絵本作家インタビュー

vol.135 童話作家 村上しいこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、絵本のほか、『れいぞうこのなつやすみ』や『かめきち』シリーズなど中学年向けの絵童話でも大人気の作家・村上しいこさん。どの作品にも、朗らかな笑いと、心温まるメッセージが込められています。作品の誕生秘話をはじめ、童話に込められた村上さんの思いなどをお聞きしました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

童話作家・村上しいこさん

村上 しいこ(むらかみ しいこ)

1969年三重県生まれ。結婚後に創作活動を始め、2001年、毎日新聞《小さな童話大賞》『とっておきの「し」』で俵万智賞受賞。『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)で第37回日本児童文学者協会新人賞、『れいぞうこのなつやすみ』(PHP研究所)で第17回ひろすけ童話賞を受賞。主な作品に『だいすきひゃっかい』『かめきちのたてこもり大作戦』(共に岩崎書店)、「ももいろ荘の福子さん」シリーズ(ポプラ社)など。執筆のかたわら、書店や小学校、図書館などで講演会や読み聞かせ会などを積極的に行っている。
ホームページ:http://www.geocities.jp/m_shiiko/

「女将から作家へ」の転身

三重の松阪で、結婚する少し前から、夫と小料理屋を始めました。けれど客足が悪く、毎日来てくれたのはトラ猫三兄弟(笑) 借金しないうちに辞めようと半年で店を閉め、すぐに賄い付きの店に就職しました。私はパートタイムでの勤務で、夜、時間に余裕ができたので、子どもができたとき、その子に読んであげるためのお話を書き始めました。

当時は、作家なんて同人誌で勉強したとか高学歴の人とか、そういう人たちがなるものだと思っていましたし、自分がなるとは考えてもみなかったです。

軽い気持ちで書きためていき、ちょこちょこと公募に出していましたが、全部ボツ。いよいよ貯金も底をついたかなという2001年、公募ガイドで見つけた「毎日新聞・小さな童話大賞」に応募した『とっておきの"し"』で「俵万智賞」を受賞しました。

本当は、ヨーロッパ旅行+賞金100万円がもらえる「最優秀賞」を狙ってたんですけど(笑) もし、小料理屋の経営がうまくいっていたら、そのままずっと女将をやっていましたね。

公募に入選、作家デビューへ

かめきちのおまかせ自由研究

▲3年生のかめきちは、毎日たくさんの「?」に出会う。自分で考え、自分で答えを見つけるぞ!とにかくゆかいなかめきちの夏休み。『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)

「小さな童話大賞」の授賞式の場で、岩崎書店の編集長にお声がけいただいたので、すぐに作品を送らせてもらったんです。「こんなにすぐに作家になれるなんて~」とウキウキ(笑) でも、何度電話しても「まだ読んでないです」と言われました。

焼肉屋さんで働きながらお話を書き続け、翌年『はしれ ごめんなさい』という作品で「ミセス大賞《小さな童話部門》」の優秀賞をいただいた際、もう一度電話をしてみましたが、やはり「読んでいない」と言われて……「1年経っても読んでもらえないということは、社交辞令やったんかな」と諦めました。すると2003年のお正月に、「今年は出します」と連絡をいただいたんです。それがデビュー作『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)でした。

編集者さんに「絵はどなたがいいですか?」と聞かれ、迷わず「大好きな黒井健さんにお願いしたいです!」と言うと「あのね~村上さん、黒井さんにお願いしたら、すごい優等生のかめきちくんになりますよ」と諭されました(笑)

この、文章と"画家さんのタッチ"のバランスをはじめ、タイトルの決め方や主人公の名前の付け方など「作品を作るための知識」は、すべてデビューしてから学んでいきました。

待望の絵本『だいすきひゃっかい』

だいすきひゃっかい

▲毎日伝える「だいすき」が、いつまでもあなたと私をあたためてくれますように。このぬくもりは、私たちのたからもの。『だいすきひゃっかい』(岩崎書店)

デビュー作が出たあと、すぐに『だいすきひゃっかい』の原稿を編集者さんに送りました。どうしても作りたかった絵本だったんです。

じつは、私は母に抱かれた記憶がなく、幼少期には継母から虐待を受け、学校ではいじめに遭っていました。どこにも居場所がなかった私を、6年生のとき、担任の先生がみんなの前で抱きしめてくれたことがあり、その温もりの意味を、大人になってようやくわかるようになりました。

また、学校の図書室だけが私を受け入れてくれる場所。本の登場人物たちから「あなたはここにいてもいいんだよ」というメッセージを受け取っていました。そんな、抱っこや物語の世界が与えてくれる温もりのすばらしさを、私の言葉で伝えたかったんです。それで『だいすきひゃっかい』を書きました。

けれど、「1作目は中学年童話、2作目が絵本」というのは業界ではあり得ないことだったらしく(笑) 中学年作品でデビューしたなら、その枠できちんと足をつけてしっかり立ってから、次のジャンルを手がけるものだと言われました。とはいえ原稿としてはOKをいただいたので、それから出版されるまでの4年間、内容に手を入れ、書き直し、完成させていきました。

『だいすきひゃっかい』は、ぜひ大島妙子さんの絵で描いていただきたい!と思っていました。お忙しい方なので1年待ちと言われましたが「ずっと待ちます!」と即答。デビューしてから4年後に、念願の、そして初めての絵本が完成しました。


……村上しいこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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