絵本作家インタビュー

vol.9 絵本作家 松谷みよ子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、赤ちゃん絵本の先駆的存在『いないいないばあ』の作者・松谷みよ子さんにご登場いただきます。絵本や童話の世界で数多くの作品を生み出してきた松谷さん。ミリオンセラー誕生にまつわるエピソードや、本が大好きだった少女時代、働きながらの子育て、子守唄やわらべ唄の魅力など、やさしくにこやかな笑顔で語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・松谷みよ子さん

松谷みよ子(まつたに・みよこ)

1926年、東京生まれ。作家。坪田譲治に師事し、1951年『貝になった子供』で第一回児童文学者協会新人賞を受賞。代表作に『龍の子太郎』(国際アンデルセン賞優良賞、講談社)、『ちいさいモモちゃん』(野間児童文芸賞)をはじめとする「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズ(講談社)、「松谷みよ子あかちゃんの本」シリーズ(童心社)、『現代民話考』(立風書房)など。近刊に『自伝じょうちゃん』(朝日新聞社)、『ミサコの被爆ピアノ』(講談社)がある。松谷みよ子民話研究室を主宰。http://matsutani-miyoko.net/

子どもの笑顔が集まる「本と人形の家」

※松谷みよ子さんは2015年2月28日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

私の師の坪田譲治先生が、びわの実文庫っていうのをおつくりになってたんですね。その頃の文庫活動の走りで、1階には本を並べて、2階は書斎で、そこで先生が仕事をしたり、みんなで集まったりしていました。私はそれを真似っこして「本と人形の家」っていうのをつくったんです。もう40年くらい前からあるんですよ。床が抜けて立ち使いができる人形劇用のスタジオにもなっています。

子どもたちは土曜日になると集まってきて、適当に本を借りて読んだり、紙芝居を見たり、お話を聞いたり、いろんな手遊びなんかもしたりして、それで帰っていきます。私も一緒です。そういう場所があるっていうのはいいですよね。

夏休みには夕涼みの会っていうのをやるんです。民話の会の人たちが語ってね。ほうずきちょうちんに火を灯して、子どもたちが浴衣を着て、とっても楽しいの。

今の子どもも40年前の子どもも、そんなに変わらないですよ。変わったことといえば、はじめの頃はもう足の踏み場もないくらい子どもが来たってことくらい。今は子どもはそんなにいないですけどね。でも今も自然と集まってきて、また帰っていくんです。昔も今も、子どもが「楽しい」と思うことって、変わらないんでしょうね。

育児日誌に覚えた言葉やしぐさを記録

育児日誌を長女のときからつけてましてね。毎日じゃないけれど、娘が発した言葉やしぐさなど、成長を記録してたんです。日常の些細なことはどうしても忘れてしまいがちですから、だんだんに覚えた言葉を書いておくだけでも、それを読むとそのときのことがばーっと思い出されるんですね。

だからお母さん方には、普通のノートでもなんでもかまわないので、育児日誌を書いておくことをおすすめします。私は二人目の子どものときも育児日誌をつけましたし、今も家のどこかにありますよ。

絵本の中の言葉はわりと直感的なもので、あんまり考えて書くわけじゃないんですけど、そういう育児日誌に書いていたことなんかも、絵本づくりのヒントになっていると思います。

言葉のあたたかさを声で伝えましょう

▲松谷みよ子さんのわらべうた絵本『あそびましょ』(偕成社)

子どもの頃に読んだアルスの児童文庫の中で、一番好きだったのが、わらべ唄の巻でした。「とおりゃんせとおりゃんせ」とか「かってうれしい はないちもんめ」とか、遊びの中でもよくわらべ唄が歌われてましたね。「♪ ことしのぼたんは よいぼたん」なんて歌って遊びませんでしたか? 青い空の下で、ぼたんの花がいっぱい咲いていて、そこに蛇がやってくる……ちょっとぞっとするような唄ですけどね(笑) でも、そういうリズムと言葉から、情景が浮かんでくるでしょう。

わらべ唄って短いけれども、そこに広くて深い世界があるんですよね。そういう世界と小さいときに出会っているっていうのは幸せなことですし、心も豊かになるんじゃないかと思います。

それから、子守唄も私は大好きなんです。最近は、子守唄を歌わないお母さんが増えているんでしょうか。私が孫を抱いて外で子守唄を歌っていると、「子守唄歌ってるよ」なんて言って出てくるお母さんたちがいるくらいですから。子守唄は、その国の伝統的なリズムとか言葉とかが自然に心の中に入ってくるんですよね。

たとえば「♪ ののさまどちら いばらのかげで ねんねをだいて はなつんでござれ」とか、「♪ ねんねこや ねんねこや、山の木のかず 草のかず、天にのぼって星のかず、田んぼにくだって稲のかず、稲のかずよりなおかわいい、この子のねんねがなおかわいい」とかね。やさしい雰囲気の歌でしょう。赤ちゃんだけじゃなくて、歌っているお母さん自身の気持ちも、やさしくなれるんですよ。

だから、子育て中のお母さん方には、子守唄やわらべ唄を歌って、お話を聞かせて育ててくださいって言いたいですね。働きながら子育てをしているお母さんも多いと思いますが、やっぱり一緒に歌ったり遊んだり本を読んだり……という時間をしっかり持ってあげることが大切です。それは長い時間じゃなくても、寝るまでのちょっと間、お話を聞かせるだけでもいいんですよ。肉声で語りかけるっていうのはいいですよね。テープを聞かせるんじゃなくて、言葉のあたたかさが伝わってくようにしてほしいと思います。


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