vol.18たなかひかるさんの推し絵本
思い出の一冊、大好きな一冊、渾身の一冊など、とっておきの“推し絵本”を紹介してもらうインタビュー「みんなの推し絵本!」。今回はお笑い芸人でギャグ漫画家、絵本『ぱんつさん』や『おばけのかわをむいたら』の作者でもある絵本作家たなかひかるさんにご登場いただきます。
僕のスタートはお笑い芸人ですが、美術の大学に行っていたことや、子どもの頃から絵本に囲まれて育ったということもあって、もともと将来は、絵を描きたいという気持ちがありました。ただ絵は年を取ってからでも描けると思って、先にお笑いを始めたんですよね。そのうちに人前に出るのが得意じゃないと気づいて(笑)、漫画や絵本を手がけるようになっていったという感じです。
漫才や漫画を作っている時から、言葉をどれだけ減らせるか、何ならツッコミすらなくしたいと思っていたのですが(笑)、その点、絵本は相当言葉を削っていきなり「こういうものです」と出せるところがあって、面白いと思っています。ぱんつさんも、いきなり地面から出てきますが、何者なのかの説明は一切していません。実はこのぱんつさんは、出版ぎりぎりまでパンツもはいてなかったんですよね(笑)。覚えてもらいやすい姿にしたいねといろいろな柄のパンツをはかせてみて、そこでタイトルも決まりました。
表紙にいろいろなぱんつさんを描いたのは、子どもの頃、かこさとしさんの『からすのパンやさん』のようにいろいろと描き込まれた絵本が好きだったことも関係しているかもしれません。こんな風に絵本の中に遊びがあると人に言いたくなるじゃないですか。読み物としてだけではなく、コミュニケーションのツールになれたらいいなという思いもあります。
僕の絵本は「読み聞かせが難しい」とよく言われます(笑)。コツのようなものがあるとすれば、もう全力でやり切るのがいいかな。先日テレビに出演した際に、有名な声優さんが文と文の間にアドリブでいろんなことを入れて、相当自由に読んでくださったんですよ。こんな「遊びしろ」がある絵本なんだなと、僕自身とても驚かされました。そんな風にアレンジを自由に加えていただいて、全然違うストーリーをつくってもらってもいいと思います。
両親共に先生で本好きでもあったので、子どもの頃は、絵本に限らず漫画も小説も含めて家中に本があって、自由に手に取って読める環境でした。好きな絵本はたくさんありますが、中でも『はれときどきぶた』は、小さい頃に読んでもらったり、自分でも読んだりしたお気に入りの絵本です。
このお話をよく覚えている理由は、ちょっとだけ怖かったから。家族でえんぴつを天ぷらにしてばりばり食べるシーンがあるじゃないですか。主人公以外はそれを当たり前のこととして過ごしていて、そのことが子ども心にすごく怖かったんですよね。異常なことが、普通に淡々と目の前で起きている怖さ。この絵本に影響を与えられたなと思います。例えば、僕の漫画『サラリーマン山崎シゲル』の主人公はしれっと淡々と異常で、実際にいたらめちゃくちゃ怖いですよね(笑)。『ぱんつさん』も『おばけのかわをむいたら』もそう。僕が、淡々と異常なのが好きな原点はこのお話にあると思います。
あとは、長新太さんの『ごろごろにゃーん』が好きですね。初めて読んだのは子どもの頃ですが、長新太さんの作品は大人になってからも買い集めています。文章はほとんど「ごろごろにゃーん、ごろごろにゃーんと、ひこうきはとんでいきます」のくり返し。絵だって一見適当に描いているみたいなのに、どうしても魅かれてしまうんですよね。
僕は絵を描く時に、点1個、線1本描くのに、「子どもたち、喜んでくれ」「ええ線引けてくれ」と、気持ち込めてるわけですよ。そういう行動って、「呪い」とか「念」みたいな、もちろんポジティブな意味ですが、そういうものを静かに積み重ねる感じと似てると思っていて。長新太さんにはそれをすごく感じるんです。直接存じ上げているわけじゃないので、あくまで僕の一方的な思いですけれどね。絵本自体も好きですが、それを通り越して長新太という人間自体にすごく興味がわいてくるというか、「この人、やばない!?」って思ってます。僕も、そういう作家になっていけたらいいなと思っています。
今後の絵本の予定ですが、4つ動いていて、3つは方向性が決まっています。ポプラ社では動物を題材に、『ねこいる!』みたいなハイテンション・意味わかんない系をもうひとつつくってみたいなと。あとは、お弁当系のものとサンドイッチを題材にしたもの。食べ物を粗末にしない感じでつくりたいと思っていますので、楽しみにしていてください!
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
たなか ひかる(田中 光)
1982年、京都府生まれ。お笑い芸人、ギャグ漫画家、絵本作家。グレープカンパニー所属。漫画家としての代表作に『サラリーマン山崎シゲル』(ポニーキャニオン)、『つまねこ』(講談社)など。絵本は、『ぱんつさん』、『ねこいる!』、『すしん』、『おばけのかわをむいたら』、『しりながおばけ』がある。漫画連載の他、広告、テレビ番組とのタイアップなど活動は多岐に渡る。