みんなの推し絵本!

vol.19 鈴木のりたけさんの推し絵本

vol.19 鈴木のりたけさんの推し絵本

鈴木のりたけさんの写真

vol.19 鈴木のりたけさんの推し絵本

思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回は、「しごとば」シリーズや『大ピンチずかん』などでおなじみの絵本作家・鈴木のりたけさんにご登場いただきます。

加古里子さんの科学の本で、知的好奇心を刺激された

僕は子ども時代、基本的に外を走り回って遊んでいたので、あまり本の記憶はないんですよね。本棚の一番下に図鑑がずらーっとあったのは覚えていますが、それ以外だと、幼稚園の先生をしていた母の手作り絵本を読んでもらったぐらい。お姫様が出てくる、僕は全然興味がわかないような絵本でしたけどね(苦笑)。

いわゆる絵本だと、学校図書館で読んだ加古里子さんの科学の本のシリーズが僕の原風景です。中でも『海』がすごく好きでした。図鑑みたいな絵本なのにきちんと導入部分があって、冒頭、波打ち際を走る水着の子どもの足元のアップから始まり、少しずつカメラを引くことでスケールが変わっていくんですね。そのダイナミズムにドキドキしました。

海の中の描き方も、浅瀬の生き物と深いところの生き物が、普通ならひと目ではわからないはずなのに、加古さんの編集力、描き方の魔法で、パッと見て全体がわかるようになっている。そういうところに、ものすごく知的好奇心を刺激された気がしています。

子どもと読んだ絵本、子どもがいたから描けた絵本

改めて絵本の魅力に気づかされたのは、自分が親になって、子どもに読み聞かせするようになってからです。何度も読んだ思い出の一冊は、東京西山小学校の子どもたち5人が西表島でキャンプする様子を漫画風のコマ割りで描いた、松岡達英さん『山猫たんけん隊』。声色を5人分変えて読んだり、書かれていない台詞も言ったりして、自由に遊びを挟みながら読んでいました。適度なゆるさがあって、遊び甲斐のある絵本は大好きですね。

「ゆうたくんちのいばりいぬ」シリーズの『こんにちはいぬ』も、子どもたちからせがまれて何度も読みました。じんぺいという名前のシベリアンハスキーが出てくる、小さめサイズの絵本なんですけど、言葉や音のセンスが見事で、短い文章の中にミニマムな気持ちよさや面白みを感じました。おしゃれすぎず、説教くさくもなく、心の真空地帯にスポッと入ってくるような、何とも言えない魅力があって、奥深いなぁと感じましたね。

僕の絵本『大ピンチずかん』も、親になったからこそ描けた絵本です。以前から、子どもたちのちょっと変な仕草や言い間違いを、いつか役に立つかなと思ってスマホにメモっていたんです。子どもたちと接していると、予想外のところからぽこぽこと面白いことが湧いてくるんですよね。そこから万人にわかるような絵本のネタにするのは、またちょっと大変なんですが、たくさんの親子に「わかる~!」と笑ってもらえたらうれしいです。2023年11月には『大ピンチずかん2』が出る予定なので、楽しみにしていてください。

昔の自分自身が知りたかった「働くってどういうこと?」

「しごとへの道」シリーズは、パン職人、新幹線運転士、研究者など、様々な職種の方々を取材して、子ども時代から今の仕事にたどり着くまでの道のりをコマ割りで描いたグラフィックノベルです。これは、昔の僕自身が読みたかった本でもあるんです。

僕自身、鉄道会社に入って新幹線運転士も経験して、その後グラフィックデザイナー、絵本作家と、これまでの人生、紆余曲折があったんですね。ひたすら偏差値を追いかけていたこともありますし、乗っかっていたはずのレールが途切れていて、こんなはずじゃなかったと思ったこともありました。仕事選びの時も、「働くってこういうことだ」と胸を張って自分の言葉で語ってくれる人は僕の前には現れなかったし、そういう本も見当たらなかったんですよね。だから、そんな本を僕が作ろうと思いました。

「しごとへの道」で描いているのは、その仕事に就くためのノウハウではないし、その道の第一人者のサクセスストーリーでもありません。市井の人が迷いながら、力強く歩んでいく姿、一人ひとり違う、正解のない生き様を描きました。いきなり仕事のリアル、人生の歩み方みたいな濃い内容を読むのは難しいと思うので、仕事の面白みや華やかさ、躍動する感じは「しごとば」シリーズの方で楽しんでもらって、実際どういう道のりでその仕事に至るのか、という部分を「しごとへの道」で読んでもらうといいかなと思っています。

これからも絵本を通じて、毎日の生活に楽しみや面白み、彩り、発見などを与えられたらいいなと思います。読み手の皆さんも、そこから何か学び取らなきゃと構えたりせず、自由に楽しんでくださいね。

鈴木のりたけさんのインタビューをもっと読みたい方はこちら

誰でも自由に楽しめる それが絵本の魅力

ミーテ プレゼント情報

しごとへの道-2 獣医師 オーケストラ団員 地域おこし協力隊

インタビューの中でご紹介した「しごとへの道」シリーズの最新作『しごとへの道-2 獣医師 オーケストラ団員 地域おこし協力隊』に直筆サインを入れていただきました。ミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。

※ミーテ会員登録がまだの方は、登録後、ご応募ください。会員登録はこちら

プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。

応募期間
10月31日(火)~11月13日(月)

プロフィール

鈴木 のりたけさん

鈴木 のりたけ

1975年、静岡県生まれ。一橋大学社会学部卒業。JR東海勤務、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本賞読者賞、『しごとば 東京スカイツリー』(ブロンズ新社)で第62回小学館児童出版文化賞、『大ピンチずかん』(小学館)で第15回MOE絵本屋さん大賞第1位を受賞。主な作品に「しごとば」シリーズ(ブロンズ新社)、『ぼくのおふろ』(PHP研究所)、『ねるじかん』(アリス館)などがある。(プロフィール写真:黒澤義教)


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