたので、のんびりと自由にできた作品だったという思いがあります。子育てとは違う、自分がやりたいことをやる時間だったという感じでしょうか。

また思い出も多い作品です。うさぎの兄妹が無理やり小さい車に乗っているシーンがあるんですが、それはまさに実際にうちの子どもたちがそうだった。ちょうど今の家に引っ越す前後で、ここの見返しの絵はこの家です。玄関とか食器棚とか、階段の位置とか。当時のワクワクしていた自分の気持ちを思い出しますね。

お母さんがつくってくれたものを「ああ、おいしい」と食べる幸せ。ささやかな話だと思うんですけれど、子育てしているお母さんには分かってもらえるかなと思っています。見守ってくれる大人がいる中で育っていかれると、やっぱり幸せですよね。新作の『クッキーひめ』でも「何が幸せか」ということを、考えました。促されてつかむんじゃなくて、自発的につかむから幸せってあるんじゃないかな。あまり前面に押し出すつもりはありませんが、根底では考えています。

子育てに関しても、私わりと待って見守るタイプだと思います。おしり叩いても、どうにもならないことはどうにもならないですよね? 自分でこうしようと思っていくから何者かになれる。子どもたちが自分から動き出すのを待つというのかな。でも口を出しちゃいますけれどね! 実際言っちゃいます(笑) でも理想はそうです。

子どもがこんなにも絵本が好きだとは知らなかった

おおいじゅんこさん

絵本に関しては、子育てしていなかったらつくれなかったなということが多々あります。子どもたちって、すごい絵本好きですよね。うちの子たちもすごい絵本が好きだったんですけれど、何度も何度も「またこれ?」と思うくらい、同じ絵本を持ってきました。繰り返し繰り返し読んで、諳んじて言えるくらいになっちゃう。本当に驚きました。それだけ子どもにとって魅力があるんだということを実感しましたね。

例えば、ジョン・バーニンガムさんの『ガンピーさんのドライブ』って、素敵な大人の世界を描いている本ですよね。なのに息子は大好きで、「これ、これ」って、親の方がびっくりするくらいでした。子どもには美しいものは分かるんだな、と思いました。同時にそういう本をつくれるようになったらいいなと思いましたね。

学生や会社員だった頃は、ちょっとキレイな絵が綴じられて、それなりのお話がついていれば絵本、くらいの感覚があったと思うんです。今はやっぱり子どもたちが受け止めるものだから丁寧につくるのは当たり前だし、きっと力を込めて思いを込めてつくると、応えてもらえるんじゃないかなと信じてつくっています。

お話を考える時も、今は大きくなった息子や娘が、もしまだ小さかったら、こういうのを喜んでくれるんじゃないかなと想像しながらつくっています。息子は、車さえ載っていれば反応する子でした(笑) だから「たまごケーキ」は全然車なんて関係ないお話ですけれど、絶対車は描こうと思いました。あとは、自分が食いしん坊なので、食べ物のシーンは大事にしています。

また羅列されているページが好きでしたね。『ちびころおにぎり なかみはなあに?』の冷蔵庫や冷凍庫のページとか。お話と関係なくっても見入っちゃうページは、大事にしています。お話を読むというより、絵を読んでいると思うんですよね、子どもって。絵探しの要素もそうですし、お話に登場しないなんとかちゃんがこっちのページでまたいるとか、子どもって絶対気がついてくれると思うんですよね。そういう要素は気をつけて入れるようにしています。


……おおいじゅんこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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