Vol.21 「こぐまちゃんえほん」担当編集者・佐藤英和さんが語る
赤ちゃんとの絵本の時間を楽しみたい、すべての方へ。選りすぐりの赤ちゃん絵本の誕生秘話や、作家さん・編集者さんが絵本に込めた思いを伺いました。赤ちゃん絵本を楽しむヒントが詰まったインタビュー、今回は、人気シリーズ「こぐまちゃんえほん」を担当されたこぐま社創業者の佐藤英和さんのお話をご紹介します。
「こぐまちゃんえほん」は、私の「日本の子どもたちが、はじめて出会う本を作りたい」という思いから生まれたシリーズです。
こぐま社というのは、私のあだ名からつけられた名前ですが、こぐま社が絵本を出すのに、こぐまのキャラクターが一番ふさわしいと思いました。絵をお願いしたのは、若山憲さんです。
以前『きつねやまのよめいり』を描いていただいた時に、その色に感動したからです。若山さんは、日本の風景には原色はない、みんな中間色なのです、とおっしゃっていました。私は、子どもがはじめて出会う絵本として、「こぐまちゃんえほん」の色は、日本ならではの色にこだわりたいと思っていました。
お話の中でいかにドラマ性をもたせるかというところでは、児童劇の作家である和田義臣さんに力を発揮していただきました。美しい文章に仕上げるために、歌人でもあり、ことばについての専門家でいらっしゃる森比左志さんに文をお願いしました。若山憲さん、森比左志さん、和田義臣さん、そして私の4人は、「こぐまちゃんえほん」を作るために毎週研究会を続けていきました。
会を重ねるうちに、こぐまちゃんの年齢は2歳にしようと決まりました。場面と場面を結びつけながら絵本を読む、ということができるのが、ちょうど2歳から2歳半だからで、そこの年齢を読者対象と考えました。ラッキーだったのは、若山さんのお子さんが当時、ちょうどその年代だったことです。若山さんには育児日誌のようなものを記録していただき、それを絵を描きながら話してもらって、みんなで話し合いました。
最初の3冊『こぐまちゃんおはよう』、『こぐまちゃんとぼーる』、『こぐまちゃんとどうぶつえん』を出版したのは、1970年のことです。私はこぐま社をはじめてまもなく、この絵本のシリーズを作ろうと考えましたが、実際にできあがるまでには、5年の時間がかかりました。
「こぐまちゃんえほん」シリーズの中でも、『しろくまちゃんのほっとけーき』は一番人気がある本で、これまでに299万部(2018年1月現在)売れています。この絵本がなぜこんなに子どもたちに喜ばれるのだろうかということを、私はずっと考え続けてきましたが、その答えはわかりません。けれども読者からの手紙を読んでいると、驚かされることがたくさんあります。
まず、この本を読んだあとには、「お母さん、ホットケーキ作って」という子どもが多いそうです。そこでお母さんが<ホットケーキの素>を使ってホットケーキを焼こうとすると、子どもは「お母さん違う! ちゃんとやって!」というそうなのです。
私たちはホットケーキの材料を、時代を経ても変わらないことばで、「卵、牛乳、小麦粉、お砂糖、膨らし粉」と表現しました。だから子どもたちは<ホットケーキの素>ではなく、絵本と同じ材料でちゃんと作ってよ、というわけです。
子どもたちに一番人気があるのは、「ぽたあん どろどろ ぴちぴちぴち」で始まる、ホットケーキが焼きあがるページです。私は、このページを4回読んでくれという子どもが非常に多いことに気がつきました。その理由は、次のページの「できた できた」という場面のお皿の上に、ホットケーキが4枚のっているから。1回読んだら1枚焼けて、2回読んだら2枚…、4回読むまでは、次のページにいけないのです。
このページを読んでもらっているうちに「いいにおいがしてきた」という子どもがたくさんいます。お母さんの中には、「絵本ってにおいまでするんですね」という感想をくださる方もいます。そして、「ぼくも食べる」といって食べる真似をしたり、「ママも食べなさい」といって食べさせてくれる子どももいます。
このようなことを考えていくと、絵本は、作者や編集者が作ったものではありますが、読者がこのように本を喜んでくれることによって、読みつがれて、生かされてきたのだ、と感じるのです。
※佐藤英和さんの著書『絵本に魅せられて』(こぐま社)を一部抜粋・引用の上、編集させていただきました。佐藤さんのお話をもっと読みたい方は、こちらをチェックしてみてください。
http://www.kogumasha.co.jp/product/516/ (こぐま社公式サイト)
「こぐまちゃんえほん」シリーズの中でも人気の『しろくまちゃんのほっとけーき』と『こぐまちゃんとどうぶつえん』の2冊のミニ絵本と、丈夫でかわいいキャンバストートがセットになった「こぐまちゃんおでかけセット」をミーテ会員3名様に抽選でプレゼントします。
プレゼントの応募は締め切りました。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
佐藤 英和(さとう ひでかず)
1928年生まれ。長崎県の島原で幼少時代を送る。1953年、神戸経済大学(現・神戸大学)を卒業後、児童書編集者を志して河出書房(現・河出書房新社)に入社、編集者となる。1966年、日本の子ども達のための創作絵本の出版社・こぐま社を設立。編集者として、「こぐまちゃんえほん」シリーズ、「11ぴきのねこ」シリーズ、『わたしのワンピース』など、多くのロングセラー絵本を生みだした。著書に『絵本に魅せられて』(こぐま社)。株式会社こぐま社相談役、公益財団法人東京子ども図書館監事。