みんなの推し絵本!

vol.20 俵万智さんの推し絵本

vol.20 俵万智さんの推し絵本

俵万智さんの写真

vol.20俵万智さんの推し絵本

思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回は歌集『サラダ記念日』『プーさんの鼻』などのほか、エッセイや絵本の翻訳も多数手がけている歌人の俵万智さんにご登場いただきます。

クリスマスを待ちのぞむワクワク感『クリスマスのぼうけん』

今回翻訳した『クリスマスのぼうけん』は、絵本が大好きな女の子ベティと、絵本から飛び出したクマのコスモの不思議な夜の冒険を描いた『ひかりのぼうけん』の続編です。まだ見ぬクリスマスツリーを探してふたりが冒険していくところが、クリスマスを待つワクワク感と重なる絵本になっています。

てっぺんに世界で一番明るい星が輝いている「ひかりのクリスマスツリー」というものがあるらしいという話が冒険のきっかけになりますが、実はこれ、家に閉じこもっていたコスモを連れ出すためにベティがつくったお話なんですよね。それが、冒険を通して想像力が現実を引き寄せて、最後は本当にひかりのクリスマスツリーが目の前に現れるという展開になっています。作者の「物語の力」へのリスペクトを感じましたし、とても感動したところでもあります。最後のツリーのページを見て、子どもたちが「ワーッ!」と喜んでくれたらうれしいですね。

絵本の原題は『THE CHRISTMAS LIGHT IN THE NIGHT』で、「light」 と「night」が韻を踏んでいます。日本語では韻を踏む代わりに、1作目の『ひかりのぼうけん』とのつながりを考えて、「ぼうけん」という言葉をタイトルに出しました。最初のページのコスモの部屋には、前作『ひかりのぼうけん』がこっそり置かれています。ぜひあわせて楽しんでくださいね。

絵本と大人の読む書物では、「耳で聞く」ことの重要性が一番違いますよね。だから訳す際にA案かB案か迷った時は、声に出してみて聞いて心地いい方を選びます。短くてリズムがあるところは、短歌と絵本の言葉の共通点だと思います。無駄をそぎ落としていって、本当に芯のような言葉で心に届くという工夫をしますので。一方で翻訳の場合、元になる絵本が伝えたいことがあるので、なるべく自分は透明人間になるようにしなくてはと思っています。また絵本の文章は、絵と一緒に味わう言葉です。なるべく絵に語ってもらうためにも、逐一訳すというより、絵本の世界を訳すという気持ちを大事にしています。

思い出の絵本『三びきのやぎのがらがらどん』、『花さき山』

昔は絵本って贅沢なものでそんなに買ってもらえませんでしたが、『三びきのやぎのがらがらどん』は買ってもらった本でした。私は3歳くらいの頃この絵本が大好きで、一言一句たがわず最初から最後まで覚えていたと親から聞きました。まだ字が読めないのに、さも読んでいるかのようにページをめくる「字が読めるふりごっこ」をして得意になっていたそうです。

ただ大人になってそのエピソードを振り返ってみると、奥付には1965年とあって、私は62年生まれ。今でこそ100年読み継がれる定番中の定番ですが、母が買った時は出たばかりの絵本だったわけです。せっかく買うんだからいい絵本をと、母はアンテナをすごく張って、吟味して買ったのではないでしょうか。私が丸暗記していたというところも、以前は自分の記憶力がいいという話だと思っていましたが、子どもが丸暗記するほど親が読んでやったという話ですよね。自分が読み聞かせる番になって、これは親がえらかったんだなと。

『花さき山』も、私自身、子どもの頃に読み、子どもにも読み聞かせた、つながりのある絵本です。おとぎ話って現世利益のある話が多いけれど、この話はいいことをしたら人知れず花が咲くだけ。「見返りが花かい!」って(笑)。でも、とても麗しいですよね。子どもの時から好きでしたが、大人になって改めて魅力あるお話だと思いました。

息子が幼稚園の頃、私が「今日は何したの?」「お友だちと楽しく遊べた?」などと前のめりになって聞いても、息子は「普通」とか「楽しかった」とか言うだけだったんです。でもこの『花さき山』を読んでいる時に、「たくみん(息子さんの愛称)の花って咲いたことあるかな?」と聞いたら、「白い花が咲いている気がする」と。さらに聞くと、幼稚園で牛乳をこぼしちゃったお友だちがいて、それを拭くのを手伝ってあげたから、と話してくれたんです。

子どもって、面と向かっては思いつかないし、話せない。でも絵本が間にあることで、こっちも聞きやすいし、向こうも話しやすいんでしょう。読み聞かせの時間は、絵本を読むということだけではなくて、子どもとのいいコミュニケーションの時間なんですね。

読み聞かせは親子のオーダーメイド

読み聞かせの何がすばらしいって、目の前にいる子に合わせてオーダーメイドで読んでやれることですよね。難しかったら飛ばせばいいし、脱線も大いに結構。子どもがわかんないって顔をしたらもう一回くり返してやればいい。例えば『クリスマスのぼうけん』の中で前作の絵本を見つけたら、そこで脱線して、何なら『ひかりのぼうけん』を読んだっていい。誰でも最初は初心者。子どもと一緒に、だんだんと自分たちにぴったりの読み方ができていけばいいんじゃないかなって思います。

今子育て真っ最中の方々に向けて、以前詠んだ短歌をひとつご紹介します。

「最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て」

子育てって大変。ほとんど記憶が飛ぶくらいですよね。そんな日々の中で「あれ、最後はいつだったかな?」と思うことが結構あります。初めて立ったとか、歩いたとか、最初って割と意識するんですが、最後にオムツを変えたのはいつだかわからない。そんな風に、最後って気づかないうちに過ぎて行ってしまう。けれど、「もしかしたらこれが最後かも」と思うことで、その時間がすごく愛おしく大事に感じられたりもする。子育ては大変は大変だけれど、その大変さはいつか気づかないうちに「最後」になって過ぎていくと思うと、少し前向きになれるのではないかなと思います。

ミーテ プレゼント情報

クリスマスのぼうけん

インタビューの中でご紹介した絵本クリスマスのぼうけんに直筆サインを入れていただきました。ミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。

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応募期間
11月28日(火)~12月11日(月)

プロフィール

俵 万智さん

俵 万智(たわら まち)

1962年、大阪府生まれ。歌人。第一歌集『サラダ記念日』(河出書房新社)で第32回現代歌人協会賞を受賞。『プーさんの鼻』(河出書房新社)で第11回若山牧水賞を受賞。2020年『未来のサイズ』(KADOKAWA)で迢空賞と詩歌文学館賞をW受賞。『クマと森のピアノ』や『ひかりのぼうけん』など絵本の翻訳も多数手がけるほか、自身の作品から子ども向けに季節の短歌を選び言葉を添えた『富士山うたごよみ』など。


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