絵本作家インタビュー

vol.103 絵本作家 福田岩緒さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おならばんざい』や『おつかいしんかんせん』などの作品でおなじみの絵本作家・福田岩緒さんです。子どもたち一人ひとりの表情を、とても生き生きと描かれる福田さん。子ども時代の思い出から絵本づくりのエピソード、読み聞かせや子育てにまつわるお話まで、たっぷりと伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・福田岩緒さん

福田 岩緒(ふくだ いわお)

1950年、岡山県生まれ。『がたたんたん』(文・やすいすえこ、ひさかたチャイルド)で第12回絵本にっぽん賞受賞。主な作品に『おならばんざい』(ポプラ社)、『おつかいしんかんせん』(そうえん社)、『ぼくだけのおにいちゃん』『あかいセミ』(文研出版)、『ぼくは一ねんせいだぞ!』(童心社)、『いただきまーす!』『にぎやかなさんぽ』(フレーベル館)、『ともだちやもんな、ぼくら』(文・くすのきしげのり、えほんの杜)などがある。

絵本の中に描くさまざまな気持ち

あかいセミ

▲ふとした出来心で消しゴムを盗んでしまった男の子。ぼくはどんどん悪い人間になってしまうの…?『あかいセミ』(文研出版)

絵本作家として30年近く活動をしてきましたが、時代は変わっても、子どもたちの本質的な部分はあまり変わらないと思うんですよね。特に感情的な部分については、昔の子どもも今の子どももほとんど変わっていません。楽しい、うれしい、悲しい、悔しい……僕はそんな、子どもたちが抱くさまざまな気持ちを、絵本の中に描いていきたいと思っています。

「悔しい」という感情ひとつとっても、兄弟の間で悔しい思いをしたのか、友達に対して悔しいのか……それだけでいろんなお話が考えられますよね。だから、描く題材はまだまだ山ほどあるんです。

いろんな絵本に出会えば出会うほど、いろんな気持ちに触れることができます。 僕が描いているのは子どもの性格のほんの一部分なので、いろんな作家のいろんな絵本を読んでみてほしいですね。

子どもはある時期まで、いろんな性格を持っていると思うんです。気が強い部分もあれば、優しい部分も、意気地なしの部分もあるんだけれど、それが環境や人間関係の中で次第に定まっていって、その子の個性になっていくんですね。そういう時期にいろんな絵本を読んで、絵本の中の誰かの気持ちに共感するというのは、すごく意味のあることです。優しさに共感した子は優しい子になっていくはずだし、おもしろさに共感した子はおもしろい子になっていくはず。絵本を読むことで、その子の中の気持ちが刺激されるんです。

そういう意味で絵本は、子どもの人生を切り開くきっかけをつくる存在でもあると思います。いろんな絵本を読んで、共感できる何かを見つけてほしいですね。

子どもが生まれて変わったこと

絵本作家・福田岩緒さん

自分の子どもをモデルに絵本を描いたりしたことはないんですが、子どもの存在は僕にとって、いろんな意味で励みになりました。

何といっても、僕を父親にさせてくれたこと。僕は会社勤めの経験もなく、好きな絵をそのまま仕事にして生きてきたので、我慢知らずなんですね。落ち込むことといえばせいぜい、絵が思うように描けないときとか、いろいろ直すように言われたときとか、その程度ですから。そのままで父親なんてできるのかな、というような感じだったんです。

でも、家庭を持って子どもが生まれると、これはちゃんとしていかねばと思うようになりました。家族で幸せに暮らしていくためには、仕事にしても趣味にしても、好きなことばかりはしていられないなと。そう思うのは親として当然のことで、みなさんそうだと思うんですけどね。

僕は社会人としては未熟なまま、好きなように暮らしてきたけれど、自分の子どもや地域の子どもたちとつきあううちに少しずつ、親として社会人として、成長させてもらったなと思っています。仕事をここまでがんばれたのも、きっと子どもがいたからだと思うんですよね。ただ好きなことだけやっていたのでは、それほどがんばれなかったんじゃないかなと。子どもたちには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

それから、自分が親になってから、親に対する見方も変わりました。父や母はこんな思いで自分を育ててくれていたのかと知って、もっと親を大事にしようと思うようになったんです。今も毎年盆暮れは欠かさず実家に帰って、親孝行するようにしています。

親の都合を押し付けず、のびのび遊ばせてあげよう

おつかいしんかんせん

▲新幹線の運転士になりきって夢中で遊ぶ男の子をのびのびと描く『おつかいしんかんせん』(そうえん社)

絵本は自分ひとりで読むよりも、読み聞かせしてもらうのが一番。お子さんが大きくなって文字が読めるようになっても、「読んで」と言われたらぜひ読んであげてください。

自分で読むと、特に字が読めるようになったばかりの子は、一文字一文字追いかけるのに必死になってしまうんですよね。読めないよりはいいけれど、絵本の楽しみ方としてはちょっともったいないと思うんです。耳で聞く方がお話がすーっと入ってくるし、絵もじっくり見ることができますからね。小学生になっても、親が読み聞かせする時間を持つといいと思いますよ。

僕には孫が5人いるんですが、孫の相手をするようになってから心がけていることがあります。それは、子どもたちが遊んであちこち散らかすのをいちいち怒らない、ということ。散らかすたびに「散らかしちゃだめ! 片付けなさい!」と怒られていたら、子どもたちは遊びたくなくなっちゃうと思うんです。散らかっていると見苦しいからきちんと片付けておきたい、というのは、言ってみれば親の都合ですよね。子どもは散らかっている方が楽しいわけです。

そんな風に子どもの気持ちを考えてみると、怒る回数がぐっと減って、親の方も精神的に楽になると思いますよ。危険なことをしているときは、きちんとダメ!と言わなければいけないけれど、そうじゃなければあまり怒らず、のびのび遊ばせてあげてください。

このことは僕も孫を持って初めてわかったことで、自分の子どもたちを育てているときは気づかなかったんですけどね。いちいち怒っていると、怒る方だってストレスがたまるでしょう。それに子どもは親が考える以上に、怒る親に対してものすごく萎縮していきますからね。大好きなお父さんお母さんに怒られるのは、やっぱりショックですよ。だから、できるだけ親の都合は押し付けず、汚れてもまぁいいか、というくらいの気持ちで受けとめてあげてほしいですね。


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