絵本作家インタビュー

vol.5 絵本作家 三浦太郎さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、赤ちゃんのファーストブックとして人気を集める『くっついた』の作者・三浦太郎さんにご登場いただきます。絵本作家としては、海外でのデビューが先だったという三浦さん。子育てにまつわるエピソードや、絵本づくりにおけるこだわり、読み聞かせについてなど、楽しく語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・三浦太郎さん

三浦太郎(みうら・たろう)

1968年、愛知県生まれ。絵本作家、イラストレーター。大阪芸術大学美術学科在学中に、日本イラストレーション展入選、日本グラフィック展入賞。卒業後はイラストレーターとして、広告の仕事のほか、本や雑誌、教科書の表紙画などで活躍。イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に6度入選。海外で出版された『JE SUIS...』『TON』で絵本作家デビュー。日本での作品に『くっついた』『なーらんだ』『わたしの』(こぐま社)、『まかせとけ』(偕成社)、『バスがきました』(童心社)、『おしり』『よしよし』(講談社)などがある。 http://www.taromiura.com/

読み聞かせでわが子の成長を実感

絵本作家・三浦太郎さん

子どもの成長がわかるっていうのは、絵本の魅力のひとつですよね。成長とともに、読んだときの反応も変わってくるじゃないですか。文字がわかり始めてるな、記憶力がついてきたな、擬音語をよく覚えてるな、僕より先に言ったな、間違って覚えてるな、とか(笑) 読みながら子どものことを観察してると、成長が見えてくるんですよ。

去年のことなんですけど、こどもの日の前に、かぶとを折ろうと思ったら失敗して、三角の帽子ができちゃったことがあったんですね。まぁいいやってかぶせてあげたら、子どもがおもちゃ箱の中からラッパを出してきて、プップクプーって吹き始めたんです。

何やってんのかな?って思って見てたら、エッツの『もりのなか』(福音館書店)を本棚から出してきて。紙の三角の帽子をかぶって、おもちゃのラッパを吹いて森の中に入っていくシーンを再現してたんです。なるほど、言われてみればその帽子にそっくりだって気づいて、絵本の内容をちゃんと理解してたんだなと感心しました。子どもの頭ってものすごく柔軟だから、大人が思いもよらないところで絵本の世界と現実がつながってたりして、おもしろいなと思いますね。

イライラしたときこそ絵本を

絵本作家・三浦太郎さん

僕は子育てがうまい方じゃないと思うんです。すごくイライラしちゃうんですよ。もうやってらんないって。特にぐずられたときとかね。延々とおままごとにつきあわされるのも疲れるし。『くっついた』を読んで、「三浦太郎さんて、ひろみちお兄さんみたいな人なんじゃないかな」なんて感想を寄せてくれる方もいるんですけど(笑)、僕自身はほんとに子育てがニガテで。もっと我慢強く子どもに接してあげられる人が、いい親なんだろうな、と思います。

この苦労って、子どもができて初めて知ったことなんですよね。子どもが生まれるまでは、子育ての話を聞かされても実感が湧かなかったんですけど、今は子育て中の人の話を聞くと、自分が疲れちゃってるもんだから、「大丈夫?」「疲れてない?」「そんな状態で2人目つくっちゃって平気?」なんて心配ばっかりしたりして(笑)

たぶん全国には、僕みたいに子育てに疲れてイライラしてるお父さんお母さんがたくさんいると思うんです。それを考えると、もっと絵本をつくろう!って気持ちになります。子育てって本当に大変だけど、なるべくみんなが楽しく子育てできるように、絵本を活用してもらえたらうれしいですね。イライラしたときこそ、絵本かなと。絵本を通して、子どもとの時間を楽しんでほしいなと思ってます。

「くっついた」で世界平和!?

▲リアルに体験してみよう!『くっついた』(こぐま社)

『くっついた』は、きんぎょさんやアヒルさん、ぞうさんなどの動物同士がくっついて、最後に親子のほっぺたがくっつくんですけど、これを読んでもらったら、きっと子どもの方からほっぺたを出してくれると思うんです。そういうときは、お母さんやお父さんもほっぺたを出して、リアルに「くっついた」を体験してほしいですね。

僕の絵本は、なるべくその子に返ってくるようにつくってるんです。『くっついた』なら親子でくっついてほしいし、『なーらんだ』なら親子で一緒にならんでほしい。『わたしの』なら、自分の子の名前で「○○ちゃんの」と読んであげてほしい。必ずその子に返ってくるような読み方をしてあげてほしいですね。たぶん子どもはそういうのをすごく期待していると思います。だから、読み終わって実際に同じことをしてみて初めて、この絵本の完成だと考えてます。

本を読んだあとに本の中のことを1つするだけで、親子の触れ合いが1つ増えるんですよね。赤ちゃんって言葉でいくら言っても通じなかったりするから、触れ合いが一番だと実感してます。常に触れ合う、そして絵本を読んでまた触れ合う、それが子どもにとっていいことなんだろうなって。

今、社会にはいろんな事件や問題がありますけど、人種も宗教も通り越して、「くっついた」で世界平和を目指せないかな、なんて、でかいことも考えたりして(笑) 言葉がなくても、触れ合ってるだけで、自然といい関係を築いていけるんじゃないかなって思うんですよね。

僕の日本での作品は赤ちゃん絵本ばかりなんですけど、今後はほかのものも出していきたいなと思ってます。もうちょっと上の年齢の子どもたちに向けた、今までにないようなタイプの絵本とか。僕自身は子ども時代、働く車とか鉄道とかの図鑑がすごく好きだったんで、そういう自分の好きなものと、子育ての経験を混ぜ合わせながら、いろんな作品をつくっていけたらいいですね。


ページトップへ