絵本作家インタビュー

vol.81 絵本作家 早川純子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『はやくちこぶた』などの絵本でおなじみの絵本作家・早川純子さんです。ユニークな発想とダイナミックな絵、繊細な版画など、多彩な表現で絵本をつくられている早川さんに、子ども時代に夢中になった絵本についてや、4年の歳月をかけて完成した『スマントリとスコスロノ』の制作エピソードなどを伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・早川純子さん

早川 純子(はやかわ じゅんこ)

1970年、東京都生まれ。多摩美術大学大学院修了。版画家、絵本作家。主な絵本に『しんじなくてもいいけれど』(文・内田麟太郎、ビリケン出版)、『まよなかさん』(ゴブリン書房)、『はやくちこぶた』(瑞雲舎)、『どんぐりロケット』(ほるぷ出版)、『あずきまる』(農文協)、『さんまいのおふだ』(文・千葉幹夫、小学館)、『とけいのくにのじゅうじゅうタイム』(文・垣内磯子、あかね書房)などがある。
鹿角版画室 http://www.umiusi.net/antler/

子どもの頃に夢中になった、かこさとしさんの絵本

しんじなくてもいいけれど

▲早川純子さんの初めての絵本『しんじなくてもいいけれど』』(ビリケン出版)。文は内田麟太郎さん。

子どもの頃は、福音館書店の「こどものとも」の絵本をよく読んでいました。特に好きだったのは、かこさとしさんの「だるまちゃん」シリーズと、「科学絵本」シリーズです。

かこさんの絵本の魅力は、見れば見るほど発見があること。軽快に描かれているようでいて、よく見るといろんなところに遊びの要素がたくさん描き込まれているんですよね。たとえば、『だるまちゃんとかみなりちゃん』では、かみなりちゃんの住んでいる国のいろいろなものにツノが生えているんです。「あ、ここにも!」と見つけるのがすごく楽しくて、何度も繰り返し読んでいました。

そんな風に絵本を楽しんだ記憶が残っていたこともあって、大学では創作絵本研究会に入りました。ただ、自分の中でもやもやと湧いてきた思いを一冊の絵本にまとめていくのは難しくて、ひとりで一冊つくりあげたことはなかったんですけどね。ほかの人との合作で絵本をつくったり、画集やポストカードをつくったりといった活動をしていました。

大学卒業後は、版画家として活動しつつ、挿絵の仕事などをぽつぽつといただいてやっていました。そんな中、個展を見に来てくれた編集者さんから、絵本の絵を描いてみないかと言われたんです。それでできあがったのが、『しんじなくてもいいけれど』。15見開きを連続して描くというのは予想以上に大変で、編集者さんに叱咤激励されながら仕上げました。

ジャワの伝統芸能を描いた『スマントリとスコスロノ』

スマントリとスコスロノ

▲影絵芝居・ワヤンの物語『山からきたふたご スマントリとスコスロノ』(乾千恵・再話、松本亮・監修、福音館書店)。美しい兄と、醜いが心のやさしい弟の、数奇な絆を描く

絵本の仕事の中でも、ほかの方の文章に絵を描く仕事の魅力は、知らない世界を垣間見られること。普段行かないようなところに行ったり、会えないような人に会ったりもできて、すごくおもしろいです。

インドネシア・ジャワに伝わる影絵芝居“ワヤン”の物語を描いた『スマントリとスコスロノ』のときは、監修の松本亮さんからいろいろとお話を伺ったり、日本ワヤン協会の公演を観に行ったり、実際にジャワ島に行ったりもして、その世界にかなり入り込みました。入り込みすぎて、いまだにちょっと引きずっているくらい(苦笑)

この仕事をするまでは、インドネシアというとジャワ島よりもバリ島のイメージの方が強かったんです。ワヤンについても、テレビや写真で見たことがある程度で。でもこの仕事を機に、ジャワ島ならではの伝統芸能を知ることができました。ただ、それを自分なりに表現していくのは、楽しくもあり、しんどくもある作業でしたね。せっかくつくるなら、本場の方たちが見ても楽しめるものにしたいという思いもあったので、いろいろと試行錯誤して……結局、依頼を受けてから完成するまでに4年くらいかかりました。

今年の3月には、ジャワ島で日本人作家4人によるグループ展に参加して、『スマントリとスコスロノ』の原画の一部を展示したんです。会期中、私もジャワに行ったんですが、現地の方たちもみなさん興味を持って見てくださっていて、うれしかったですね。

ワヤンになじみのない方も多いと思いますが、そういう方にもワヤンの世界の魅力が伝わるよう心がけて制作しました。この絵本をきっかけに、ワヤンの世界を覗いてみてもらえたらうれしいですね。

なくてもいいけど、あると楽しい それが絵本

どんぐりロケット

▲早川純子さん作・絵の『どんぐりロケット』(ほるぷ出版)。ヒックリーとカエルが繰り広げる、ゆるーい冒険物語

子どもの頃から、字の多い絵本はあまり好きじゃなかったんです。今でもそうなんですけど、できれば文章は1、2行くらいで、あとは絵で見せるような絵本が好き。図書館でも本屋さんでも、ページをめくってみて文章が長いとわかると、さーっと見るだけで、すっと棚に戻しちゃうんです(笑) もっとじっくり読めば好きになるかもしれないんですけど、やっぱり文章を読むことより、絵を見ることの方が好きなんですよね。

絵本をつくるときは、描きたいシーンが先に浮かんでくることが多いです。描きたいシーンのために、なかば強引にストーリーを展開していく感じ。そのせいか、何にも役に立たないような、ゆるーいお話ばかりつくっている気がします。真面目なお話、つくれないんですよね(笑)

絵本の仕事をしていて最近よく思うのは、絵本って実は、なくてもいいものだよなってこと。生活必需品ではないし、それほど役に立つものでもないと思うんですよ。もちろん、ものの名前が覚えられるとか、数字が覚えられるとか、あいさつできるようになるとか、役立ちそうな絵本もいろいろあります。そういう絵本の方が売れるのかな?なんて下心も、ないことはないんですけど(笑) でも子どもにとっては、役に立つかどうかなんて、たぶんどうでもいいことで…… 楽しいかどうかの方が重要ですよね。

なくてもいいけど、あると楽しい。絵本はそういうものなのかなって、最近は思っています。それに、絵本を通じて楽しい時間を過ごしたという経験は、きっとどこかしらで役に立ってくるんじゃないかなとも思うんです。すぐには役立たなくても、心に積み重なっていくというか…… そんな風になればいいなと思いながら、絵本をつくっています。


……早川純子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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