絵本作家インタビュー

vol.59 絵本作家 秋山あゆ子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「くものすおやぶん」シリーズや「みつばちみつひめ」シリーズなど、虫を主役にした絵本で人気の作家・秋山あゆ子さんです。秋山さんの描く愛嬌のある虫たちは、どのようにして生まれたのでしょうか。虫が好きでたまらないという秋山さんに、虫好きになった経緯や虫の魅力、絵本の制作エピソードなどを伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・秋山あゆ子さん

秋山 あゆ子(あきやま あゆこ)

1964年、東京都生まれ。1992年、「月刊ガロ」(青林堂)で漫画家としてデビュー、虫の世界を描いた作品を発表する。主な漫画の作品集に『虫けら様』『こんちゅう稼業』(青林工藝舎)、絵本の作品に『くものすおやぶん とりものちょう』『くものすおやぶん ほとけのさばき』(福音館書店)、『みつばちみつひめ てんやわんやおてつだいの巻』『みつばちみつひめ どどんとなつまつりの巻』(ブロンズ新社)がある。昆虫と古い民家を訪ねるのが好き。

いろんな虫を探してみよう! みつひめの夏まつり

『みつばちみつひめ どどんとなつまつりの巻』

▲新作『みつばちみつひめ どどんとなつまつりの巻』(ブロンズ新社)。画像下は虫を探して遊べる「とくべつふろく」

「みつばち みつひめ」の新作は、夏まつりを題材に描きました。一番時間がかかったのは、ずらりと並んだ屋台を描いたページです。

夏まつりに登場する虫たちはすべてモデルとなる虫がいて、ひとつひとつ資料を見ながら描いていきました。虫たちがどんな屋台をやっているか考えるのは、とても楽しかったです。着物の柄も、カマキリなら鎌、クワガタなら鍬、モノサシトンボならものさしなど、虫の種類と対応させたりしているんですよ。

今回は虫たちのおまつりなので、ミツバチだけでなく、色々な虫を描きました。たとえば、まつりには不良がいないとってことで、ゴキブリたちには不良軍団になってもらいましたし(笑)、カイコはわたあめ屋さん、チョッキリは植木屋の主人という感じで、楽しんで描きました。

今回は、絵本の中に登場する虫を探して遊べる「とくべつふろく」がついていますので、どこにどんな虫がいるか、探してみてもらえたらうれしいですね。

最初の方に出てくる「はねせんぷうき」は、実際のミツバチの生態をもとに描きました。ミツバチは、羽を振り続けることで、巣の中を換気して、温度を下げるんですよ。すごいですよね。そのことを絵本の中でも描きたかったので、こういうシーンをつくったんです。でも、地べたに座ってあおいでいるだけでは、いかにも召使いっぽくてかわいそうだなと思ったので、絵本の中では、六角形の扇風機用の台をつくって、そこに座ってかき氷を食べたり折り紙をしたりしながら、楽しく羽を振るようにしました。

今回はみつひめの大の仲良しの、6匹の“おっちゃんばち”が登場します。このおっちゃんたち、最初は特にキャラクター設定はしていなかったんですね。でも、6匹の配置とかそれぞれがどんな行動をしているかを描くときに、あらかじめ性格とか特徴を決めておかないと描けないなと思って、「あにき」「いっぱち」「たけお」といった名前をつけて、性格なども決めていきました。

名前は絵本の見返し(表紙の裏面)に載っているので、みんながそれぞれ、どこでどんな行動をとっているか、ぜひ見てやってください。ちなみに「たけお」は、キノコが大好きで、キノコを見つけると目の色が変わるんですよ。

みつばちみつひめ どどんとなつまつりの巻

▲『みつばちみつひめ どどんとなつまつりの巻』の中の、ずらりと並んだ屋台のページ。まつりにはいろいろな虫が登場。ラストの花火も圧巻です!

お話も絵も“わかりさすさ”を意識

絵本作家・秋山あゆ子さん

絵本をつくるときに気をつけているのは、なるべくわかりやすくする、ということです。漫画でもそうなんですけど、自分一人だけわかっているっていうのは避けたいなと思っているんです。

私はもともと内向的な性格で、自分の世界に閉じこもってしまいがちなんですね。そうするとどうしても、自分だけわかっていればいいっていう方向にいってしまいそうになるんです。だから、ほかの人が見たときどうだろうっていう客観的な視点をいつも忘れないように、心がけています。

絵についても同じで、わかりやすさを大切にしているんですけど、そもそも絵を描くことについての基本的な勉強をまったくしていないので、自信があまりなくて……建物の遠近感など、いちいち計算して描かないと心配なので、下書きにものすごく時間がかかるんです。きちんと勉強した方なら、きっと感覚でささっと描くことができると思うんですけど。それができないので、下書きは本当に大変なんです。でも、時間がかかっても、ひとつひとつなるべく丁寧に描いていきたいと思っています。

お子さんたちが、私の絵本の中にどこかひとつでも気に入ったシーンを見つけてくれたらうれしいですね。自分が子どもの頃、たくさんのものが並んでいる絵をずっと見ているタイプだったので、そういうお子さんがいたら共感してもらえるんじゃないかなと思っています。だからついつい、いろんなものを並べて描いちゃうんですよ。お子さんたちの中に、自分の仲間がいないかなぁ、なんて思いながら(笑)

興味を持てば、世界はぐんと広がる

絵本作家・秋山あゆ子さん

子どもの頃のことでよく覚えているのが、アリを観察していたときのことです。アリの巣をどうしても見たくて、コーヒーの瓶に入れて観察していたら、逃げ出してしまって……お風呂の床のセメントの割れ目に巣をつくって、大変なことになっちゃったんです(笑) そのときは恐ろしいことになってしまったと思いましたけど、今となっては忘れがたい貴重な思い出です。

私が虫に夢中になったのは大人になってからのことなので、子ども時代の虫の思い出というとその程度しかないんですけど、思い返してみると、私の母は虫を嫌ってはいなかったんですね。だから、何も知らないうちから「虫なんて嫌い」と決めつけることはありませんでした。それはよかったなと思っています。

お母さんが虫を嫌っていると、子どもも最初から「嫌い」っていうフィルターをかけて見てしまう場合が結構あると思うのですが、できるだけ最初から嫌ったりせずに扉を開いてみてほしいなと思うんです。

もちろん、嫌いな虫がいても当然だと思うんですよ。イモムシがいやだっていう心理もわかりますし、台所の黒い戦士(笑)なんかは、誰だっていやだと思います。でも、それだけで虫すべてを嫌いだと思ってしまうのは、すごくもったいない。世の中には犬は嫌いだけど猫は好きって人もいるだろうし、ねずみは嫌いだけどリスは好きって人もいるでしょう。それと同じように、気持ち悪い虫がいたとしても、きっと好きになれる虫もいると思うんです。自分の好きな虫をひとつでも見つけられたら、そこから世界はぐんと広がるはずです。

虫は都会でも、よく見ると結構いるんです。私のうちも普通のマンションなんですけど、ベランダの植木鉢にコガネムシの幼虫がいたりします。興味を持てば、見えてくるものがたくさんあるということを、絵本を読むお父さん、お母さんやお子さんたちにも知ってもらえたらうれしいですね。


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