vol.36とうごうなりささんの推し絵本
思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回は、『さくらがさくと』や「あかちゃんの おさんぽえほん」シリーズなど身近な自然と人々の関わりを描く絵本が人気の絵本作家で、6歳の女の子のママでもあるとうごうなりささんにご登場いただきます。
子どもが生まれたときから、絵本の読み聞かせはしたいと思っていました。それで絵本屋さんや文庫、図書館などに通いましたね。私自身が自然が好きで、子どもと一緒に生き物を観察したいなと思ったので、生き物の赤ちゃん絵本を探しました。
ただ赤ちゃん向けの、特にボードブックでは「動物」は「キリン」や「ライオン」、「植物」は「赤いお花、黄色いお花」という感じで、赤ちゃんが普段の生活の中で見られる生き物を具体的に描いた絵本というのは意外と少ない。ないならつくりたいなと思いました。
子どもって、一度見たことがあるものに反応するんですよね。だからめくりたい年頃から身近な生き物を目にしていてほしいなと思ったんです。絵本で見たカラスを、次に野外で「あれがカラス」と教えてもらって、「あ、絵本に出てきたうんちをするやつだ」となる。もちろん逆でもいいんですが、現実の世界と絵本の世界がつながることで、両方の経験が深まる。それが身近な生き物を題材にした絵本の強みでもあるなと。
3冊とも、まだ赤ちゃんだった娘と遊んだ経験がもとになっています。例えば『からすが かあ!』。抱っこ紐で娘を前向きに抱いてお散歩したときに、私はバードウォッチャーなのでよく「カラスがいるよ」「ムクドリだね」「スズメが何か言ってるよ」などと話しかけていました。娘はムクドリやスズメには反応をしてくれませんでしたが、カラスだけは見えて声も聞こえたようで、「あー!」と言って反応してくれたんです。それで0歳から楽しめる鳥=カラスだと確信しました。
また娘はたんぽぽの綿毛が大好きでしたが、0~3歳くらいの子どもって綿毛を「フーッ」と吹き飛ばせないんですよね。それで『たんぽぽのはら』では、綿毛をつんつんして飛ばしています。てんとうむしは、『あ! てんとうむし』の裏表紙に描いたカラスノエンドウを探すと見つけやすいですよ。ぜひ赤ちゃんと一緒に、絵本のように生き物と遊んだり観察したりしてみてくださいね。
子どもへの読み聞かせは、今でも寝る前にしています。0~3歳の頃は、寝る前以外にも子どもが「読んで」と持ってきたら読んであげるようにしていました。その頃のお気に入りは、『まんまるだあれ』。大きな丸に模様や手足がでて、いろいろな生き物になるお話です。身近な生き物が出てくるところも好きでしたし、言葉のリズムがすごくよくて、読み聞かせていて楽しかったです。まんまる探しがブームになって、街中の看板やマークを見ては「まんまる!」と指さしていましたね。
また親子で好きなのが「14ひきのシリーズ」。とにかくたくさん読みました。私自身が子どもの頃に好きだったのが『14ひきのおつきみ』です。木の上のお月見台に登るはしごがすごくうらやましかったんです。よっぽど好きだったんでしょうね。工作が得意だった母が、当時私が使っていた机の棚の中に、お月見台とはしごを枯れ枝でつくってくれた思い出があります。
娘は『14ひきのやまいも』が一番好きだと言っていました。むかごを採るシーンが好きで、実際に自分で採るのも楽しかったし、炊き込みご飯にして食べたのもおいしくて、「あれは楽しかった!」と言っていました。ほかにも、確実に見分ける自信があるものは、子どもにも「これとこれは食べていいよ」と教えています。ただ食べられる草と見た目がそっくりでも毒があるものもあるので、知らない方は要注意です。
私たちが「14ひきのシリーズ」を、絵本で読むだけではなく、道具をつくったり植物を探して食べたりすることで、より深い絵本体験をしたように、私の絵本も現実とリンクさせて楽しんでもらえたら、とてもうれしいです。
とうごう なりさ
1987年、千葉県生まれ。東京農工大学農学部を卒業後、イギリスのケンブリッジ・スクール・オブ・アートで絵本や児童書の挿絵を学ぶ。2019年ボローニャ国際絵本原画展入選。主な絵本に『じょやのかね』『さくらがさくと』(いずれも福音館書店)、『はばたけ!バンのおにいちゃん』(出版ワークス)など、挿絵に『Magnificent Birds』(英・Walker Studio)、『はりねずみともぐらのふうせんりょこう』(作・アリソン・アトリー、訳・上條由美子、福音館書店)がある。1児の母。