絵本作家インタビュー

vol.94 絵本作家 西村繁男さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『やこうれっしゃ』や『がたごと がたごと』の絵でおなじみの絵本作家・西村繁男さんです。たくさんの人やものが細かく描かれた西村さんの絵本は、じーっと見ていても飽きることがありません。西村さんがこれまで歩んでこられた絵本作家人生とは? 絵本を楽しむ親子へのメッセージもいただきましたよ!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・西村繁男さん

西村 繁男(にしむら しげお)

1947年、高知県生まれ。中央大学商学部、セツ・モードセミナー卒業。『絵で見る日本の歴史』で第8回絵本にっぽん大賞、『絵で読む広島の原爆』(文・那須正幹、いずれも福音館書店)で第43回産経児童出版文化賞など、多くの賞を受賞。主な作品に『おふろやさん』『やこうれっしゃ』(いずれも福音館書店)、『なきむしようちえん』(文・長崎源之助)、『がたごと がたごと』(文・内田麟太郎、いずれも童心社)、「おでんさむらい」シリーズ(文・内田麟太郎、くもん出版)、『じごくのラーメンや』(文・苅田澄子、教育画劇)などがある。

さまざまな人とのめぐりあわせで先に進んできた

絵本作家・西村繁男さん

絵本をつくるときは、とにかく自分自身が楽しく描きたい。それが第一ですね。だから同じパターンが続くと、別の何か新しいことをやりたくなってくるんです。次に進みたいというか、変わりたいというか…… “次”が何なのか、どう変わりたいのかっていうのは漠然としてて、自分でもわからないんですけどね。

そんな風に漠然と先へ行きたいと思っていると、いつもタイミングよく誰かとの出会いがあったんです。

『くずのはやまのきつね』の編集の人との出会いがあったから、『おふろやさん』をはじめとする“観察絵本”ができたわけだし、『絵で見る日本の歴史』の編集の人と出会って、また一歩先に進むことができたんです。そして内田麟太郎さんのテキストは、僕の新たな一面を引き出してくれました。

そもそもその前に、絵本作家の田島征三さんと出会ったから、絵本の世界に足を踏み入れられたわけですしね。

といっても、僕自身の軸は変わってないんですよ。見せ方は多少変えてきたけれど、自分の中のこだわりは同じ。客観的な視線で全体像を細かく描くっていうのは、ずっと変わらないんです。子どものときから持っている資質というのは、大人になってもそんなに変わるものじゃないんですよね。でも、自分自身が気づいていない部分もあったりするわけで、そこに気づくことができると、できることがもっと増えていく。もっともっとなりたい自分になれるんです。

さまざまな人とのめぐりあいに感謝しつつ、これからもひとつのところに留まることなく、新しい表現を追求していきたいですね。

のびやかに遊ぶ子どもたちを描いた『チータカ・スーイ』

『チータカ・スーイ』は、展覧会用に描いた絵をもとにつくった絵本です。大人の関与しない、子どもだけの世界を描きたくてね。大人もたくさんいるんだけど、その大人たちは、子どもの楽団が町中を練り歩いているのに気づいてないんですよ。だから子どもたちは本当にのびのびと、好き勝手に「チータカチータカ スーイスーイ」と行進していくんです。

チータカ・スーイ

▲子どもの楽団が町中を楽しく練り歩く『チータカ・スーイ』(福音館書店)

僕が子どものときは、大人が子どもにああしろこうしろと口出しすることはそんなになかったんですね。車もそれほどなかったから、どこでも好きに遊べたし…… 子どもだけの世界、子どもだけの時間っていうのがあったんですよ。『チータカ・スーイ』は、そんな時代への郷愁の本でもあります。

今は当時とは時代が違うから、大人がそばにいて指導しないといけないこともあるだろうし、危険な目にあわせないようにしっかり見てないとだめっていうのもあるんだろうけど、それでも子どもたちには、できるだけのびのびと育ってほしいですね。そのための環境づくりというのは、大人の課題だと思います。

かつて僕は、『絵で見る日本の歴史』をどう描いたらいいかわからずに、2年半も迷っていたことがありましたが、その間、編集の人はずっと待っててくれました。それって子育てと同じですよね。ヒントをあげることはあっても、ああやればいい、こうやればいいと口出しはしない。その子なりのよさがどう出てくるかを、大人はそばで見守っていけばいいんじゃないかと思います。

親子一緒に絵本の中で遊んでもらいたい

狂言えほん うつぼざる

▲子猿の愛らしさが胸を打つ、狂言の名作「靫猿」を絵本化!『狂言えほん うつぼざる』(講談社)。文はもとしたいづみさん

僕の本は、読み聞かせにはあんまり向いてないんですよね。どちらかというと、絵をじっくり見て楽しむ絵本。途中で気になったページまで戻って、「あ、ここにいる人がこっちのページにもいる!」なんて探したりしてね。いろんな人やものをとにかくいっぱい描き込んでるから、親子一緒に隅々まで見て、絵本の中で遊んでもらえたらいいなと思っています。

最近の新作は、狂言絵本『うつぼざる』。狂言を描くのは初めてだったんですけど、もともと狂言や落語の持つ笑いの力というのはすごいと思っていたから、描いてて楽しかったですね。伝統のあるものって、様式美もすばらしいんですよ。長い年月の中で余分なものは省かれて、必然性のあるものだけで成り立っているから、深さが感じられるんですよね。絵本を見るときは、そのあたりも意識してみると楽しいかもしれません。

今後は、内田麟太郎さんとの新作も何冊か予定していますし、長野ヒデ子さんとの絵本や、苅田澄子さんとの『じごくのラーメンや』の続編の予定もあります。ほかにも、長い時間をかけて取り組んでいきたいテーマもいくつかあります。どれも、人とのめぐりあわせでできる仕事なので、しっかりと取り組んでいきたいですね。


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